望月 鏡翠
2021-10-15 02:47:32
938文字
Public 日課
 

#416 居場所

FF14創作/#毎日最低800文字のSSを書く

 ヒューラン族の子供が、ティカを追い越して走って行った。親の姿を見つけたらしい。迷子なのかと思って視界の端にその姿を留めていたが、心配なさそうだ。眩しいような心持ちで、自分の胸のあたりまでしかない後ろ姿を見送った。
 子供はマーケットで買い物をしていた父親の背中に飛びつくと、そのまま抱き上げられて歩き去っていった。ああやって、二人一緒に家まで帰るのだろう。
 もう長いこと家に戻っていない。料理を覚えたし、釣りができるようになった今ならば、家族に美味しい食事を振る舞ってやることもできるだろう。だが目の前に突きつけられる問題はいつだって予断を許さない状況にあり、手が空いたときですら道ゆく人に任される諸々の依頼をこなすので忙しい。
 結局、家に帰る時間をとることはできないままなのだ。
 気がつけば随分遠くまで来てしまっていた。物理的にも心理的にも、故郷は遠い場所である。冒険者になる前の自分はもはや別人で、世界がどんな風であるかを知ってしまった今となってはどうやって日々を過ごしていたのか、思い出すことすらできない。
 仮に故郷に帰っても、シルフ族の瞳孔が気になってしまうだろうし、森にイクサル族の気配を感じれば虫をすることはできないだろう。それに手紙を届けてくれるモーグリだって、素通りすることはできない。
 全くの別人になってしまった。それを他でもない育ててくれた両親に見られることが恐ろしい。既に血塗れになっている手で、平和な日常に触れることは躊躇われた。寂しくないと言えば嘘になる。だが、あそこは既に故郷ではあるがティカの居場所ではない。
 ならば、今のティカの居場所はどこだろう。
 思いを馳せたのはひと時のことだった。考えるまでもなく、決まっている。
 マーケットを歩く、広い背中が見えた。ティカからすれば立っていても胸のあたりに目線がくるその長身はしかし、彼の種族の中では中庸らしい。道のりをずっと共にしている、紛れもないその隣はティカの居場所だ。
 先ほど見かけた子供を真似して、ティカは助走をつけてその背中に飛びついた。
「ぬわっ! ティカ、ですか?」
 首に抱きつき後ろから頬擦りをすると、ケイムヴォルクは驚いてよろめいたあとティカの体を支えた。