望月 鏡翠
2021-10-13 18:56:52
1025文字
Public 日課
 

#415 本物

FF14創作/#毎日最低800文字のSSを書く

 店に押し入ってきた男は一人ではなかった。手に手に武器を携えて、店の中をぐるりと見回す。招かれざる客の訪れに、店内はしんと静まりかえった。物音を一つでも立てて、目をつけられたくはない。
「光の戦士、いるんならとっとと出てきな」
 店主が俺の顔をちらりと見るが、その視線に気づかないフリをした。どう考えても穏やかな要件ではない。名乗り出たら何をされるかわかったものではない。なんで英雄にあんな堅気でなさそうな連中が絡んで来るんだ。
「ミコッテの男だと聞いているぞ。早く出てこい!」
 店内にミコッテの男は、俺と隣の冒険者しかいない。
 万事休す。
 俺は隣の冒険者が余計なことを言う前に、声を上げた。そうでなくても店の中の全員が、光の戦士がいるなら名乗り出てくれと願っているに決まっているのだ。
「こいつだ。こいつが光の戦士だ」
 店主とミコッテの隣に座っていたルガディンの男が目を見開いた。だが当人はけろりとした顔をしている。状況がまだ飲み込めていないのか、間抜けな男だ。少なくともこれで隣の男を巻き込むことには成功した。リンチにされるにしても、一人ではない。
「そうだ。私が光の戦士と呼ばれている」
 隣の冒険者は立ち上がった。俺の言葉を一切否定しなかった。椅子から立ち上がり、男達の方に歩いていく。連れのルガディンの男がそれに続いて店を出て行った。
 闖入者が出て行ったことにより、店は一応の平穏を取り戻した。
「随分とせこい真似をするじゃないか、光の戦士殿」
 店主の皮肉に追い出されるようにして、俺は店を出た。あの冒険者は大丈夫だろうか。飛び出した俺の耳に入ったのは、呻き声だった。何かにつまずいて転ぶ。
 そこに倒れていたのは、店に押し入ってきたあの柄の悪い男その人だった。
 冒険者は、店を出たときとかわりない平然とした顔で立っていた。
「あの、嘘を着くのはよくないです。こういうこともあって、あぶないので……
 ルガディンの男が、曖昧な笑みを浮かべて転んだ俺に手を差し出す。こいつらが男たちをのしたのか? 俺が追いつくまでの一瞬で、全員を?
「あ、ああ」
 俺は怯えながら、手を借りて立ち上がる。
「騒がせてしまったな。そろそろ発とう」
「そうですね」
 夕暮れの闇に消えていく二人は、日暮れの荒野に出るモンスターも夜盗も問題にしてはいないように見えた。
 彼らが何者なのか、俺は最後までその正体も名前すらも知らないままだった。