望月 鏡翠
2021-10-10 21:13:10
1056文字
Public 日課
 

#412 英雄ならば

FF14創作/#毎日最低800文字のSSを書く

 人がよく通る広場にいるのは憚られたが、さりとて物陰に隠れていては頼みごとをする都合のいい冒険者を見つけられない。俺は財布の中身と見つめあって途方に暮れた。
 光の戦士を騙るようになったきっかけは些細なことだった。ある日街を歩いていたら、全く別人の名前で呼び掛けられた。俺は当然全く心当たりがなかった。それはどうやら巷で噂の光の戦士とやらの名前だったらしい。
 エオルゼアにその名を轟かせる神殺しの英雄、エオルゼアの守護者はどうやら白っぽい髪をしたミコッテだったらしい。頭の中で筋骨隆々の片腕でモンスターの首をねじ切るような大男だと思っていたから意外に思った。
 話が飲み込めなかったから、黙り込んでいた俺は結果として相手の言葉を否定をしなかった。そうこうしているうちに、どこぞの戦場——それは長く離れていた彼の故郷だったらしい——で戦ったことに対するお礼の品と、感謝の言葉を押し付けられた。ただ街を歩いていた岳の俺が受け取るには過ぎたる報酬だった。
 俺はどうやら光の戦士とやらに、似ているらしい。
 人々の憧れと尊敬を労せずして受け取ることができる。それは日常の楽しみが日暮れ後に飲む酒くらいしかないダメ人間にはあまりにも甘美な魅力だった。
 だから光の戦士だと名乗って相手の反応を楽しむようになったのだが、その場限りの酒の席のことだったし人からわざと金品を騙し取るようなことはしていない。していないつもりだ。
 それが昨晩限りのことで済まなくなったので、俺は困り果てていた。
 なら、一件依頼を受けちゃくれないか。
 そう言い出したのは、カウンターで俺の話を聞いていた酒場の店主だ。つまりその場にいる中で唯一の素面の人間ということである。まさかあんなに大口を叩いておいて、無理だなどと言えるわけがない。俺はこのときもノーとはっきり言えなかった。結果としてイエスと答えたことになり、討伐の依頼をこなさなければいけなくなった。
 本当にモンスターと出会したら、死んでしまう。だからどうにかして、俺が英雄でないということがバレないように、討伐を片付けないといけない。
 頼まれたことをせずに広場でだらだらとしているところを酒場の店主に見られるわけには行かない。全財産をかき集め、討伐を成功したら受け取れるはずの報酬と合わせて金額を算出する。この金で、誰かにやってもらうしかない。
 都合よく腕のいい冒険者は転がっていないだろうか。
 天にも祈る気持ちでまつ俺の前を通りかかったのは、昨日のあの冒険者だった。