望月 鏡翠
2021-10-10 00:50:42
1019文字
Public 日課
 

#411 巷で噂の英雄

FF14創作/#毎日最低800文字のSSを書く

 酒場で唯一空いていた席が、柄の悪い連中や威圧感のある大男の隣ではなく小柄なミコッテ族の隣だったので、俺は大いに安堵した。嬉しくて尻尾が左右に揺れる。一人で酒を飲むのは味気ない。どうせなら居合わせた人間と楽しく会話をしたいが酒が入って気が大きくなったときに、迂闊な相手に絡むと大怪我をする。
 その小柄なミコッテならば、喧嘩になっても勝てそうだった。いざとなったら上から体重を掛けて押さえつけてやればいい。
 エールを喉に流し込みつまみの脂で喉を潤すと、俺は上機嫌で話し始めた。
「な、お前光の戦士って知ってるか?」
 隣のミコッテの耳がピクリと動く。好反応だ。
 こちらに向けられた顔は、小柄な体躯から想像されるほど若くなかった。他種族から見れば、もっと幼く見えるのだろうが、俺は同族だから彼が自分よりも年上であることが何となく察せられた。
 俺と同じ明るい色の髪をしているが、その男は瞳孔が丸い。森の民の特徴だ。
「ああ、知っている」
 ため息まじりに、首を縦に振る。眉間にしわを寄せた表情は、到底英雄を思い出すときのそれではなかったが、俺はそれについては深く考えないことにした。
「そいつが今、お前の隣にいるって言ったらどうする」
 俺は胸を張った。
 男は灰色の瞳を見開いた。彼よりも大きな反応を示したのは、彼の後ろに見えているルガディン男性の方だった。一人だと思っていたが、隣の男も連れ合いだったらしい。背が高いのもそうだが、顔に傷があり食事をするとき以外は襟の高い服で口元を隠している。物言いたげにミコッテの袖を引いていたが、唇の前に指を立てるジェスチャーをされて黙りこんだ。
 俺は内心そのルガディンが怖かったので、話に首を突っ込んでこないらしいということがわかって安心した。
「君が光の戦士?」
 ミコッテは面白そうに微笑み、俺に話の続きを促した。
「そうだ。こんなところで会えるなんて光栄だろう?」
 エオルゼアの救世主である伝説の冒険者がここにいるのだ。同じ冒険者として憧れないわけがない。それで、では手合わせをなどと言い出されると、実は冒険者どころか武器を持ったことがない俺は一貫の終わりだ。だからこの話は気性が大人しそうなやつを見つけたときにすることにしていた。
 尊敬と羨望を一身に受けるのは気分がいい。
 ついでに酒をいっぱい奢ってくれれば、なおのこといい。彼が気前のいい人間であることを、俺は期待した。