その人は公園の入り口に立って惚けたように立っていた私にところに近づいてきた。周囲に他の人間はいなかったから、人違いではない。いつだって微笑んでいるような困ったような、ふわふわとした表情を浮かべているが、今はすがる場所を見つけたようなほっとした顔をしている。
これからも彼が店に客としてくるのだと考えると、そもまま無視をして通り過ぎるのはあまりにも態度が悪い。なんとか当たり障りのないことをいって、話を切り上げてしまいたかった。
「こんにちは。あの、近くの売店の方ですよね」
この人は私がどこの誰だかしっかりと覚えていたのだと、意外に思った。レジカウンター越しに向かいあっているときにも思うことだが、意外と体格がしっかりしている。彼自身の雰囲気が柔らかいから、威圧感を感じないだけだ。
「はい。何か御用ですか」
普段機械的な受け答え以外の会話を持たない相手だから、どんなテンションで受け答えしたらいいのかわからない。結果、相手から距離を取りすぎる冷たい言葉になってしまった。言葉のよそよそしさに戸惑うように、その人は少し離れたところで足を止めた。
「聞きたいことがあってですね。あ、あの僕、怪しいものではないです」
空のゲージを地面に下ろして、その人は懐から名刺を取り出した。現金と同じくらい旧時代的なツールだ。小さな紙にはマシュー・アップルヤードと書いてあった。何度来たか忘れるくらいに頻繁に店にくる人物の名前を知ると言うのは、それが初めての経験だった。名刺に書かれている職業は探偵。身なりが悪くないのに、スラム街のうろうろしているのはそう言う理由によるものだったらしい。
頭の中で白黒の髪の人、いつもの人としか呼べていなかった人の名前がわかった。それだけで、少し親しくなったかのような気分になってしまう。
「はぁ」
浮ついた内心を顔に出さずにうなずく。
「あ、でもいつも会ってますよね」
はにかんだように微笑まれて、思わず頬が緩んでしまった。変な人ではないことは知っている。人一倍礼儀正しくて、ただの店員に対しても丁寧だ。
「そうですね。どうしたんですか」
「この猫を探しているんですが、見ませんでしたか?」
猫なんてどれも同じに見える。しかし彼との話をそこで終わりにしてしまうのは惜しいような気がして、その猫の色柄を記憶の中から探った。
「知ってます。ここの公園で見たことが」
本当におぼろげな記憶だったけれど、少なくともこれで会話を終わらせずに済んだ。私はそのときもう適当に話を切り上げようと思っていたことを忘れていた。
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