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太公望と普賢
神さまを拾う
2023年9月17~18日開催のWJ版封神演義・夢作品限定ウェブオンリー「夢の国のデンキヒツジ」に合わせて書いた夢SSです。
舞台は現代。夢主はどこにでもいる普通の女の人。仕事もなにもかもうまくいかないことってありますよね…というときに、偶然ドドメと出会います。現パロとして読んでいただいても「たまたまふらっと遊びに来ていた始祖さまと神さま」として読んでいただいても、どちらでも。場所はあえて特定していないので、みなさんの近くにドドメが行くかもしれません。
「関西に入るのは夜中になっちゃうかな」
平日の夕方の高速道路はすいていた。
渋滞のない道を順調に進みながら、この先のサービスエリアでアイスコーヒーでも飲もう、なんて考えていた。
一年でもっとも昼が長い日は、人生でも指折りのついてない一日だった。
一カ月前から予定していたスケジュールは、朝から微妙に立て直せない感じに押していったし、クライアントは相変わらず話が通じなかった。無理難題を断る立場であるはずの上司は、調子がいいのは口だけで、こちらに都合よく責任を押し付けてくる。そこそこのキャリアがあって使いやすいと思われているのだろうけれど、だからといって給料が上がるわけではない。それなのに堂々と断る勇気もなくて、愛想笑いとリップサービスだけはうまくなっていく、そんな自分を嫌いになりそうだった。
ここ何カ月かは特に、がんばればがんばるほど空回りするし、ネットで見る占いはずっと最下位あたりをうろうろしている。休みのたびにどこかへ遊びに行きたがる彼氏に、休みの日ぐらい家でのんびりしたいと言ったら、それきりLINEは既読にもならない。いつも混んでる道路がすいていることだけが数少ない「ラッキーなこと」だ。
サービスエリアに入り、車を降りた。夏の風がここちよかった。アイスコーヒーと、ちょっと悩んでフライドポテトもオーダーした。せめてこれぐらい、自分にごほうびをあげてもバチは当たらないだろう。気持ちを切り替えて夜になる前に帰ろう。家の近くのコンビニでビールとおつまみ買って、帰ったらまずシャワーして。
そんなことを考えながらエンジンをかけようとしたとき、ふと視線を感じて顔を上げた。窓の外、駐車場のわきで少年が二人、もの言いたげにじっとこちらを見ている。高校生
……
大学生? 片方が手にしたスケッチブックには大きく「◎◎」と書かれていた。ああ、ヒッチハイクか。もう夏休みなのかな。学生なら時間はあるんだろうけど、それにしてもこの時間にまだここにいるなら、◎◎まで何日かかるんだろう。
いつもならスルーするのだけれど、彼らの目が捨てられた子犬みたいな必死さで「乗せて」と訴えていて、エンジンをかける手を止めた。押しに弱いところも悪いくせなんだよなあ。なにか企んでいるようにも見えないし、まあ大丈夫か。
あきらめて窓をあけ、手招きした。
「◎◎までは無理だけど、次のSAまでなら」
二人は顔を見合わせ、「ありがとうございます!」と満面の笑みで頭を下げた。後部座席に乗り込み、シートベルトをしたのを確認してから、ゆっくり発進する。
彼らは□□に住む高校生で、昨夜、試験勉強をしていたときにヒッチハイクを思い立ったという。さっき買ったフライドポテトを差し出すと、遠慮なく手が伸びた。空腹だったらしい。
「ほんとうはこの時間にはもう京都ぐらいまで進んでる予定だったんです」
「きつねうどん食べるつもりだったのだが、高速に乗るまでがほんと大変でのう」
「思った以上に止まってくれなかったねえ」
幼いころからいつも一緒で、いまも二人でいることが多いというだけあって、よどみなく交わされる会話が掛け合い漫才みたいだった。それぞれが遠慮なくぽんぽん喋っているように見えて、ちゃんと相手の思うところ、言いたいことをくみ取って、絶妙のタイミングで言葉を投げ返している。
「夏休み? ご家族にはなんて?」
二人はちらりと顔を見合わせてから、
「実は内緒です。模試に行くっていってそのまま出てきちゃった」
「まあ、これまでもふらっといなくなることが多かったし」
「望ちゃんと一緒なら、またかって感じで許してもらえるというか」
「わしのせいにするな、普賢。おぬしのそれは許されておるのではなく、あきれられておるのだ」
ああ、それで遠くまで行くにしては軽装で、小さなリュックをぷらっと背負っているだけなのか。
「普賢」と呼ばれた少年は「大荷物だとバレてしまうから」と声をひそめた。まるで重大な作戦を打ち明けるみたいだった。
それにしても、そんなに無防備に出歩くなんて、コンビニに行くときぐらいだ。大人は一泊二日の出張でも、まるで海外旅行に行くみたいに大荷物になるのに。
思わずそうため息をつくと、
「ええ、どうしてですか」
「だって
……
着替えとか、化粧品とか、困らないように準備するとどうしても増えるし」
「テキトーじゃいかんかのう
……
」
「大人はね、どこに行ってもちゃんと大人でいなきゃだから」
「大変ですねえ」
「ほんとほんと、毎日大変。指をパチンとするだけで、占い最下位をスパッと一位にしてくれる神様とか、どこかから出てきてくれないかなあ」
二人は声を立てて笑った。
それからも会話は尽きなかった。
夏休みの宿題を初日に全部終わらせるために、こっそり学校に泊まり込んで徹夜したこと。
夜中に食べたカップ麺がとてもおいしかったこと。
授業をサボって、理科室の冷蔵庫にあるペットボトルの水を全部桃ジュースにして怒られたこと。
バイト先の派手な常連客に呼ばれて自宅を訪ねたら、広いお屋敷の広い日本庭園にダチョウが飼われていたこと。
サボってばかりで大丈夫かと心配になってしまうエピソードの連続だけれど「望ちゃん」は「なに、そこはぬかりなく根回しをしておる」とニヤリと笑った。「普賢」も否定しないところを見ると共犯なんだろう。
いいなあ、こういうの。いいなあ。
お金はないけれど時間だけは腐るほどあって、どこか遠くに行くためにヒッチハイクしよう、なんて無謀な計画を思いつくことも、友達と一緒ならなんとかなると疑わない怖いものなし感も、彼らにとってはごくごく当たり前の日常なのだ。その身軽さと、大人の愚痴も笑いごとにしてしまえる無責任さが、ほんとうにまぶしくてうらやましかった。
大人の荷物が増える理由なんてわかってる。ちゃんとした自分でいるためのあれこれを、一泊二日の出張にも持って行かなきゃ落ち着かないのだ。そんな大人に、だれもがなっていくものだと思い込んでいたけれど、もしかしたら彼らはこの先も変わらず、このままかもしれない。
「関西に入るのは夜中になっちゃうかな」
「ま、それならそれでどこかで野宿でもすればよかろう。この季節なら凍えたりはせんだろうし」
「せめてネカフェにしようよ。けっこう快適に泊まれるって道行に聞いたよ」
「あやつ、またいらん入れ知恵を
……
」
「最近ハマってるんだって」
「あー、それでここのところいつもおらんのか」
ぶつぶつ文句を言いながら、それでも二人で額をつき合わせてスマホの画面に見入りはじめた。
午後七時近くになってもまだ空は明るかった。約束通り、次のサービスエリアで車を止めると、彼らは礼儀正しくお辞儀をした。どうやら近くにいい感じのネカフェを見つけたらしい。
「気をつけてね。無事◎◎に着けるといいけど」
「ありがとうございました」
ふと「望ちゃん」がリュックをごそごそと探りはじめた。そして「ガソリン代の足しにもならぬであろうが」となにかを差し出す。思わず受け取ったそれは、手のひらにすっぽりおさまるほどの
「なにこれ
……
桃
……
?」
「いかにも。とある仙人からもらったありがたい桃だ。桃は魔除けのチカラがある。日々の営みに疲れたおぬしも、これからどんどん運が上向くであろう」
「魔除け
……
? 仙人
……
? え?」
「わしは占いが得意だからのう!」
得意げに胸を張る「望ちゃん」の隣で「普賢」がくすくす笑った。
「占いはともかく、おいしいので食べてください」
「ともかくとはなんだ。わしの占いは当たるぞ?」
「はいはい」
バックミラーで二人の姿を確かめると、まだこちらに手を振っていた。窓越しにかるく手を振り返し、車内に満ちる桃の香りを深く吸い込んだ。みずみずしくて甘くて、ぱっと目の前があかるく開ける香りだ。
ほんとうに、運が上向いていくみたい。
どこかふっ切れた心持ちで、アクセルを踏み込んだ。
さっきの言葉を信じたわけじゃないけれど、占い最下位の底を思いっきり蹴って駆け上がれる気がする。
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