鳥瞰

文字書きワードパレットで「腐れ縁の食べ方」で緊張、見たことない、隠す、で望乙で。ありがとうございました!
封神台に入れることを、太乙から聞く太公望の話。
「これは十二仙と元始天尊さましか知らない」

だれかのひと言ぐらいで世界は変わらないし、要するにそれは結果論だろうと思う。でもそのときたしかに太乙の言葉は、太公望の中のなにかを変えた。
「封神台の中に入ることができるんだ。知ってるかい?」
一瞬、なにを言っているかわからず、すました横顔を見つめた。太乙は作業の手を止めてこちらをちらりと見、また手元に視線を戻して「入れるんだよ」と繰り返した。
「入れ……それは、つまり」
「封神される、ということじゃない」
混乱する思考を先取りして、太乙は説明する。
「あれは魂魄の保管宝貝だからね」
「しかし、」
「ちゃんと管理人もいるよ」
固まっている太公望に、太乙は淡々と告げた。
「これは十二仙と元始天尊さましか知らない」

急激に体温が上がっていくのを感じた。あの日、あの瞬間の、極度の緊張と身を抉られる痛み、絶望、喪失感や自責の念、一度は心の底に無理やり沈めたそれらが一気に浮上してくるようだった。
「なぜ、いまわしにそれを教える」
荒くなる呼吸を抑えながら、太公望は声を絞り出した。太乙はそうだよねと頷いた。
「私って隠しごとができない性質でさー。好きな人にはついうっかりしゃべっちゃうんだよね。特にこういう極秘情報は荷が重くって」
「ふざけておるのか」
太乙は「ふざけてなんかないさ」と目を細めた。
「言っただろう? 私には荷が重いんだよ」
「嘘をつくな」
取り乱しているとわかっているはずなのに、見たこともないほど冷静に、ぐいと太公望の胸倉を引く。
「正直に言おうか。はっきりいってイライラするんだ」
息がかかる距離で、太乙は低く囁いた。
「墓でも拝むような傷ついた目で、あれを見上げるきみが我慢ならないんだよ」
――――
「私たちの大事な仲間を、いつまでもそんな目で見るな。あそこにいるのは亡霊じゃない」
突き放され、呆然と立ち尽くしながら、太公望は頭のどこかで、はじめて自分の翼で空を飛んだ鳥を思った。視界が地面から空へと置き換わる――世界が一変する。
「わしが、」
太公望はぽつりと口を開いた。
「それを聞いたとして、わしがあそこに入り浸るとは思わんのか」
太乙は顔を上げないまま、「へえ、」と呟いた。
「仮にそうだとして、誰かが会ってくれると思ってるの」
苦笑してゆるゆると首を横に振った。目的を見誤ってはいけない。彼らは道半ばで離脱したのではないのだから。
「仕方ない。これもわしとおぬしの縁だ。片棒を担いでやろう」
頼むよと太乙も笑った。
「私には重荷の極秘事項も、きみならうまく使えるだろう?」

入り方をくわしく教えてくれと太公望は言い、太乙はペンを取った。迷いなくさらさらと描かれるのは封神台の簡単な構造、そして入り口の仕組みだ。
「まず管理人に挨拶をするんだ。柏鑑という。行先をいえば切符をくれる――
そして二人は額を合わせて密談をはじめた。