Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
instant
Public
太公望と普賢
神様の居場所
文字書きワードパレットから1「容易く運命」で初対面、呆れ、ありふれた、で伏普。ありがとうございました!
神様を探す人の話。モブ視点。
「あなたが本当に求めているものとは何ですか」
研究室の窓は西側にあって、まぶしい西日が部屋全体を照らしていた。
「人の思惑を超え、人生に影響を与える見えざる力。ときに幸であり不幸であったりするが、それらすべてを運命、さだめというそうです」
初対面のその人は窓を背に座り、ゆったり足を組んだ姿勢で話しはじめた。目の前の机には厚い専門書が数冊。それらの隙間から覗きこむ目がどこか子供じみた印象なのは、本人が幼く見えるからか、この部屋が子供部屋に似た雰囲気だからか。
壁に据え付けられた棚も床の上もさまざまな物であふれている。一見ガラクタに見えるそれらは、遺跡や神殿などから持ち帰った貴重品だというが、道で拾った石や瓶の蓋を大事にとっておいた散らかり具合だった。
「不思議なことに、人は集団で暮らし文化が形成されると、そこに人知を超えた存在を置きたくなるらしい。運命はあらかじめ大いなる存在によって決められている、という逸話は数えきれないほど存在します。少々の違いがあるにせよ、古今東西似た神話が生まれる傾向にあるのがとても不思議で、それで研究テーマに選んだ次第です」
なるほどと相槌を打ちながら、ノートにペンを走らせる。彼の椅子の横に神社の狛犬のように鎮座しているのは、どこかの遺跡で掘り出した神像のレプリカだ。なにかの動物をデフォルメしたずんぐりした形で、ぎょろりと見張った目がこちらをじっと見ている気がした。
専門は宗教学と聞いているが、民俗学に近いのかもしれない。世界各国、聞いたこともない少数民族にまでフィールドワークを行っていて、研究室に戻ることはまれであるらしい。今回たまたまタイミングが合ったけれど、それすらも彼は「これも運命」と笑った。
「こんなことも運命なら案外、よくあることなのかもしれませんね」
ありふれた雑誌のインタビュー程度で大げさだなと内心呆れつつそう返したが、彼は「その通り」と満足そうに頷いた。
「さりとて、本当に求めているものには出会えないのもよくある展開で、これがなかなかもどかしいのです。神が運命を決めるという神話になぞらえるのであれば、探している間はすっかり隠しておくのが、神たるものの性格なのかもしれませんが」
本棚に無造作に置かれている何かしらの木片は、世紀の大発見と新聞各紙を騒がせたばかり。世界中くまなく歩き、これまで知られていなかった神話を掘り起こしてさえ、見つからないものとはいったい
……
?
「あなたが本当に求めているものとは何ですか」
その問いに彼はふと黙り込んだ。たくさん抱えた答えのなかからたった一つを慎重に選び出している、といった面持ちだった。西日がわずかに色を濃くするほどの時間を経て、
「わしにとっての、神でしょうか」
「
……
神」
「わしにとっての、わしだけの神です」
よくわからず首を傾げる。
「わしにしか見えぬくせに、探しているときにはついぞ姿を見せぬ。もうすこしというところでするりとその手をほどかれる。目を凝らし、耳をすませているが、まったく翻弄されてばかりだ」
その口ぶりは、概念としての「神」ではなくなにかしら実在するものとのやりとりを想像させた。
「まるで会ったことがあるようですね」と笑うと「確かに」と彼も苦笑した。
「窓から入る風にも、信号待ちをしている街角にも、砂に埋もれて忘れ去られた遺跡にも、その声を、姿を探していますが、そうしているうちは見つかるつもりはないのかもしれない。過ぎてから気づくそれを運命と名付けた古の人たちの気持ちが、わしにはよくわかります」
どこかで見つけたら知らせてくださいと名刺を渡されたが、もちろん心当たりはない。長い年月が過ぎ、もらった名刺が色褪せる頃、彼が消息を絶ったとニュースで知った。
どこにもいないようで確かにいる自分だけの神に、ようやく出会えたのかもしれない。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内