エラー

文字書きワードパレットから、21:00の乙普で「降参」「画面越し」「叶う」
ありがとうございました!

「おかしいなあ!」

おかしいなあという声に、普賢はため息をついた。さっきからかれこれ二十三回目だ。目の前の四角いモニターに映るのは、水底を覗きこんだみたいなゆらゆらした砂嵐で、スピーカーからは耳ざわりな雑音が流れては途切れ、また流れる、を繰り返している。「接続はされているんだよな」と、これももう十五回目。隣に立って黙って見守っていた普賢だったが、さすがに飽きてきて「根本的にどこか問題があるんじゃないの」と口を挟んだ。
「私が作った宝貝に、問題なんかあるわけないじゃないか」
不機嫌そうに反論しながら、太乙はモニターから目を逸らさない。
蓬莱島と神界を結ぶ通信宝貝という話だった。
「これから連絡を取り合うことになるだろうけれど、そのたびにいちいち行き来するの面倒だろう?」
そういって自称・宝貝の匠はものの数日でそれを作り上げた。映像と音声をつないで、簡単な会議ぐらいならできるという。宝貝を担いで意気揚々と設置にやって来たところまではよかったが、映るはずのものが映らず、聞こえるはずのものも聞こえない。テストをすることは伝えてあるから、蓬莱島で教主が待機しているらしいが、それらしい姿も声も届かないのだった。
「おかしいなあ!」
二十四回目のそれを叫んで、太乙は椅子にふんぞり返った。
「むこうではうまくいったんだよ」
「なんでだろうねえ」
仕組みがわからないから手伝いようもないが、無関心でいるのもなんなので、とりあえず普賢も考え込むポーズだけはしてみる。
「宝貝は問題ないから、神界のシステム側の問題だよきっと」
完全に他人のせいにして、太乙は腕組みをした。
「だってほら、神界なんてもの自体がよくわかんないんだけど!」
「そうなの?」
きみだってそうだよと太乙はぴしりと指さした。
「そもそもなんだよ、魂魄体って。目の前でこうして会えて喋れるのに、触れないってどういうことだい。存在するのかしないのか、はっきりしてほしいね!」
そんなこと言われても。(これ、八つ当たりだよなあ)
「どんな形であれ、ここに僕がこうしているんだから、魂魄体でも存在するにはちがいないよ」
なかばうんざりしている普賢に、太乙はなにやらにやりと笑って
「じゃあ確かめようか。ほら」
「は?」
ここ、と指さすのは自身の唇。
「キスしてみてよ、普賢」
「なんで」
「存在しているというなら、ぜひ私もきみを実感してみたいね」
「しなくていいよ」
「この通信不具合の解決になるかもしれないし」
「いや、ならないと思う」
「ほらほら、ちょうど誰も見てないし?」
「人の話、聞いてる?」
椅子に腰かけたまま、んー、と唇を突き出して待つ人の、その恰好があまりにも子供じみていて、普賢はやれやれと肩を竦めた。降参。そういえばこの人はこうやって人の気も知らずぐいぐい押し切っていったんだ。あまりにもなにを考えているかわからなさすぎて、なにも起こらなかったけれど(まあ、少しだけなら)
そっと身を屈めた。触れているのか、触れていないのか、それでも今までで一番近づいた気がした。心の奥の深いところがわずかにあたたかくなる。さながら羽毛がふわりと舞い落ちるような。
願いが叶うときって、こんなに気持ちがいいものなんだろうか。

がさりという音が画面越しに聞こえて、普賢ははっと顔を上げる。さっきまでざらざらした砂嵐だった画面に、はっきりくっきりよく知った顔が映っていた。
…………公衆の面前でなにをやっているんですか、あなたがたは」
「あれ、直ったみたいだね!」

しれっと言って太乙はモニターに向き直り、普賢は耳まで真っ赤になってその場にうずくまった。