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混線
文字書きワードパレットから、燃乙で「絡まったノイズ」 なんとなく 消せない 深いところで
ありがとうございます!薄暗い燃燈×太乙。燃燈落下直後。
「くそったれ」
重力とは、地上の物体をその中心へ引きつけようとする力である。ここに存在している限り、それに抗うことはできない。
痛みに目を覚ました。頭がずきずきと痛む。眩しさにゆっくりと瞬きをくり返していると、医師がひょいとのぞき込んで、ああと気のない声を上げた。
「まだ起きなくてよかったのに」
まわらない頭でぼんやりと記憶を辿る。ラボにいたはずだ、今作っている宝貝に手こずって、頭を悩ませながらぐしゃりと設計図を丸めた、ところから記憶がない。
「何日ぐらい寝ていなかった?」
頭上から問われたが、返事をする気はなかった。何日かなんて、そんなのいちいち数えているはずがない。心の声が聞こえたわけではないだろうが「頭の傷は処置しておいたから」とだけ言って、別室で別の用事をしはじめたようだった。そもそも興味なんかなかったのだろう。しんと静まり返った病室はどこまでも無機質で、人の香りがしなかった。
ここなら眠れるだろうかと、目を閉じる。閉ざされた薄闇はなにも映らない薄闇で、太乙はほっと胸をなでおろす。
何日も前から、目を閉じると眼裏にひとつの光景がフラッシュバックする。その場面だけが壊れた映写機のようにくり返し映し出されるのが苦痛で、次第に太乙は眠るのを拒むようになった。雲中子はわかっていたのだろう。いい年をして眠れずに倒れるような体たらくに、呆れたにちがいない。
「重力は
――
」
呟いて両手で顔を覆った。まだ瞼の裏には薄闇しか映らない。
それはひどくゆっくりに見えた。
重力は、地上であろうと仙人界であろうと、変わらないはずなのに、まるで時間が止まったようだった。一度たりともこちらに視線を向けない、のろのろとスローモーションのように落ちていくそれが見えなくなっても、なんの痛みも感じなかった。誰かが彼の名を叫んだけれど、太乙はただ「へえ、」とだけ思った。
真相はわからない。師との間になにかがあったんだろうが、なんとなく、それは彼が自分で選んだという確信があった。そうか、きみはそうするつもりだったんだね。彼の最愛の異母姉も、そう思っていたようで、凛と見つめる瞳に悲壮感はみえなかった。真相を解こうとする輩もいたが興味はなかった。彼がわざと絡ませたものを、ほどいてやるほど親切でも暇でもない、そう信じていた。
だからこそ、脳裏にくり返し映し出される映像にうろたえた。
記憶が消せないのは、二度と同じ目に遭わないための、脳の防御本能だと聞いたことがある。ダメージが大きいほど、心の奥の深いところで幾度も繰り返されるのだと。それほど辛かったかと訊かれれば、そうでもないと答えた。そうでもない。彼とはそんなに親しかったわけではない。単に何度か寝たという、それだけだ。それなのに
「
……
なんで」
隣の部屋から「それは」と返ってきて目を開けた。
「重力のせいじゃないかな」
重力。すべてを中心に引き寄せようとする力。眼裏に焼き付くそれをも引き寄せ取り込む、強力で我儘で、魅力的で抗えない力。どれだけもがいても両足をがんじがらめにされる
――
「くそったれ
……
」
意図せずもれた呟きすら、重さをともなって床にこぼれた。
了
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