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カレイドスコープ

乙普←太公望。どの角度から見るかによって変わる関係。
「普賢が迷惑するであろうが」

前触れもなく訪ねてきた客を、太乙はちらりと横目だけで確かめた。そのへんにお茶あるからてきとうに自分で淹れて飲んでってよ。それだけ言って顔を上げようともしない。ムッとしながらも、太公望は小さめの鉄瓶を手に取った。中身は空。無言で水を汲み、火にかける。湯が沸くにはしばらく時間がかかりそうだった。
「聞いたぞ」
勝手に湯呑みを探しながら、太公望は洞府の主に呼びかけた。
「普賢と別れたというのはほんとうか」
「あー……
背を向けたまま、生返事をするが、おそらくちゃんと聞いていない。
「だれに? 普賢がなんか言ってた?」
「いや、そのへんの噂になっておる」
めんどくさいなあとひとりごちて、工具で頭の後ろを掻く。
「だれが付き合おうが、別れようがどうでもいいだろう?」
「普賢が迷惑するであろうが」

「普賢真人様はいま、恋人がいらっしゃらないのですか」
ここのところ、顔を合わせるだれもが太公望にそれを訊ねる。そしてだれもが言うのだ、「もしお一人であるなら、こちらから思いを告げても問題ないですよね」
しらんわ、勝手にしろ、とうんざりしながらあしらったが、自分自身の心の奥が、にわかにざわりと音を立てたのにも気づいた。
(それなら思いを告げても)
へー、友達想いだねえ。手を止めもせずに、太乙は笑った。
「そもそもなに。いつから普賢と私が付き合ってることになってたの」
「ちがうのか。もしそうであれば、気落ちしているだろう普賢を、わしが慰めてもよいわけだな」
太乙はようやくくるりと椅子を廻してこちらを向いた。
「体の関係がどうでもよくなったのは本当さ。もう私はあの子を抱かない」
目を瞠った太公望に、太乙はにやりと笑う。
「それを別れたといわれるならそれでもいいけど、そんなのは私にとってはどうでもいいことなんだ。……普賢にとってもね」
わかるかい? それだけ言って、太乙はまた背を向ける。
「お湯、沸いたよ」
鉄瓶が白い湯気を吐いている。太公望は眉間の皺を深くして、火を止めた。腹立ちまぎれに茶葉をいつもの倍ぐらい入れて、湯を注ぐ。甘い香りを漂わせるそれを置いたまま、太公望は部屋を出て、乱暴に扉を閉めた。