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摩天楼
付き人玉鼎×主人普賢。財閥パロ。
彼は苛立っていた。
約束の時間をずいぶん過ぎたのに、お茶の一杯も出てこない。ビルの最上階、一面ガラス張りの会議室は確かに眺めがよかったが、それに気をよくしていたのは最初の二十分ほど。時計の針は容赦なく進んでいく。これは軽んじられていると感じても仕方がないと思うのだ。
支援を乞うたのはたしかにこちら側だ。それにしたって怪しい儲け話などではないし、社会貢献として、十分価値のある話だと自負している。名の知れた財閥が取るには、あまりにもお粗末な態度ではないか。
(確かに歴史はあるんだろうけど)
有無を言わせないワンマン体質が、今の時代にそぐわないという噂も聞かないでもない。どうせ古臭い狸親父が趣味でやっているんだろう。苛立ちを紛らわせるために、そんな不快な想像をぐるぐると巡らせていた。
彼の中途半端に高級な時計の、長い針が一周回ったころ、ようやく扉がノックされた。やっと来た。なんと厭味を言ってやろうか。そう思いながら立ち上がる。
扉を開けたのは長身の男だ。上下濃紺のスーツを着込んでいる。隙のない立ち居振る舞い。これが話題の御曹司かと思いかけたとき、
「待たせてしまったね」
鈴のなるような声音が聞こえて、男は目を瞠った。どう見ても若造。こんな感じのがうちの息子の友達にもいる、というような、二十代に届くかどうかというほどの若者だった。やわらかな物腰で、先ほどの長身の男が引いた上座の椅子にゆったりと座る。足を組む仕草が、どこまでも優雅だった。
言葉を失っている相手に、若者はにこりと笑いかけた。
「企画書は拝見しました。いいですね。お手伝いしましょう」
一瞬かたまった彼は、はっと意識を取り戻し、深々と頭を下げた。
「ご理解いただけて恐縮です。われわれの運営にはこういうご厚意が不可欠でして
……
」
そうでしょう。若者は頷く。
「わかります。なかなか上層部がうんと言わなくてね。説得に手間取ってしまった」
「それは
……
恐縮です」
それでね。若者の言葉に応えるように、背後に控えていた長身の男が、すっと書類を一枚差し出した。
「説得はしたんだけど、会計が不明瞭だという意見が多くてね。これを詳らかにしてから、という条件を付けさせてもらったよ」
は、と彼は顔を上げ、書面に目を通し、そして絶句した。
金はやる。会計の権限はこちらに。要するにそういうことだった。
「いや、これでは、」
「無理なら仕方がないね」
間髪入れず、下げられようとする書類を、彼は慌てて引き留める。
「わかりました! では社内で検討してからお返事を
…
」
「検討?」
一瞬前までおだやかだった表情がすっと曇る。悲しげに伏せられる目には涙が浮かんでいるように見えた。
「
……
玉鼎」
はい、と男が返事をする。そして彼が掴んでいた書類を取り上げ、目の前で真っ二つに破った。
若者は言った。
「自分の権限でどうにもできないことを、僕に頼みにくることが間違いだったね。今度はトップを連れてきて」
空調は効いているのに、夏じゃないのに、彼の背中を滝のように汗が流れる。
若者が立ち上がり、部屋から出ていくのを、彼は茫然と見送るしかできなかった。
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