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春風
書きかけ現パロ乙普です。中学校の先生太乙×幽霊普賢。
「普賢。幽霊のくせにうるさい」
時計の針がきっかり8時を指すと同時に、彼は姿を現した。気配を察して顔を上げ、そして興味なさそうに手元に目を戻す。
「出勤ご苦労さま」
「
……
せっかく来たのに、何その態度」
呼んだわけじゃないのにのこのこ出てきて、何その態度と言いたいのはこっちのほうだ。
「太乙はまた残業? 大変だね、薄給なのに」
「余計なお世話。今試験前なんだよ。邪魔しないでおくれよ」
そうなの。忙しいの。最近何が流行ってるの。今何がおいしいの。矢継ぎ早に話しかけるそれに、太乙は大げさにため息をついた。
「普賢。幽霊のくせにうるさい」
太乙が非常勤講師として勤めている小さな中学校には、普段使っている校舎の裏手に、古い木造の旧校舎がある。文化財的な価値があるらしいが、古くて不便だから、今は授業に使われることはなく、人もめったに寄り付かない。それとは別に、生徒たちが近寄りたがらない理由の一つに「幽霊が出るから」というものがあった。大昔、理科室で実験中に事故があり、その時亡くなった男子生徒の霊が成仏できずにさまよい出るのだと、上級生から下級生へ、まことしやかに語り継がれていたが、学校の歴史をひもといてみても、そんな事故があった事実はないから、学校の怪談のデフォルトなのだろう。
それはさておき、誰も近寄らない、ゆえに静かだというところに目をつけて、太乙は誰にも邪魔されず作業に集中したいときや、昼寝をしたいとき、旧校舎の理科室に忍び込む。しんとしたこの場所が、いわば自分だけの秘密基地みたいになっていた、のだけれど。
(本当に幽霊が出るなんて)
彼は普賢と名乗った。まさかほんとうに事故で亡くなった生徒の霊が?と戦慄したものだったが、本人は涼し気な顔で「そんなわけないでしょう」と肩を竦めた。
「僕はここの生徒じゃなかったし、事故で死んだわけじゃないよ。単なる病気」
しょうがないよね。うっすら透ける姿で首を傾げる。
「じゃあなんでこんなところに出てくるの」
「だって、いつも人がいなくて静かだし、それに」
太乙のそばにふわっと近寄って、にっこりと笑いかける。
「あなた、いつも楽しそうだったし」
私のせい? なんとも腑に落ちないまま、気が付けば太乙がここで過ごしていると、彼は決まって姿を現すようになった。最初こそ出てくるたびにびくびくしたものだが、頻繁に顔を出すものだから、幽霊というより完全に単なる顔見知りになっている。
いわゆる「書生」のようないでたちだから、おそらく命を落としたのはずいぶん昔なのだろう。それだからか、今の時代がどうなっているのか知りたがる。おいしい食べ物、人気の風俗や書物、音楽について根掘り葉掘り聞く。
「そんなに気になるなら見に行けばいいじゃないか、幽霊なんだからふわふわ飛んでどこへでも行けるだろう?」
そう言ってみたが「そんな都合のいい幽霊なんていない」と普賢は頬を膨らませた。
「あのね、僕はここについてるの。だからそんなあちこち出歩くわけにはいかないんだよ」
幽霊の世界の常識なんて知らないけれど、どうやら縄張りみたいなものがあるようで、普賢はどういうわけか、ここから離れることはままらないそうだ。
(続く)
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