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ちいさなあなた

天廻里弌さんちのビーカー入り普賢さんを題材に使わせていただきました~
ちいさい普賢さん(偽物)の話です。
「普賢……なぜこんな手のひらサイズに」

得体の知れないガラクタをかきわけて踏み入った研究室で、太公望はなにやら形容しがたい声を上げた。書きかけて途中でやめた意味不明なメモの切れ端やら、薬瓶やらが散乱する机の上、大きめのビーカーにその目が釘付けになっている。
「なんだこれは……
「ああそれ」
まるで興味がなさそうに、雲中子は見向きすらしない。
「バクテリアだよ」
「バクテリア」
そうそう。
「それをもとにして生物薬を作るんだけど」
…………これで?」
「それがなにか」
なんでもないような態度の仙人と、目の前のビーカーとを何度か交互に見てから、太公望は口を開いた。
……それがなんで普賢?」


ビーカーの底にちょこんと座り、こちらを見上げているのは紛れもなく普賢真人その人だった。空色のふわふわした髪も見上げる瞳も、いつもの見慣れた姿。違うのはサイズだけだ。
「普賢……なぜこんな手のひらサイズに」
「だからバクテリア」
雲中子が呆れたように繰り返す。
「そのままだと味気ないから、普賢に似せてみたんだ」
「わけがわからん。なぜ普賢なのだ」
「誰でもよかったんだけど」
……だったら別に普賢でなくてもよかろう」
「別に普賢でもいいだろう?」
ふんと大きくため息をついて、雲中子はようやく顔を上げた。
「こないだ普賢がたまたま来たから、写させてもらったんだ。それだけだよ」
噛み合わない会話をあきらめて、太公望はビーカーを覗き込んだ。しげしげと見るほどに、それは小さな普賢だった。ご丁寧に小さな太極符印まである。こちらを見上げてくるエンジェルスマイルが、いつもよりも増量気味に感じるのは、サイズによるものだろうか。
(ああ……
うっかりかわいいと思ってしまったことを悟られないよう、太公望は咳ばらいする。
……なにもこんなところまで似せなくとも
「試しにやってみたらできたんだよ」
「都合よくできすぎだろう
普賢なのは今日までだよと、実験の手順を説明するように淡々と話す。
「明日以降は?」
「宿主としてほかの種菌を植え付けるから、もとの状態に戻るだろうね」

少しばかりがっかりして、太公望はまたビーカーの中の普賢を見つめる。
にこにこと見上げてくる普賢は、ガラスの壁を両手でペタペタ触ってみたり、よじ登ろうとして滑り落ちてみたりと、思わず目じりが下がる愛らしさだ。
これが今日までとはもったいない。ここにいるのは確かに小さな普賢なのに。
「なんならわしのところで飼ってやってもよいぞ」
……なにわけのわからないこと言ってるんだ。バクテリアだよ?」
身もふたもないことを言って、雲中子は冷めた目を太公望に向ける。


「雲中子いるー?」
雲中子が返事をするよりも前に、勝手知ったる部屋に入ってきた太乙は、先客に「やあ」と笑いかけた後、それを目ざとく見つけた。
「なにこれー?普賢?」
……のカタチをしたバクテリアだと」
へえええ、といかにも物珍しげに覗き込む。
「相変わらずだねえ、雲中子。趣味悪い」
「悪かったね」
言われ慣れているのだろう、別段気を悪くしたようでもないようだった。
ほうほうと、あちこちから見て、太乙はそれでも「すごい」を繰り返した。
「ほんと、無駄に器用だよね。まるっきり普賢」
「難しくはないよ。きみにだって作れる」
「私はこういう生々しいのはいいかなでもさ、これ」
ちょんと指先で小さな普賢の頬をつついて、顔を上げる。
「本物とはちょっと違うね、やっぱり」
「ほう。どのあたりが?」
太公望が見たところ、何らかの薬で小さくさせられてしまった普賢だと言われれば信じてしまいそうなほど、そのまんまなのに。
太乙は、だって、と顔を上げた。
「普賢、普段こんなに笑わないだろう?」
いつもこれだけかわいげがあるといいのにねえ、と呟く太乙に「は?」と太公望と雲中子は顔を見合わせた。え、と太乙も瞬きをする。
「なに?」
しばしの沈黙の後、太公望は「さて帰るとするか」と立ち上がり、雲中子も「明日の準備を」とそそくさと別の部屋へ向かう。

「え?え??なにそれ。私、なんか言った?!」

一人残された太乙を、にこにこと見上げるのは、小さな小さなエンジェルスマイル。
普段決して向けられることのない微笑みに、太乙は頭を抱えた。