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リスキー
「愛したこともないくせに」で始まり、「そっと立ち去るのです」で終わる玉乙普の物語。乙普←玉バージョン。
「愛したこともないくせに」
嘲りの色を含んだ声の主を、太乙はじっと睨みつけた。
「どういうことだよ」
声が震えそうなのを隠そうとして隠し切れなかった。視線の先で、洞府の主は俯いて背を向け、同僚は軽くため息をついて身を起こした。
「
…
どう見える?」
見たままだが。彼は低く笑う。言いながら手元の杯に酒を注いでひと口呷った。目を逸らさず睨みつけたままの太乙を、一度も見ようともしない。
「私たちがどこで何をしようとお前には関係ない。普賢の話だと、お前は普賢とは何もないということだったし。もしそれが違うのだとしたら、文句は普賢に言うんだな」
「なに
…
」
玉鼎はようやく顔を上げた。
「
――
愛したこともないくせに。お前にとやかく言われる筋合いはない」
最後まで聞かず、太乙は踵を返した。扉を閉める乾いた音が大きく響く。洞府にも、耳の奥にも。
足音が遠ざかっていくのに合わせて、小さく息を吐くのが聞こえた。
「どういうことだ、普賢」
玉鼎は顔を背けたままの普賢に、さっき自身が問いかけられたのと同じ言葉を返す。
「とりあえず話を合わせておいたが」
そういうと、普賢はますます俯いた。
二人の間になにかがあったのだろうということは、両者の表情を見れば想像がつく。どちらともまだ気持ちの整理がついていないことも。
相談したいことがあるから洞府に来てほしい。そう頼まれたのは数日前だ。足を運んだ先で、だが普賢はただ「もう少し待ってほしい」と言うだけでなにも話さない。卓の上には、手つかずの酒器がひと揃い。誰かが来る予定だったのではないかと訊いても、無言で首を振るばかり、そんなときに現れたのは、普賢と親交の深いと聞いている同僚だった。
であれば、この酒器は彼と嗜むためのものだったはずだが、どうやら歓迎しているわけではないことは、普賢の態度から明らかだった。
――
だから話を合わせた。
だが、「
…
はっきり言って不愉快だな」
びくりと普賢が肩を震わせた。
「ごめんなさい」
ずいぶん経ってから、普賢は消え入るような詫び言を吐く息に紛れさせた。
「でも、もうあなたに迷惑はかけないから」
そのひと言に、玉鼎は苦笑いを浮かべる。
「迷惑か。
…
そうだな、確かに迷惑だ」
例えば
――
言いながら、玉鼎はゆるりと普賢の肩を引き寄せる。反射的に身を引こうとした腕を抑え、長椅子に横たえた。
「
…
聞いてもいなければ聞きたくもない、太乙との関係を匂わせる場面に私を利用することも、それを迷惑だと、私に臆面もなく告げることもな」
「玉鼎、」
「太乙とはなんでもないと、そう言ったのが嘘でないのであれば、今ここで私がこうしてお前を抱くことも問題ないわけだ。だれを気遣う必要もないのだから」
ちがう、と言いかけて、普賢は言葉を飲み込んだ。違うとも正しいとも言えないことは玉鼎もわかっている、むしろそうなるように仕向けたのだ。普賢は、太乙がこの場を去ったことで乗り切ったと思っているようだが。
「猿芝居をさせられた代償は高いぞ。そうだな
…
一度では到底納得できんな」
首筋に口づけながら囁くと、普賢は腕の中で身を捩った。
「そういうことじゃ、」
「ないというのなら、どういうことだ」
言えぬなら身体に訊くしかないだろう。するりと袷から手を差し入れる。震える肌に掌を滑らせて、背中から抱き込んだ。
「お前が望んだことだ」
眦から零れ落ちる一筋を舌で掬い取り、耳に口づける。名を呼びかけたのはそっと立ち去る足音を聞かせないためだった。
了
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