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さよならの準備
望普。太公望のもとへやってくる普賢、らしきもの。
狭いベッドにも 海のような距離
重みと熱を同時に感じて、普賢は息を吐く。見上げた先で、彼がいつもの気難しい顔で自分を見下ろしている。
何を考えているんだろう。昔から、いつも分かるようで分からなかった。分かったふりをしているのを、彼は知っているのだろうか。もう何年も、胸の奥に潜ませた疑問は、今も口にできずにいる。
名を呼ぼうとして、与えられる衝撃に思わず喉を震わせる。背を伝う汗は冷たく、そこを辿る指も冷たい。ただ、結びつく部分と、首筋にかかる互いの息だけがどうしようもなく熱かった。熱いのに、それは身体に熱を伝えず、一瞬で冷めていく。冷めてしまうのが怖くて、普賢はただ夢中でその身体にしがみつき、熱を求めた。
「おぬしは」
ふと、動きを止めた彼はそう囁いた。
「いつまでこうしてわしのところに来るのだ」
思いがけない言葉に、普賢は上がる息を止めて、彼を見つめ返す。
深い深い夜空のような黒い瞳に、今まで見たことのない色があるのを、普賢は見つけた。
望ちゃん、
そう声にした、つもりだった。
彼は自分を見つめている。そして哀れむように、呟いた。
「
………
気がすんだか、普賢」
確かに涙が流れた気がしたのに、頬を伝う感触がなかった。普賢は目を見開く。
「おぬしがこうしてここに留まっておると、わしはどうにも苦しくていかんのだ」
だから。
「もう終わりにしよう」
その瞬間、太公望の腕から僅かなぬくもりが消えた。
記憶の中に残るその欠片を思い出し、長く深く、太公望は息を吐いた。
できることなら、いつまでも手元に残しておきたかった。幻でもなんでもよかった。
でも、それをしなかったのは、彼があまりにも悲しげに自分を見上げるから、そして、彼が本当にいるべき場所を見失っているのが、あまりにも切なかったからだ。
繰り返し、繰り返し息を吐く。震えるのを堪えるように、太公望は唇を噛む。
身体の奥に燻る彼の熱を思い出し、冷たい膝を抱いていつまでも蹲った。
了
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