嗚咽を溢し、吐き気を堪え、フローリングに染み渡ろうとする血液を拭う。自分たちの生活が穢されてしまう気がして、ひたすらに床を拭って、拭いて、元通りにして。それでも戻らないことが分かっているから、手が止まらない。
母さんはベッドに移動済みで、どうしようもないことは分かっていたけれど、保冷剤をあるだけ置いていた。酔っぱらったときに肩を貸すことがあったけど、そのときとは比べ物にならないくらいに自分にかかった重さが軽くて、軽すぎて。それなのに耐えきれなくて、母さんを持った腕が震えた。その感覚を忘れようとして、腕を身体を動かし続ける。
「順平、その辺にしといたら? お風呂、入って来なよ」
労わるように、宥めるように、落ち着いた声が降ってくる。見上げれば、真人さんが心配そうにこちらを覗きこんできていた。
「服、着替えたほうがいいし。……血まみれだよ」
僕は床に膝をついたまま、自分の恰好を見下ろした。視界が、ぐわんぐわんとまだらになって……揺れる心地がする。真人さんは、そんな僕の腕を掴んで引き上げた。
手を引かれ、まるで介護されるみたいにして、自分家の浴室に辿り着く。そしてそこに一人、取り残される。空々しいくらいに眩しく思える電灯、その光がタイルに反射していた。
一人っきりなのが、異様に心細くなる。
「澱月」
呟いて、呼び出して。ふわりと浮かんだそれを抱きしめた。
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