漏瑚、陀艮は、一面の花畑に立っていた。そこは穏やかな森の中だったが、自然の中でありながら、それは意図的に作り出された空間だった。
「ぶふぅー」
陀艮は喜びなのか、感嘆なのか、そういった息を吐いた。その横で漏瑚は手を空に差し出し、緩やかに吹く風を感じる。
「久しぶりだな。お前の領域に立つのも」
漏瑚はそう言って、自分たちの後ろに控えるようにして立つ花御のほうを見やった。
花御の領域、朶頤光海は少しばかり弱めた形で展開され、その中に三人は立っている。それは未だ呪胎であり、領域が不完全である陀艮へ手本を見せるためであった。領域に術式は付与されておらず、故に攻撃性もなく、穏やかな風景が広がっている。
『使うほどの相手にまみえることもない……いえ、なかったですから』
返事をした花御は、僅かにだが下を向いた。その様子に、いつもなら喋るなと語気を荒げる漏瑚も躊躇い、口を噤む。
呪術高専を襲撃したときのことを引きずっている。そのことに勘付いた漏瑚は、表情を険しくさせた。
「気にするなとは言わん。だが、ワシらも無策ではない。……だろう」
そっぽを向いて、漏瑚は話した。その視線の先には、領域を動き回る陀艮の姿がある。
『ええ。そうですね』
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