るいざき
2023-12-11 22:06:17
11041文字
Public AC6_ラス6_銀環
 

窮鳥Ⅱ 解√ラス6♀

⚠️不穏
・前回の続き
・長い
・ラス6と言いながら6不在
・独自の世界観考証が多分に含まれます

 ルビコンの解放者がアストヒクにより撃墜された。今朝方から軍部の箝口令もむなしく雑踏を行き交う人々の話題はそればかりだった。
「やはり所詮は余所者」
「逃げ遅れたMTを守ったらしい」
「帥父はすべて見通されている」
 グリッド内部にひしめき合う思索をそこのけ押し通り、アーシルは荷物を抱えて医療棟へ向かう。
「!」
 棟のゲートをくぐってすぐに人だかりがある。傷病者とは到底思えない……むしろ随分と身なりの良い者共が第一処置室に詰め掛けている。
(あれは帥父代理の部下……
 その眼差し、口端にやどる色にぞわりと背筋が粟立つ感覚がした。あれは、到底このルビコンの蒼穹を拓いた人物に遣られる心慮とは程遠いものだと、アーシルは覚った。
「おやアーシル。独立傭兵レイヴンの見舞いかな?」
「依頼窓口を担うと挨拶回りも大変だろう。特に騙した相手なら尚更」
……ドクターに頼まれたものを配達しにきただけです。入れてください」
「おぉっと」
 関わる必要は無いと戸口に手を伸ばす先に、中年の男が身を差し入れて阻んでくる。他の官吏たちものっそりとアーシルを取り囲むように間合いを縮める。
「確かあの子もここに収容されていたのでは? ツィイーだったか。『壁』の陥落にベイラムの尋問で心身共にボロボロだろう、可哀想に」
「先の地上戦ではヴェスパー部隊を相手に大立ち回りしたそうだ」
「流石は若き新生! 死骸を啄むどこぞの鴉とは違いますなぁ」
 けらけらと笑い出す高官たちに囲まれ、アーシルは俯く。すると──
「うおッ?!」
 ドガッと扉前に立ち塞がった男がすっ転がって廊下の向かいにまで吹き飛んで行った。
「あれっ、ごめんなさいね~。人がいるとは思わなかった!」
「つ、ツィイー」
「ほら早く、アーシル。」
 ああ、とアーシルはそこの高官たちに軽く会釈をして入室する。待て、話があるとがなるもその背には届かず。
「べぇ〜」
 赤目までひん剥いて悪態をつくツィイーにあっけどられた野次馬は、ポカンとするまま締め出された。



「すまないツィイー、たすかったよ。」
「気持ち悪い声が聞こえてきたからさ。まさかと思ったけど……ろくな事しないねジジイ達は」
「誰かが聞いているかもしれない。わるくちはもう少し我慢しよう」
「ふん……
 つんとそっぽを向く妹分をたしなめ、アーシルはフードを脱いで病室の戸を叩いた。
「どうぞ」
「失礼します、ラスティ」
 いっそう薬臭くなる部屋へ足を踏み入れる。硝子窓の前に設えられたベンチに腰掛けるラスティが顔を上げ、看護師を呼びつける。すぐさま駆けつけた婦長に、抱えていた荷物を手渡した。
「ラスティ、レイヴンは……
「ひとまず命は繋いだ……といった所だ」
 硝子窓のむこう──雪原と似た白さだが、そこは外部では無い──無菌室たるICUがそこにある。混沌としたルビコン市井やグリッド内部の煙たさからは隔絶された白亜の聖域に、解放者は横たえられていた。
「あたしより小さい子だなんて思わなかったなあ……
 窓に手をつくツィイーが呟く。その身には未だ予後不良の傷があり、頬には大仰にガーゼが貼られている。そのような目に遭ったのもレイヴンの仕事の余波だ。……しかし、己を救ったのもレイヴンその人だとアーシルから知らされた時、彼女の心中は万感交々といった様子で暫くは塞ぎ込んでいたらしい。
「君から護衛の申し出があるとは思わなかったな、ツィイー」
 ラスティの問い掛けに彼女ははにかむ。
「いつまでも寝てるわけにいかないから。レイヴンにその気がなくても、この子が守ってくれたんだから、その恩返しがしたい。そんなことも分からないオッサン共と同じ穴の狢なんて、寝覚めが悪いね」
「ツィイー、事実とはいえ口が悪いぞ」
 「事実なのは認めるんじゃない」と口を尖らせるツィイーとラスティを見比べ、いたたまれないというようなアーシル。口はかたいぞ、とラスティはマスクの前に指を立てた。 
「まあ〜それに、あたしが来なきゃアーシルも二の足踏んでたしね。ね?」
「う……、ああ。」
 アーシル自身、軍部や斡旋先との摩擦に随分と揉まれた様子だ。ラスティと引けを取らない美貌にも、窶れと隈が色濃く浮き出ている。
「──間接的となるかもしれないが、レイヴンのお役に立ちたいと思う。何かあれば遠慮なく声を掛けてください、ラスティ」
「ああ、よろしく頼む」



 ICU前で騒ぐのも悪いと思い、ツィイーとアーシルは再び廊下へ戻った。暗号錠付きの扉が部外者に開けられることは無いとは思うが、万が一に備える。そのためアーシルの腰には拳銃様のスタンガン、ツィイーの右腿にはスタンバトンが携えられている。これらの対人装備は、レイヴン護衛の申し出をした際にフラットウェルから許可された。
「ラスティおじ、元気なかったね」
「ああ……。あの方が戦友と呼び親しむようなお方だから。立場もあるだろうし……
 病室の方を見遣る。レイヴンの救出から何時間が経っただろうか。ラスティはじっとあの席で戦友の目覚めを待ち続けている。彼自身も満身創痍であると聞き及んでいるし、右手には未処置のままの傷があるように見えた。おそらく自身のことは後回しにしていたのだろう。

 荷物、とは明朝レイヴンたちが鹵獲した物資の中にあった強化人間用ナノマシンや、細々とした薬品を必要分ピックアップしてきたものだ。そのついでと言ってはなんだが、きっと何も飲み食いしていないであろう上官のために軽食のデリバリーを同封した。
……なんでそんなに及び腰なんだい、アーシル?」
「う……
「『騙した』ってジジイどもが言ってたアレ?」
 騙した。そう騙したと言われても弁明の余地もない。BAWS第二工廠調査では所属不明機体がレイヴンを襲った。ガリア多重ダム防衛に至っては、上位ランカー二機およびブランチの一機と連戦するなど、本来ならば死を意味する。任務完了報告によれば、『レイヴンを待ち構えていた』旨の通信内容が認められ、つまり彼らの思惑にまんまと利用されたのだ。
 それ以降は時節としてもフラットウェルが直に対面する方が有意義とされ、窓口たるアーシルの任務はひと段落ついたものの、二度に渡りレイヴンを貶めたことになる……というのが、寝込むツィイーに告げられたアーシルの懺悔だった。
「あのさ、アーシル。あたしはアンタが誇らしいよ」
「──え?」
「アンタひとりが負うには重すぎる責任だったと思う。だけど、ルビコニアンのために、ただただみんなの命のために決断したアンタを、あたしはズルい奴だなんて思わない」
……ツィイー」
 多重ダムは幾度となく防衛要所となった貴重な水源施設だ。水が絶たれればひとは呆気なく死ぬ。いまこうしてグリッドや市井で水道が通っているのは、アーシルがレイヴンを選び、遣わした成果なのである。
「アーシルはあんなジジイどもとも馬鹿みたいに囃し立てる連中とも違う。しかもハンサムだ」
「最後のは余計では?」
「事実だろ~?」
 けたけたと笑う妹分を前に肩を竦める。だが、なんだか先程までちぢこまっていた背筋がふっと伸びるので、アーシルの表情も和らいでいった。




「また怪我増やしやがって。ドジっ子め」
 ラスティが腰掛ける向かいに、回転椅子を引き寄せてドカリと座る屈強な大男。濃藍の術着に羽織る白衣と首から提げるタグが無ければ、凡そ医療関係者もとい軍医とは思えない筋肉だるまは、几帳面に整頓し尽くされた医療器具満載のワゴンを手繰り寄せいくつかの器具を取り出した。
「人命が掛かっていたんだ。形振り構ってはいられないさ」
「お前さんはもう少し構ったほうがいいぞ、スパイって奴はどうしたって白い目で見られるんだからよ」
「ナリもフリもキマってると自負していたのだが。不足ならばご教授いただけたりしないか?」
「オウ、歯ぁ食いしばれ」
 仮置きだったガーゼを剥がすと、右掌にバックリと開いた裂創へ消毒薬たっぷりの脱脂綿が擦り当てられる。レイヴンの救護に無我夢中で、そのまま彼女の応急処置にも参加しようという頃にナースに悲鳴を上げられた。「ンな手で患者に触らせられるか」と治療室を蹴り出されたのが先刻までのあらましだ。
「う」とごく小さく呻くラスティを黒丸サングラス越しにちろりと見上げるドクターは悪い笑みを浮かべた。
「んないぢめがいのある呻き声を出されるんじゃ、カタなしだな。そそるぜ」
「いやあドク、こういうのも需要があるだろう?」
「けっ、名演技なこってよ。……打てよ、再建剤くらい。シリコンにも余裕あるぞ」
「いいや、すべてレイヴンに使ってくれ」
 はあ……と筋肉だるまからは突風のような溜息が。しゅわしゅわとそのまま空気が抜けて萎みそうだな、とラスティは胸の内で面白く思う。
 気安いドクターは口煩い。だがその煩さはここが解放戦線におけるコンチネンタルであるからに、そのしきたりを確立させているのはほかでもなくこのドクターの卓越した医療技術だ。彼がこの医療棟の法であり、言う事を聞かなければ『旧式』の治療を受けることになる、つまりは荒療治だ。
「ツィイーもよ、そう言っててめぇの傷を後回しにしてあのザマだぞ。帥叔の右腕サマがこんなんで破傷風にでもなったら……
「君がそうはさせないだろう?」
「ケッ、クソ野郎がよ。」
 おしゃべりの間にあっという間に縫合された右掌に、新たなガーゼと使い回しの包帯が巻かれていく。
「点滴が終わるまでは動くんじゃねえぞ。ぶつぶつの内出血はオトコの勲章じゃねえ、むしろ萎える」
「あのドクをも心酔させてしまうとは、罪な男だ。しかし残念だが──」
「だ・ま・れ」
 ちなみにラスティはその法を逸する昔ながらの問題児だった。問題の要因にひっきりなしの出撃命令があるが。そもそもドクの忠告を無視し、小言と怨嗟を持ち前の胡散臭い笑顔で躱す様は、まさしく悪童である。
「俺の愛よりお前さんの後輩の愛を受け取っとけ」
「うゎぷ」
 鼻面に押し付けられたそれはなんだか懐かしい香りがする。包み紙を広げると、まだかすかに暖かいミートパイ一切れが魅惑的な焼色を覗かせる。
……ドク、食べるかい?」
「俺ぁいい。レイヴンの処置とお前さんの手当で胃が縮こまっちまったよ……
「ああ、スプラッタは苦手だっけ。……なんで軍医なんかやってるんだ?」
「俺ぁただの義肢装具士だってのに、お前さんらが『コレハ有能ナ人物ダァ』とか言って押し付けたんだろうがよ!マジで強化人間手術とか専門外だってのに……。んぐぅ胸焼けが……
「ああ、そうだったっけ」
 その割には強化人間をはじめとしたあらゆる医学知識・技術を体得しているし、彼のもとで修行する若手の医師たちはみるみる腕を上げていく。あの脳内は無限の記憶領域があるらしい。
「うーん、私も胃が縮こまっているらしくて──」
「あーだめだ。食え」
 ちろり、再びサングラス越しの鋭い視線が狼を射抜かんとする。
「修復もシリコンも要らねえ、レイヴンに捧げるってんなら、てめぇが食って栄養にして血肉にしなきゃならん。お前さんのために用意されたモンを粗末にすんな」
……悪かった」

 おそるおそる一口。絶品……などではないのだ。肉は冷凍ミールワームで、ソースは着色料と塩分と総合栄養食のペーストを混ぜたもので、生地もワームの皮だ。ちぐはぐな塩味と独特な食感、掴みどころのない昆虫肉の味はかつて人類が享受したあたたかなパイとは別物の食物となっている。
……ふふ、美味い」
 それでも。これを届けてくれた者の選択が、ただの冷凍食品とディストピアめいた生成りペーストをここまで食べ物に仕立て直そうという調理人の工夫が、安らぎとほど遠い戦線で焼け付いた食道を癒して、臓腑を満たしてくれる。
「拒食ってワケじゃねえみてえだな」
「食欲が無かったのは事実さ」
「食えなくなった奴から死ぬぞ」
「肝に銘じている。……いや、君が言えた事なのか?」
「うるちゃい」

 もくもくとパイ一切れを口にするラスティに、ふとドクが気付く。
「お前さんの外部デバイス、充電切れか?チカチカしてんぞ」
「ん?」
 指の食べかすをぺろりとしながら、ラスティは端末を起動する。赤い点滅の理由はすぐさま理解出来た。
「ああ、着信だ」
「俺ァちょうど往診時間だ、ゆっくり話してりゃいい。出る時は別の通用口使っとけ。パスコードは?」
「バッチリさ」
 トン、とこめかみの辺りを指し示すと、ドクは頷いて鞄を手に退出した。

「──さて。お待たせしたな、お嬢さん。あらためて自己紹介させていただく。ルビコニアンのラスティだ」
《応答ありがとうございます、ラスティ。私は……私も、ルビコニアンのエア》
「エア、よろしく。ザイレムの時も世話になったな」

『空の上で、レイヴンが戦っている』──そのひと声が燃え滓に火をつけた。
 重箱の隅だが、レイヴンの声明と言われるこの文面は、裏を返せば彼女の行動をリークするような内容だ。あの用心深いハンドラーがそのような文をしたためる性質だとは思えないし、レイヴン本人もそのようなパフォーマンスをするようには見えない。
《こちらこそ、何度もレイヴンを救っていただきありがとうございます。怪我は大丈夫ですか?》
「これくらいなら日常茶飯事さ」
《そうなんですか?》
 ラスティの右腕は、ふたたび添え木と三角巾に吊られ、掌も包帯ぐるぐる巻きだ。何とも格好のつかない有様である。
 ははと苦笑しつつ。……ルビコニアンのエア、ざっと住民禄を参照するが見当たらない。戦災最中の記録などあてにもならないかと、身元照合は保留にした。
「ルビコニアンということはAIでは無いんだな」
 やや間があってから、彼女は応答した。
《はい。先程貴方に吸い出していただいたものは、私がレイヴンをサポートするために組み込まれた、サブのCOMのようなものです。》
 これがあれば遠隔でも彼女のバイタル管理が可能らしい。そういったデバイスはアーキバスのカタログには存在したし、現にラスティが左耳に装着しているのも似たようなツールだ。ことレイヴンの身体状態は不調まみれで、ある種このメインとサブのCOMが生命維持装置なのだという。
「では、 ハンドラー・ウォルターの後釜についたのか」
《はい。……ええと、すみません。レイヴンがあなたにオペレーターを担当するよう申請した際は、別回線で様子を見させていただきました。身体状態の観察に集中したかったので……
 ふむ、とラスティは腕を組む。これらの申告には一貫性があるように思う。だが先刻宿泊した際に、そのような人物がガレージに居た気配は無かった。
……その、レイヴンの治療についてなのですが。引き続き解放戦線での保護をお願いしてもよろしいでしょうか?》
「その前に、エア。確かめたいことがある」
《何でしょうか?》
「レイヴンの見舞いには来ないのか?」
 なにかつかえたように彼女は黙る。──ルビコニアンのエア。レイヴンは今まで一度も、そのような人物と交流したという話を聞かない。……それは、本人からすらも。
……申し訳ありません。それは……できないのです》
「差し支え無ければ、理由を伺いたい」
 事実、現在のレイヴンは火薬庫に放り込まれたマッチのようなもの。その存在はたとえ関係者相手だとしても慎重に扱わなければ、思わぬ所から火が噴き出すだろう。
……レイヴンと同じです。身体は動かず、意思のみで動く……。強化人間にすらなれなかった存在》
……なるほど。」
 無力だ、と小さくなって震える声が、なんだか涙声に思えてくる。
《すみません。この身体では、ガレージへ引き取っても治療を施すことが難しい。ですから、解放戦線の方々の協力が必要なのです。どうか……
「私やドクとしても、彼女の容態はとても放っておけるものでは無い。まずは私から帥叔に君の事を話そう。だがその後の交渉は君次第となるだろう」
《──!充分です。ありがとうございます、ラスティ》
 ほっと安心したような息が漏れた。──溜息、対面なら瞬きや瞳孔収縮は余程の訓練を受けた人間でない限り、生理現象として表れる。それは言外にある相手の心理を観察するにはうってつけだが、例に漏れずこの女声も『本心では心配している』ことを察せられた。……その自称身分には怪しい点があるとしても、この神経質になった城に部外者を迎える必要が無いのはむしろ好都合だろう。
「しかし、帥叔に今すぐ判断を、というのは難しいだろう。少し時間をくれないか」
《構いません。……何か分かりましたら、このチャンネルにご連絡ください》
「ああ。」

 ふ、と赤い花のアイコンが消えた。病室はしんとした静寂の合間に規則的な電子音が刻まれるだけだ。
……レイヴン」
 硝子越しの戦友を眺める。冷却を終えた身体は、いつか見た自立歩行する姿から病床に横たわる姿へ逆戻りしてしまった。ハンドラーと共に治療と回復に励む姿の一端を、ラスティ自身も目にしてきたが為に。その姿を見る度に苦いものが胃にのぼる。
 彼女へ贈った仮面は火災からレイヴンの頭部と頚椎を守り切り、今はこのベンチの片隅に置かれている。炭化と破損の激しいヘルメットは、もう使われることは無いだろう。
…………
『顔無し』の素顔そのものを見るのは初めてだった。輪郭のみ見せることを許してはくれたが、すべて曝け出す事だけは暗に避けられた。尊厳も性も曖昧な姿を他者に見られたくないのは当然の事だろうと、気高さの内に秘めた友の脆さを守り抜こうとラスティは誓っていた。
 だが今こうして明かされた姿はあまりに見慣れない形をしていた。……鼻の欠けた輪郭線を包帯とガーゼに巻かれ……身体の大部分がコーラル熱傷を負ったままの……痩せ細りの、少女だ。
「火傷がある」という話は、以前より本人の口から聞いてはいたものの、実際に目にするとその衝撃は不謹慎だと己を叱咤しても抑えられないものだった。延命措置のためとはいえ、あれほどまでに隠していた素顔を見た事は、彼女にとっては不本意な筈だ。
 嫌われるのではないだろうか。いや、それでも救えるならば構わない。オルトゥスを見つけ出した恩人が再び目を覚ませるならば、張り手だって受け入れられる。
 じりじりと熱と痛みを孕む胸を抑え、狼は硝子を撫ぜた。