ヨジ🔞
2023-08-17 01:40:53
11803文字
Public jjba
 

【スポマ+神父】CookieClicker

プッチ神父の胸ポケットを叩くとビスケットがもらえるという噂。

スポーツ・マックスがギャング仲間の恋路に振り回されたり、ホワイトスネイクの無茶ぶりに奔走したり。

原作軸。CPはモブ→神父のみ。ギャグです。
※原作にはいない、存在感のある名前付きのモブ
※刑務所ゆえの下品・犯罪描写あり

 グリーン・ドルフィン・ストリート刑務所の某部屋に、十人ほどの男がたむろしていた。
……で、どうだった?」
 仲間から尋ねられたスキンヘッドの男はオリバー。趣味で肉体を鍛えている彼は、存在感も重量級だ。オーダーメイドの洒落たスーツを着て、大胆に開けたシャツの襟からは、首筋から右胸にかけて咲く大輪の薔薇のタトゥーを覗かせている。
 オリバーはたくましい腕を組み、どっかりと椅子に座っていた。他の面々は彼を取り囲むようにして、めいめい空いている椅子に座ったり、壁にもたれてタバコをふかしたり、神経質そうに円いテーブルの脚をコツコツ蹴ったりする。
 ただでさえ肩と肩がぶつかりそうなほどの狭い部屋なのに、男たちの体からは異様な熱気がムンムン立ち上っていて、むさくるしいことこの上なかった。汗や香水やその他様々な臭いが混ざり合い、甘いような、何かが饐えたような、名状しがたい馥郁たる香りが漂っている。部屋の男共はみなとうに鼻がひん曲がって、何も感じなくなっていた。
「なあオリバー、早く言えよ。勿体つけるほどのことじゃあねえだろ」
「お前の顔見りゃわかるって……そんなに鼻の下伸ばしてちゃあな」
 サツの取り調べのごとくせっつかれ、オリバーはゆっくりと周囲の顔を見回した。強面の男たちの中には、苛立たしげな者もいれば、ニヤニヤ歯茎を見せる者もいる。割合としては、後者の方が多かった。
……じゃあ、言うぞ。今からな……テメェら、いいか……
 もう焦らすのも限界だった。男共はウォッ、ウォッ、ウォッとオットセイのごとく囃したて、小突き合う。楽しみはこれからだというのに、フライングだ。オリバーは場を鎮めてからブチ上げるつもりだったが、仲間の興奮は冷めやらない。一向に静かにならないので、オリバーは深呼吸をすると――喧騒に負けないよう声を張り上げた。
「揉んでやったぜッ! あの神父の胸をなあああッ!」
「「「「「Hit the pocket!!」」」」」
 ウォオオオッとその場の全員が一斉に雄たけびを上げた。同時に、握りしめていたチップスアホイやキーブラーやオレオを放り投げる。乱痴気騒ぎのはじまりだ。
 気の知れた仲間と飲み食いしながら下品なジョークを交わし、情報交換やヤクの取引を行う。それがこの集まりの目的であった。世の中上手くやっていくにはコネが必要だ。それは刑務所だろうが同じであり、彼らはこの水族館の中で、相互扶助を約束した共同体を作っていた。刑務所で知り合った者もいれば、それ以前の付き合いの者もいる。とにかく、信用出来る人間しか、ここには入れない。
 最近のブームは、もっぱらオリバーに関することだった。
「めでてえなあ~ッ! どうよ、感想のほどは」
「柔らかッ……いや、フカフカだったか……? チクショウッ、全然覚えてねえッ!!」
「ギャハハッ!」
「わっかんねーなあ。あの坊主のどこがいいんだよ」
 勝手にやいやい言う仲間をかき分けて、モジャモジャ頭のリオが輪の中央に入ってきた。彼はオリバーの背中をバンバン叩き、「『チョコ』やるから元気出せ」と慰めた。差し出されたポッキーは中身が抜き取られ、代わりにジョイントが一ダース詰まっていた。この間リオの商品をちょろまかした野郎をオリバーが突き止めた、その礼である。どこからともなくライターが飛んできて、オリバーは早速そのうちの一本を吸うことにした。
 オリバーは刑務所教戒師の神父に懸想をしていた。彼は恋に落ちてからというもの、いそいそと礼拝堂に通い、たまの逢瀬(という名の個人面接)を重ねていた。その神父は胸ポケットにロザリオやら看守の手紙やらメサイアのCDケースやら、あらゆるものをしまいこんで出し入れする。無防備に露わになる艷やかな褐色の胸に、オリバーはいつもドキドキさせられた。見えそうで見えない乳首を想像しては、こっそり舌なめずりしたものである。
 かといって別にどうこうするつもりはなかったのだが、数週間前、状況は一変した。水族館の囚人たちの間で「刑務所教戒師の神父の胸ポケットを叩くと、ビスケットがもらえる」という噂が、まことしやかに囁かれるようになったのである。
 それを聞いたオリバーの胸中には嵐が吹き荒れた。不信心な、あるいは神をも恐れぬと豪語する囚人が、度胸試しをするようになったのだ。そんじょそこらの下卑た野郎共に、好きな男の胸をベタベタ触られて、落ち着いていられる人間がいるだろうか。
 ところで、噂のビスケットは本当に現れた。誰かがポケットを一回叩くたび、ポケットを叩いたことがあるすべての人間のところに、どこからともなくビスケットが一枚ずつ配られるのだ。出現場所は、ズボンのポケットや、房の机の上、昼食のプレートなど、ランダムだった。どうやっているのか知らないが、いつの間にか置かれているのである。現れるのは何の変哲もないビスケットで、どのメーカーのものかは誰にもわからなかった。ちなみに食べた者の証言によると、サクサクしていてとてもおいしいらしい。そのビスケットを持っていることが、「神父の胸ポケットを叩く」という度胸試しの証拠になった。
 くだらないイタズラにオリバーは怒り心頭で、必ず犯人を見つけ出してとっちめてやると喚いていた。だが、そんな彼に仲間の一人が言った。逆にチャンスではないか、と。どさくさに紛れて、パイタッチの一つでもしてこい、と言うのだ。オリバーは最初憤った手前その計画を渋っていた。が、この間とうとう実行を決意した。今日がその報告の日なのである。
「ようやくイケたのに押し倒しもしなかったのか?」
「だって相手は神父なんだぜ? 無理に決まってんだろ」
「神父だから、ねえェ~。オリバーお前、いつからそんなに信心深くなったんだ? えっ?」
「そういうのをここではチキンっつーんだよ。チ、キ、ン!」
 爆笑する仲間たちに、オリバーは返す言葉がない。もちろん彼は神なんぞには微塵も興味がなく、これまでの人生で強制参加させられたミサでは寝ていた記憶しかなかった。こんなところに来てしまうような人間は、えてしてそんなものだろう。
「このひよこちゃんはどうやって坊主の胸を揉んだんだ?」
「転んだフリでもしたんじゃあねーの?」
「この筋肉体幹オバケがか!? ヒィーッハハハ!! 無理ありすぎだろ!!」
 まだまだ宴は続く。今回の主な目的はオリバーをからかうことだったが、その騒ぎの傍らで、賄賂の底値だとか、囚人番号何々が覚醒剤のアンプルを持っていたとか、こないだヤった女の話だとか、外部の仲間からもたらされた情報だとかがひっそりと回っていった。
「あ~ッ、一回でいいからあの神父を抱きてえなァ……
「おまえになら抱かれてもいいって男はいくらでもいそうだけどな。オレとか」
「わかるゥーッ」
「オレもいいぜ」
「オレも」
 皆ノリで手を挙げているが、実際オリバーは男から見て、惚れ惚れするほどカッコイイやつだった。いつでも身だしなみが整っているし、几帳面で細かいことによく気がつく。だから人脈があり、仕事が出来る。部下からも同僚からも憧れの的だ。当然モテるので、外ではいつも違う愛妾を侍らせていた。まあ、ここにきて、彼の恋愛下手が明るみに出たわけだが。
「テメェらはかわいくないからダメだ」
「いやアレも別にかわいかないだろ」
「ちっちゃくて尻が大きくて……砂時計みたいな細い腰してるじゃあねえか……
 オリバーはワキワキと手を動かしながら立ち上がると、腰を振る真似をしてみせた。誰かが口笛を吹き、コンドームの風船がフワフワ宙を漂う。それぞれが、顔もよく覚えていない神父の姿をぼんやりと思い浮かべながら、口々に「ちっちゃくもねえよ」「デカケツは合ってっけどな」と囁きあった。
「そういやこないだ偶然、お前の愛しのリコちゃんとすれ違ったが、たしかに腰振りながら歩いてたぜ」
「だろ!? っつーか、ランウェイウォーキングって言えよッ! なあマックス、お前、最近あの神父と話したか? 何か言ってなかったかッ!?」
 突然話の水を向けられたスポーツ・マックスは、この中では最もオリバーと付き合いが長かった。なんせ、同じギャングにいたのだ。何度か仕事を共にしたこともある。
 彼はしばしば礼拝堂で、神父と親しげに話しているため、オリバーから嫉妬を向けられていた。スポーツ・マックスは何も知らない友人を安心させるため、今自分は剥製に凝っていて、その指示を神父に仰いでいる、と説明した。それだけでは飽き足らないオリバーは、自身の潔白と友情を証明したいなら、神父のことをあれこれ探ってこいと言った。まったく、迷惑な話である。ギャングとして生きてきて嫌というほど実感するのは、中間管理職の世知辛さだ。今でこそスポーツ・マックスも超キレたギャングであるが、のし上がるまでに幾度も辛酸を舐めてきた。だからわかる。板挟みは面倒しかない。
 それに、スポーツ・マックスはオリバーにうらやましがられているが、礼拝堂に行って良いことなんて彼には一つもない。ちょうど昨日ホワイトスネイクに呼び出されたことを思い出し、彼は人知れず身震いをした。もちろん、こいつらに自分の恐怖を悟らせはしなかったが。
「そうだなァ~……最近囚人がやたらぶつかってくる……とは言ってたぜ」
「なんてこったッ!」
 オーマイガッ! と悲鳴を上げて頭を抱えるオリバーを見下ろし、少し溜飲を下げてから、スポーツ・マックスは付け足した。
「ま、お前が最後に胸を揉んだ男になれば大丈夫だろうよ」
「だってよオリバーッ!」
「最後におっぱい揉めてよかったなッ!」
「うおおおおっ、これから神父のパイタッチをしようってヤツは、オレが許さねえッ! こいつにかけてなァアッ!!」
 勇ましい宣言と共にオリバーはビスケットを高々と掲げると、ヒョイと口の中に放り込んだ。拍手喝采、祝福ムードで景気よく商談もまとまっていく。
 スポーツ・マックスはにこやかに手を叩きながら、オリバーが脅せば噂も止むだろう、とほくそ笑んだ。

 その前日。
 プッチは来る日も来る日も囚人に体当たりされ、かなり神経を尖らせていた。そこでスポーツ・マックスを礼拝堂に呼び出し、自身は柱の陰に隠れ、あくまでホワイトスネイクとして彼に尋ねた。
「なあ……この刑務所で、何か噂が流れてないか? どんな些細なものでもいいんだ……教えてくれ」
 スタンド能力は一般人には見えないが、彼らにも大きな影響を及ぼす。新たなスタンド能力者の出現に関して、囚人の噂話ほど迅速かつ的確なものはないと、プッチは経験則から学んでいた。
 ここ数週間はおかしい。三日前など、ある女囚が突然自分を押し倒してきたのだ。ぐにゃりと崩れてきた女体……今思い出してもトリハダが立つ。ソイツは「神父様の魅力に思わず目が眩んで、よろめいてしまったんですゥーッ! ゴメンなさぁ~い」などと抜かしていた。とにかく最近、似たようなことが多すぎる。
 不自然なことが続くということは、自分に敵対するスタンドが潜んでいると考えてよいだろう。なぜスタンドの姿が見えないかは分からないが……即座に本体を見つけ出し、スタンドDISCを奪わなければならない。
「噂、ですか……
 スポーツ・マックスには心当たりしかなかった。その噂に思い至ると同時に、絶対にホワイトスネイクは怒るだろうと確信もした。彼は既に、ものすごく、自分の房に帰りたかった。
 ホワイトスネイクの正体は一応「秘密」ということになっている。が、いつも礼拝堂に呼び出され、時折ここのプッチ神父に話しかけられて、気づくなという方が無茶な話だ。なぜこうも隠蔽工作が雑なのか、答えはただ一つ。非常に腹立たしいことだが、ホワイトスネイクはスポーツ・マックスを舐めているのだ。ひとたび刑務所の外に出れば、恐れ戦いて誰も目を合わせようとしない、このスポーツ・マックスを!
 闇の中で生きる者のカンが言っていた。ホワイトスネイクと関わったのは失敗だった、と。ヤツはギャングほどの社会的影響力は有していないだろう。だが、何か別の、もっと深くおぞましい計画を実行に移そうとしている。現在スポーツ・マックスはそれに巻き込まれ、利用されているのだった。
 ギャングはうっかりで犯罪をやってしまった奴らとは違う。頭が良くなければ生き残れない、シビアな世界の住民だ。だからこそ、スポーツ・マックスはこのホワイトスネイクの危険度を見抜いており、機嫌を損ねないように必死だった。
 さて、ホワイトスネイクに、どう噂を伝えたものか。キレる頭をフル回転させたが、どうやっても怒らせる未来しか見えない。この覆面のスタンドは常に不機嫌だし、短気だし、暴力的だ。何か問題が起こったら記憶を抜けばいいと思ってやがる――冗談じゃあない。
 かといって、黙っているわけにもいかなかったので、スポーツ・マックスはおずおずと口を開いた。
……些細な……ほんっと~~に些細なものでいいのなら、一つ……この刑務所には、神父さんがいるッスよねェ――あの、プッチ神父ですよ」
…………
「その噂ってのは、度胸試しらしいんですけど。なんでも、その神父さんの胸ポケットを叩くとビスケットがもらえる、とか……まるでガキの遊びですけど、皆、妙~~に真剣なんスよ」
 言葉を選び、ホワイトスネイクの正体にシラを切りながら、スポーツ・マックスは(この神父、自分がまあまあな数の囚人のズリネタになってるって、気づいてねーんだろうな……)と思った。
……君は?」
「ハイ?」
「君はその噂を真実だと思っているか? つまり……スタンドが関与している可能性についてだ」
 ホワイトスネイクは一応自分の正体を隠すため、くだらない傍迷惑な噂を聞いても、ひとまずその苛立ちを顔に出すことはせず、淡々と問いかけた。
 スポーツ・マックスには嫌な質問だった。正直に言うしかないが、これだと噂を聞いておきながら、何もしなかったみたいじゃあないか。まあ、あくまで困っているのはホワイトスネイクではなく、この刑務所の神父サマなので、問題ないのだが。
「さあ……どちらとも。本当に覚えのないビスケットがあったってヤツの話も、聞いたことがあります……噂にすぎませんがね。まあ、危険はないんじゃあないっスか? ここはひとまず、様子見で――
 オリバーの面談はこのあとだ。それさえ終わっちまえば、あとはヤツの恋心を利用して、この噂を終わらせる勝算がある。
 とにかく、なるべく関わりたくない一心だった。何か言われるかと身構えたのだが、ホワイトスネイクは意外にも「そうだな」と同意した。
「君の言う通り、様子見をするとしよう……だが噂が収まらないようなら、スポーツ・マックス……君の助力を仰ぐことになる……
「へい、わかりました――んじゃ、オレはこのへんで」

 そのさらに一週間後。
「おい、スポーツ・マックス……どうやらこれはただの噂じゃあないらしい。スタンド使いがいるとみて、間違いないだろう」
 スポーツ・マックスはホワイトスネイクによって、再び礼拝堂に呼び出されていた。心の中でオリバーに悪態をつく。アイツ、何やってんだ。お前それでも本気でこの神父のこと愛してんのか? 惚れた男の一人や二人守れねえで、情けねー野郎だぜ。これじゃあ、間に挟まれたオレが浮かばれないじゃあねえか。等々。
「そのスタンドの名前を仮にク●キークリッカーとしよう」
「ク●キークリッカーはオレたちの時代にはありません」
「囚人たちの噂によれば、この刑務所の神父の胸のポケットを叩くと、ビスケットは『今までそのポケットを叩いたことのあるのべ人数分』増えるらしいな」
 ホワイトスネイクは一週間の様子見中、きっちり噂について調査を行ったらしい。それらの情報は、スポーツ・マックスの耳にも届いているものだった。
……らしいですね」
「ということは、だ……n人目の人物がポケットを叩いた瞬間、最低でもこの世に∑[k=1→n]k枚のビスケットが発生する計算になる……この水族館に収容されている囚人は男女合わせて約1200名……もし全員が1回ポケットを叩いたら、累計72万枚のビスケットが出現するのだ……世界人口を代入すれば2500京枚という天文学的数字になるんだぞ……まさしくアポカリプスだと思わないか……
 こころなしかホワイトスネイクの声には疲れが滲んでいた。オリバーの圧力をもってしてもビスケット騒ぎがやまないということは、あのビスケット自体に何か中毒性があるのかもしれない。それで、皆が皆、神父の胸を触りにくるのだとしたら――スポーツ・マックスにとって、これほど愉快なことはなかった。面白すぎる。水族館からクッキー工場に様変わりだ。大人気でよかったじゃあねえか。ざまあみろ!
 内心ゲラゲラ笑いながら、顔と態度だけはいかにも神妙に、「それは……そうっスね……」などと中身のないことを呟いた。「心配しなくてもあんたの胸を触りにくる人間はそんなにいませんよ」とも言わなかった。それを言ったら「ホワイトスネイクの本体は不明」という不文律を犯すことになる。もし腹を抱えて床を転げ回ったりなんかしたら、それは「死」を意味するだろう。
「本体に心当たりは?」
「ないっス。相当ビスケットが好きなヤツなんでしょうが、オレは知りません」
 スポーツ・マックスが肩をすくめる。ホワイトスネイクはしばし考え込んだ。一分か二分ほど思案して、彼は「策を思いついた」と言った。
「明日の朝七時半――その時間なら、大体の囚人が朝食を食べに集まっているだろう――七時半きっかりに、わたしがそのスタンドをおびき出して叩こう。君は囚人を見張り、その時間にダメージを受けたヤツを見つけ、ここに連れてくるのだ。いいか?」
「本体が男じゃあなかったら?」
「その可能性は低い……噂の発生源は、どうやら男子監のようだからな」
 プッチが女囚からも胸を狙われるようになった時期は、男囚よりも随分遅れてだったのだ。男女で建物が分かれているため、噂の拡大は男女でやや時間差が生じることがある。
 スポーツ・マックスはのほほんと(この神父、野郎からいっぱいおっぱい触られてんだなあ)と思った。
……ん? 待ってください……七時半? オレの飯――
「いいか……やるのだスポーツ・マックス。もしできなければ……わかっているな」
 ホワイトスネイクは一方的にさっさと凄むだけ凄み、礼拝堂から立ち去ってしまった。一人取り残されたスポーツ・マックスは「オレの飯食う時間……」と、誰にも届かないつぶやきを漏らした。

「今までわたしはスタンドの姿を見ていない……わたしが最もこの現象に近しい人物にも関わらず、だ。ということは、私はスタンド能力が発現する『条件』にすぎず、ヤツのビジョンは別のところに姿を見せるということ……それはどこか」
 プッチは壁の時計を睨みつけた。七時半、五秒前。四、三、二、一――
 彼は、自分の胸ポケットをポン、と叩いた。
「ポーケットの中にはビスケットがひとつ……ポーケットをたたくとビスケットがふたつ……
 背後からかすかに声――歌か?――がする。プッチは即座に振り向いた。
「見えた、そこだッ! くらえ――ッ、ホワイトスネイク!!」
 狙うは礼拝堂の長椅子の上。一枚のビスケットを抱えたスタンド、ク●キークリッカー。
 プッチがスタンドを身につけて二十年あまり。だてに研鑽を積んできたわけではない。
「ウショオアアッ!」
 ホワイトスネイクはベンチの上の小さなグランマを、ビスケットごと容赦なく拳で叩き潰した。
 おばあちゃんはぺちゃんこの肉塊に変貌し、すうっと跡形もなく消滅した。その直前に、聞き取れるか聞き取れないかの声で、ある一言をいい残して。
 攻撃したのはスタンドだから、手は汚れていない。が、スタンドが消える瞬間のグロテスクな変わりようは、プッチを不快にさせた。ホワイトスネイクは嫌そうに、長椅子に拳をなすりつける。
 スタンドを退治して、あとはスポーツ・マックスが傷ついた本体を連れてくるのを待つだけ。だが、プッチの気分は晴れなかった。
……手応えがなさすぎる」
 それに、さっきのグランマの発言がプッチの中でひっかかっていた。聞き間違いでなければ、彼女はこういった――「遅すぎたのだ」と。
――まさか」

 同時刻、男子監食堂。
「見つかんねェエーーーッ!! クソッ、どこだ!!」
 七時半、スポーツ・マックスは朝食を諦めて、二階の手すりから身を乗り出して血眼でスタンド使いを探していた。しかし、いないのだ。よろめいたり鼻血を出したりしたヤツは、ただの一人もいない。少しでも怪しいヤツは全員しょっぴくつもりでいたが、それすらも見当たらないのだ。
 マズい。ホワイトスネイクはあんな野郎だが、間違いなくこの刑務所で誰よりも強い。なんせ、ヤツがDISCで保管する才能の数々は、かつてヤツがその持ち主と戦ったトロフィーなのだ。ヤツがスタンドをヤると言ったら必ずヤる。見つかりませんでした、なんて言い訳は許されないのだ。
「あっ! おいッ、マックス!」
「うっせえ誰だッ! こっちは忙しいんだよ――って、オリバーか?」
 肩を掴んできたのは、あのオリバーだった。最初で最後のパイタッチどんちゃん騒ぎ以来、実に一週間ぶりの再会である。
「やっと見つけたぜ! なあ、今またビスケットがオレのズボンのポケットに入ってたんだッ! これで7枚になるッ! なんで増えてんだよォオーーーッ!?」
 それを聞いて、スポーツ・マックスはピンときた。あの神父は自分で自分の胸ポケットを叩くことで、スタンドを自分のところに呼び出したのだ、と。やはりヤツは首尾よくやっている。ということは、ク●キークリッカーを倒せるかどうかは、スポーツ・マックスの働き次第なのだ。
「オレが脅しても、誰もあのバカみてぇな遊びをやめねえんだッ!! 今度はあのビスケットがうまいとか、色んな噂で持ちきりなんだぜ……ライバルが増えちまうッ!!」
「落ち着けって、オリバー……ところでその噂、他にどんなのがある? つまりだ……犯人の手がかりになりそうなのはあるか」
「あぁ?」
 嫉妬に荒れ狂うオリバーはピタリと身振り手振りを止め、怪訝そうにスポーツ・マックスを見下ろした。彼の身長はNBAの選手並で、仲間で一番の高身長なのだ。
 薔薇の刺青を入れたスキンヘッドの男と、毒々しい紫のスーツに身をつつんだ金髪の男が向かい合う横を、囚人が小走りで通り過ぎていく。喧嘩しているわけでもなくただ話をしているだけなのだが、二人共凶悪なギャングなので、並んでいるだけで人が避けていくのだ。
 通行人など見えていないオリバーが、ふと何かを思い出した。
「そういや、歌……
「歌?」
「歌が聴こえるって言い始めたヤツがいた。小さい頃に聴いた『ふしぎなポケット』って歌を思い出したんだとさ」
 スポーツ・マックスのスタンド使いとしての直感が、「ソイツが鍵だ」と言っていた。こんなくだらない、何の役にも立たない悪夢のようなスタンドを持つやつなんて、全く想像できなかった。だが、歌――。何か、思い出があるのかもしれない。スタンドはその人間の魂の発露だと、ホワイトスネイクから聞いた。スタンドが歌をうたうなら、それはヒントに違いない。
 「その歌聞いたって野郎は、どこの誰だッ!」と詰め寄るスポーツ・マックスの必死さに、オリバーは少々面食らう。たかが歌で、そんなに重要な情報とも思えなかったが、スポーツ・マックスは何かに気づいたらしい。同僚として彼の嗅覚を知っているオリバーは、知っているわずかな情報をそのまま伝えた。
「日本の囚人だ。日本のガキの歌なんだと。だがそいつは関係ないぜ、とっくにオレがヤキを入れといたからな」
「日本――
 このスタンドには、もう一つ腑に落ちないところがあった。だが、日本と聞いて――パズルのピースが揃った。
「なあ、オリバー。確認したいことがあるんだが――

「ご命令通り、連れてきましたぜ――こいつが、ク●キークリッカーの本体の男です」
 スポーツ・マックスと共に礼拝堂へ入ってきたのは、あのモジャモジャ頭のリオだった。
 ホワイトスネイクは即座に彼を気絶させ、スポーツ・マックスに言った。
「よく本体がわかったな」
「コイツ、オレとは古い付き合いで……ガキの頃は日本にいたって聞いたことがあったんですよ。そうは見えないスけど、ババアが日本人で、『理子』っつーらしいんです。『リコ』は日本では女の名前なんだそうで」
 リオの名は、漢字で「理生」であった。ヤツは両親がクソだったせいで闇社会に堕ちたが、かつてババアっ子だったと、いつかの与太話で聞いたことがある。そしてババアの料理には敵わないと言いながら、日本の食べ物が好きだった。
 スタンド使いはえてしてスタンド使いの近くにいるものだ。思えばここまで、スタンドの手ほどきを受けたのが、何かと役に立った。それを見越してヤツは自分を鍛えているのはわかりきっているので、癪なことだが。
 仕込んだ手駒がきちんと働いて、心なしか満足げなホワイトスネイクが頷く。
「なるほど……それで、『エンリコ・プッチ神父』が能力の『発動条件』だったのか……だが、コイツはそんなに信心深いヤツだったか? なんで刑務所教戒師の神父のファーストネームを知っていた?」
「いやッ……どっかでたまたま耳にしたんじゃあないですかねェエーーーッ。オレも四六時中コイツといるわけじゃないから、そこんとこはちょっとわからないっつーか――
 リオの記憶を覗かれるのはヤバい。リオがどのような経緯で「エンリコ・プッチ」の名を聞いたか、ホワイトスネイクが知る。それはつまり、あの秘密の会合の、ヤクザな仲間の会話を、当のご本人様に聞かれるということだ。それは絶対に避けたい。
 噂が神父の耳に入る可能性も考えて、スポーツ・マックス自身は気をつけてきたつもりだ。だがラリった拍子に口が滑ったとも限らないし、そうでなくても会話を聞かれるのは危険すぎる。ホワイトスネイクの怒りのはけ口になるのはご勘弁願いたい。
 それに、まあこれはオマケだが……情報提供してくれたオリバーが気の毒だろう。
「悪意はないようだし、スタンドだけ抜くとするか……運が良ければ死なないはずだ」
 スポーツ・マックスの祈りが通じたのか、ホワイトスネイクは記憶を見ることなく、さっさとスタンドDISCを取り出した。てか、死ぬかもしれないのかよ、オレの仲間だってのに……と、嫌な気分になる。もしリオがこれで死んじまったら、花でもそなえてやるか。
(それにしても、ホワイトスネイク……コイツはいくらなんでもチート能力だろ……
 DISC化の能力を目の当たりにし、スポーツ・マックスは密かにうらやんだ。スタンドをいくらでも溜め込み、さらには記憶も読める。こんなのに逆らおうというヤツは、身の程知らずなバカだけだと、つくづく思った。
「助かった、スポーツ・マックス」
 ホワイトスネイクが、めったに言わない礼を口にした。そのへんの柱に背を預けて、彼は続ける。
「まさかお前が本体を捕まえるとは思っていなかった。君の能力を疑っているのではない……このスタンド、どうやら群体型なのだ。ビスケットを同時多発的させるところから考えるに、ビスケットの枚数と同じだけ、スタンドの数が増えるのだろう。するとどうなるか……一匹倒したところで、本体にはさほどダメージが与えられなくなる」
「えッ」
「わたしが攻撃したときには、既に一体倒した程度ではどうにもならないところに来ていたのだ」
「えええええッ」
 顎が外れるかと思った。衝撃が過ぎ去ったあとに残ったのは、ドッとした疲労感。彼はフラフラとベンチに座り込み、ク●キークリッカーのDISCをぶらぶらさせるホワイトスネイクをボーゼンと眺めた。ちくしょうめ、オレが失敗したら怒り狂うくせに、自分がミスしたときはこれだ。ああ、オレの苦労って――
「わたしは強いが、こればかりはスタンドが強くてもどうにもならなかった。君の頭のキレと、ギャングの人脈が役に立った。礼を言う」
 悪い気はしなかった。最初の一言余計だろとは思ったが。
「そりゃ、どーも……
「また頼む」
 そう来たか、とスポーツ・マックスは眉間にシワを寄せ……たかったが、どうにかこらえた。嫌で嫌で仕方がなかったが、嫌だと思うだけ無駄だ。どうせまた、このおっかないスタンドに命じられるがままに、オレはひた走るのだろう――一度闇を覗いた人間がその闇と無関係でいられないのは、どこの界隈でも同じだ。
「わかってますって」
 リンプ・ビズキットを与えられたときに、腹は括っていた。