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hai__ro
2022-07-20 00:09:54
1313文字
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若モラ
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流星
魔神と龍と流星の話。
当初は「星のゆくすえ」の一部として書いてたけど諸事情で分離された。B面として読んでいただけると。
含まれるもの:若モラ
流星とはすべて燃え尽きる岩である。
わずかに熱を帯びた指で、盃のふちをなぞりながら、モラクスはそうこぼした。
それを聞いた若陀龍王の心には驚きよりも、
「ゆえにすぐ消えてしまうのか」
と、得心が先立った。
流星群の時期でもないのに、ひときわ大きな星が、いちどきり降った後の夜更けだった。若陀龍王がモラクスを見下ろすと、白布で隠れた横顔は星空へ向き、尾のような黒髪が背中に沿ってなめらかな線を描いていた。かげにひそむ双眸は、まるで夜を焦がすようにかがやいていた。
「宇宙をただよう岩がふとした拍子で地に引き寄せられたとき、その速度による摩耗に耐えきれず燃え朽ちる今際の光。それが流星だ」
「去ぬときがいっとう眩しいのだな」
魔神はさまざまなことを知っている。まるで生まれたときから知恵の詰まった箱を持たされていたかのように。
「星と名のつくものはみなそうだ」
若陀龍王のことばに、モラクスはそう返した。
「天にかがやく星もすべて、死のときには自らを焼きほろぼすほどの光を放つらしい」
モラクスの伝聞調の言葉に、若陀龍王は、
「貴様でもまだ星の死を見たことがないのか」
と問いかけた。モラクスは頷いた。
「星の寿命は途轍もないからな。きっと、お前とおなじくらいかそれ以上だろう」
若陀龍王は、モラクスがこの話を誰から聞かされたのだろうとふしぎに思った。魔神について、親や師に類するものを聞いたことがない。モラクスもひとりで生き延びてきたのだろうか。
若陀龍王すら目にしたことのない星の終わりを、誰が見て、モラクスに教えたのだろうか。
「ところで、若陀」
ふいにモラクスが問いかけた。
「もしも流星が地に落ちるまでに燃え尽きなければ、どうなるか知っているか」
「隕石になるのだろう」
「そうだ。衝突した星は地を割り岩を創る」
モラクスはたわむれに指先で小さな石をすくい、ぱらぱらと地面の上に落としてみた。
「そうして、俺が生まれた」
モラクスは、あっけらかんと口にした。しかし、わざとらしい平坦さがこもっていた。彼の眷属が社会を形成し、交渉や建前を覚えていくのに比例して、モラクスも軽口を好むようになった。
「冗談だ」
逆なのかもしれない。と、ときどき若陀龍王は思う。
「しかし、たしかに貴様らしいかもしれない」
「なぜだ?」
「貴様は刹那に消え去るだけのたちではないだろう、モラクス」
城を海に沈め、村を更地にするくらいでちょうどよい。と、若陀龍王は付け加えた。モラクスは呵々と笑った。言葉遊びだ。
しかし若陀龍王は、己が口にした冗談であっても、そのように世界をほろぼすモラクスの姿を想像できなかった。むしろこの魔神は、積み上げられた人の歴史の最後の頁に残るであろうと直感した。人が積み上げた何もかもが崩れ落ちたその後に、モラクスは立っている。
「モラクス」
「どうした、若陀」
それはさみしい光景だったが、若陀龍王はかなしくなかった。
「こうして星を見るとき、となりにいるのが貴様で良かった」
眼が潰れるほど輝かしい星の、その最期まで目にできるのは、若陀龍王だけだと知っていたからだ。
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