Mizuka
2023-01-25 21:06:30
1675文字
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復讐鬼

桔梗さんと夏実がまだコンビを組んで間もない頃の話。


「だからこのッ離せっつってんでしょ!」
「でッ!?」
 俺に担がれたままジタジタ暴れていた少女の肘が頬骨に直撃。さすがの痛みに思わず悶絶する俺を横目に彼女は腕の間をすり抜け着地していた。
 フーッフーッと息荒くこちらを睨みつける姿はまるで手負いの獣のよう。瞳には年に見合わない深く強い恨みの情を湛えている……その目を見たら怒る気もたちまち失せてしまった。
「あの化け物、まだ死んでなかった!早く戻ってちゃんと仕留めないと!」
「夏実ちゃん、一旦退こう。君も俺も結構ダメージ受けちゃったからね」
「じゃあアンタだけ帰ればいいでしょ!私は戻る」
「そういうわけにはいかないんだよ……
 化け物との交戦中にひねったらしい足で無理やり立ち上がると踵を返そうとする夏実ちゃんを羽交い締めて止める。
「離してってば!」
「今の君を、しかも一人で行かせられない。拠点に戻って手当てしてもらおう?お願いだからさ、おにいさんの言うこと聞いて……
「っ!赤の他人が兄貴ヅラしないでよッ!」
 しまった、地雷を踏んだ。思うが早くじゅわっ!と嫌な音がして、慌てて彼女の手首を掴んでいた手を見ると手袋の手のひら部分の布地がぼろぼろ崩れ落ちていく。
 感情の昂りに合わせて暴走してしまった魔法にハッとしたのか、彼女は途端に大人しくなった。
…………ごめん」
あー、大丈夫大丈夫!手袋だけだし、このくらいなら直せると思うから」
……だから、私には関わんない方がいいんだって……こんなことされたって言ったら、アンタも私置いてったって周りに怒られないでしょ?私、お兄ちゃんの仇取らなきゃなの化け物はみんな殺さなきゃ……
 この期に及んでまだ戦場に戻らんとする彼女の、復讐に取り憑かれたその姿に、思わずこみ上げるものがあった。
「死んだらどうするんだ!」
 怒鳴った直後に我に返る。夏実ちゃんは俺が大声を出すところを初めて見たからか、心底驚いたような表情のまま固まっている。
……大声出してごめん。でも君が死んだらお兄さんの仇は誰が討つの?そりゃ、もしも誰かが死んでも残りのみんなはその意志を継ぐだろうけど……憎い化け物が斃れるのを見る前に、死んでもいいの」
…………だって、私にはそれしかないの!お兄ちゃんの仇を取るッ化け物どもを殺すことしか……考えられない……
 その時、まだ子供と言えどもう二次成長期を迎えたはずのその少女が、迷子になった幼子のように見えた。
……ずっと、お兄ちゃんが前にいたからいなくなっちゃったら私、何すればいいのかなんて知らないよお兄ちゃん……
 誰かに縋るように呟くと彼女は何かの糸が切れたようにぺたんとその場に座り込み、そのまま泣き出してしまった。
 思えば、彼女が泣いている所は初めて見た。まだ十五歳で知った人間を全て喪って、涙の流し方より先に血の流させ方を覚えて前線に身を投じて……。何かに盲目的にのめり込まなければ心がもたなかったのだろう。例えそれが、復讐でも。
 頭を撫でようとしたらそれは手を払いのけられる形で固辞されたので、黙って隣に座ってしばらく背をさすっていた。

………こうしてると普通に子供だなぁ」
 あの後泣き疲れて頭をかくかくさせていた夏実ちゃんは、俺におぶわれるが早く眠りについてしまった。
 普通の子供でいられたかもしれない彼女を復讐の鬼へと変えたのは、化け物だ。俺と同じ、化け物への復讐を誓う少女。思うことなんて山ほどあるに決まってる。
 夏実ちゃんは貧乏くじを引かされたお人好し、なんて言っていたけど……俺たち、やっぱり似たもの同士なんだよ。

「あのー……夏実ちゃん?」
……オッサンうるさい」
「オッ!?ま、まだおじさんって歳じゃないって!……ない、よな?」
 翌朝以降、泣いたところを見られたのが恥ずかしかったのかはたまた……乙女心はわからないけれど、「オッサンうるさい」しか言わなくなってしまったパートナーに地味に心をえぐられる羽目になるのであった……