ボクはお人形さん。ご主人様のお人形さん。気が付いたら、クマさんやウサギさん、たくさんのお友達に囲まれて、綺麗なお部屋の中にいたの。
ご主人様はボクを「アイル」って呼んだ。これがボクの名前なの。でも、お部屋の中のお友達は、ボク以外、誰も名前がなかったの。ここはボクのためのお部屋で、ボクのためだけにお友達もみんなここに連れてこられて、みーんなみんな、ボクのためだけのものなんだって。同じお人形さんなのに、不思議だね?
ご主人様はりんごにオレンジ、ブドウにさくらんぼ……果物を毎日くれたの。みんな甘くて美味しいけど、もっと食べたいって体が言ってる気がしたの。お腹がくうくう、って鳴ってたけど、ご主人様は決まったぶんしかくれなかった。お友達は、りんごもオレンジも、お紅茶だっていらないんだって。なんだかボクだけ欲張りさん。
ご主人様はボクが好きで、優しかったけど、ボクがお外に出たいって言うと、すっごく怒ったの。首をぎりぎりってされたり、おしりが真っ赤っかになるまでぺんぺんされたりしたの。苦しいのも、痛いのもイヤだったから、涙がいっぱいポロポロして、ご主人様は泣いてるボクを見て嬉しそうにして、また優しくなった。
ご機嫌な時のご主人様が教えてくれた。お空は窓から見える灰色じゃなくって、綺麗な青色なんだって。見てみたいって言ったら急に怖いお顔になって、いつもより痛い『だいすき』になっちゃった。『だいすき』の後のご主人様はいつもより優しいけど、体が変な感じになるし、頭がびりびりするのは怖いから、あんまり好きじゃない。
今日も窓から灰色のお空を見ていたら、お部屋に突然知らない人がいたの。初めて見た、ご主人様以外のおしゃべりするお人形さん。スヴェンリーフって言ってたの。ボクはアイルって言ったら、にっこり笑ってボクのおててを掴んだの。
「本物のお空を見せてあげるの。」
ふわ、って髪がほっぺをなでなでした。風って言うんだって、スヴェンリーフが教えてくれた。お空は本当に綺麗な青色だったの。とっても嬉しかったけど、きっと、ご主人様に痛い痛いされちゃうから。ボクが困っていたら、スヴェンリーフは魔法をくれたの。『たいだ』の魔法。これで、ご主人様を痛い痛いできないお友達にしちゃうんだって。
ご主人様はお友達になって、ボクをお部屋に連れて行けなくなっちゃったから、ボクはスヴェンリーフのおうちの子になったの。スヴェンリーフは時々長い時間いなくなって、その間はメイドさんのお姉さんがボクのお世話をしてくれたの。でも、ご飯もお着替えも、自分でやるんだっていっぱい怒られちゃった。ボクはお人形さんだから、勝手にしたらダメなのに。
気付いたらいっぱい増えてた、スヴェンリーフのお友達。でも、あの子はいなくなっちゃって、代わりにボクに願い事をしていったの。世界を終わらせるんだって。それがどんなことか分からないけど、ボクとお友達が力を合わせればできるんだって。スヴェンリーフはお空を見せてくれたから、今度はボクが、あの子のお願いを叶えるの。
スヴェンリーフのお友達は、みんなおしゃべりするし、ボクよりずっと大きくて怖かったけど、優しいヒトもいたの。バンシー、クリス、ジーク、ネクロ、アーニャ、イアン。お名前、何回聞いてもちゃんと教えてくれたから、一生懸命覚えたの。
優しいヒト達は、みんなボクのお願いいっぱい聞いてくれたけど、一番聞いてくれたのはクライヴだったの。ボクのご飯作ってくれて、ボクをだっこして色んな所に連れてってくれた。前のご主人様みたいだけど、ボクがイヤってことはしないの。ずっと優しい、不思議なヒト。クライヴのお人形さんになりたいって言ったら、とっても嬉しそうにしてた。クライヴとする『だいすき』は優しくて、怖かったことも、ちょっとずつ好きになれる気がしたの。
いつもボクをじっと見てきて怖いリーダーが、みんなのこと見て難しいお話をしてたの。ボクとクライヴは、「マモン」って国を壊しに行くんだって。ジークが前に、ボクが生まれた国だって教えてくれたから、あのお部屋のこと言ってるの?って聞いたら、あのお部屋はその中の小さな1つで、「マモン」自体はもっともっと広いんだって言ってた。あんまりわかんなくって難しいお顔になってたけど、クライヴと一緒なら大丈夫なの。
マモンでお友達にお願いして、お友達をたくさん増やしてたら、怖いお顔の女の人が来て、ボクとクライヴは離れ離れになっちゃった。お友達は周りにたくさんいたけど、クライヴがいないのが怖くて悲しくて、泣いてたら、暗くて冷たいお水の中に、体が引きずり込まれちゃった。口の中にいっぱいお水が入ってきて、しょっぱくて、苦しくて、心の中で、クライヴのこと、たくさんたくさん呼んだの。目の前が真っ暗になって、段々苦しいのもわかんなくなって来て、でも、急にあったかい何かにぎゅってされた。クライヴだって、すぐに分かったの。いっぱい呼んだから、暗くて冷たいお水の中でも、ボクのこと見つけてくれたんだ。もうおてても動かなかったけど、大好きって気持ちいっぱいこめて、クライヴの方に寄り添った。
あったかくて安心するね。眠っていいよって、クライヴが言ってくれたから。だから、ちょっとだけ、おやすみなさい。
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