ディル君お誕生日おめでとう2023はちょっと時間が巻き戻ったうちよそオスラッテ過去編、「獣と獣の歓喜」よりも前の出来事。実は数年前の没ネタのリメイクだったりするけどゆるして!
初めて出会った時にすったもんだがあって意気投合したので、勢いでリンクシェルを共有し始めてから暫く経った。侍の深紅の伝統衣装を身に纏う自分より大きなアウラ・ゼラの男性は、いつも街で見かけるたびによく目立つなと思う。そんな彼、ディルに普段の住処をどうしているのかと聞いてみれば、今はふらふらと旅をしている最中なので各地の宿を転々としているらしい。ちなみに本来の住処はあるがエオルゼアからは遠いので滅多に帰っていないということだった。
「なら、たまになら俺の家に来てもいいぞ?」
「いやー……、それは流石に悪いと思う。世話になりすぎてるからさ……」
「でも、毎日の宿代とか食事代とか結構かかるだろう?」
「まあ、それは……」
自分は最近お金が一定以上貯まったので、ようやく小さな自宅をラベンダーベッドに建てることができた。一応生活に必要な家具や設備なんかは自分でコツコツと作ってあるし、1人増えるくらいなら多少は問題ないと思っている。
しかし、ディルは日々あちこちで冒険者ギルドからの依頼などをこなしているが、最近会うたびに痩せているような感じがあったり、髪や肌や鱗が少しボロボロになっているようにも見受けられる。武器も細かい傷が増えていたりせっかく綺麗だった伝統衣装も少しほつれているようだが、修理をされたようには見えなかった。それを指摘して来てもらおうかとも考えたが、最初からここまで遠慮されていると素直に来てくれないだろうなとこの時は諦めてしまった。
それから暫くしてある朝にグリダニアの冒険者ギルドで会った時、せっかくならと自分はある提案をした。
「んー、じゃあさ。今日は依頼をやるんじゃなくて、ちょっと俺の製作で手伝ってもらいたいことがあるんだよね。自宅でやる作業だから来てほしいんだけど」
「製作……? 何か俺に出来ることがあるのか?」
「ちょっとした力仕事があってな。一人でやると何日もかかりそうだから手を貸してくれると凄く有難いんだ。俺からの依頼ってことで報酬もちゃんと出すよ」
「そうか……なら、俺でよければ手を貸そう」
こうして2人で自宅に向かい、そこへ置くための大型の棚をいくつか作るためにディルに木材を運んでもらったり、そのほかにも模様替えのために家具を運ぶのを手伝ってもらったりした。ついでに家に置いてある武器や防具の点検や修理をして、せっかくだからと半ば無理やりではあるが彼が身に着けていた衣装や刀も点検して気になるところを修理しておいた。ずっと気になっていた部分をやっと直すことが出来て、自分自身はすごく満足していた。
夕方になり、一通りの作業を終えたところでディルにお礼と称して夕食を作ってあげることにした。ディルは東方地域の出身ということでエオルゼアでの定番の料理が合うのかどうかは分からない。しかし自分自身はまだ東方地域特有の料理について学び始めたばかりなので、中途半端な料理を出してしまえば彼に嫌な思いをさせてしまうかもしれない。少し迷ったが、今回はエオルゼアでの定番料理を出すことにした。前日に仕入れた大きめの羊肉をステーキとして焼き、キノコと野菜を合わせた炒め物にシンプルなコンソメスープを作った。バスケットいっぱいに詰め込んだパンと熱々のお茶も添えて、それらを小さなダイニングテーブルに並べてディルへと振る舞う。彼は嬉しそうに「どれも美味しい」と褒めてくれた。こちらが料理について感想が欲しいと言ってみると、彼は「味は申し分ない、欲を言えばもう少し味は濃い目で、特にスパイスが多めだと好みの味に近い」と教えてくれた。今度時間が出来た時にはスパイス関係の情報について集めようと思った瞬間だった。
その後はどうしても手伝いたいというので、食後の皿洗いなどの片づけを手伝ってもらった。時間を見れば日付が変わるまであと数時間といったところだったので、ディルはこれ以上居ても迷惑だろうと帰ろうとした。が、なんとかそれを引き留めて「せめて風呂に入って行ったらどうだ」と提案した。まあ、自分自身は普段はシャワーだけで済ませてしまうことが多いので、せっかく設置したバスタブを使うことはあまりないのだが。風呂と聞いたディルは一瞬ピタリと止まり、何やら迷っているようでこちらを見つつ考え込んでいた。「タオルやら一式のセットはすでにあるし、好きに使ってくれて構わない。これも今日の報酬の一つだと思ってくれればいい」とこちらから追加で提示してみると、なら使ってみたいという返事を貰うことが出来た。どうやらディルは、東方地域で暮らしていた時の習慣でもあったようだが、風呂にゆっくり入ることが好きらしい。それから浴室にディルは1時間くらい入っていただろうか。出てきた時のディルはとても満足そうにしていた。
綺麗になったディルに夜も遅くなってきたし泊まっていくかと問いかけたが、それは流石に世話になり過ぎているからと断られた。こちらのやりたい……いや、やってもらいたいことは大方達成は出来たし、これ以上束縛してしまうのも良くないだろう。そう思いながら自宅から去るディルを見送った。その後は自分も軽くシャワーを浴びて身体をバスタオルで拭いて乾かし、簡素なパジャマに着替えてからベッドに寝転がる。目を閉じると、手持ち無沙汰な脳内は今日の出来事を思い出してく。
新しく作った本棚を一緒に運んでくれたこと、普段使っている刀について丁寧に説明してくれたこと、美味しそうに料理を食べてくれたこと、風呂上りの心底満足そうな笑顔……
今日はディルと一緒に家にいたんだ。考えてみたら、今まで他の人をこの家に招くことはなかった。だからこそ、彼が過ごしていた時の行動や表情がいっそう強く、鮮明に記憶に残った。普段の戦闘している時や街を歩いている時とはまた違ったディルを垣間見た。
そして、彼が去った今。この家は自分1人だけに戻った。当たり前に戻っただけなのに、自分以外この家にはいないはずなのに、彼の声が、姿が、まだ残っているような気がした。
自分は元々、知らない誰かの気配があるとあまり寝られない体質だった。だから、目を閉じてから随分と長い時間経っているような気がするが、未だに眠りの中に入ることが出来ていない。まだ、ディルと自分がこの家の何処かで過ごしているような気がする。ここで寝ている自分とは違う、記憶の2人がこの家の中にいる。聞こえないはずの会話が、足音が響いてくる。それらが自分の心の中に影を落とすようで、疎外感というのだろうか? でも……ちがう、もっと、単純だ。
「……さびしい」
そう呟くと、ふと、頭の上に何かが触れたのを感じた。
◇ ◇ ◇
目を開けると、白いシャツを着た見知った顔がこちらをのぞき込んでいた。頭の方ではふわふわと俺の髪の毛をすくように撫でる、大きな彼の手の感触を感じた。
「……でぃる」
「んー?」
「いつからそこに?」
「なに言ってるんだ、ずっとここにいたぞ」
……ああ、そうか、やっと理解した。ここは今俺たち2人が住んでいるゴブレットビュートの自宅の寝室だ。あの光景は、かなり鮮明に過去を再現していた夢だったのか。ちらりとベッドの傍に置いてある時計を見ると朝の7時過ぎで、どうも俺は少し寝坊をしてしまったらしい。いつもは俺がディルを起こす側になることが多いのに、珍しく起こされる側になっていた。
「まだ寝ぼけてるのか? まあ今日は予定もないって言ってたし、まだ寝ていたいっていうなら止めはしないが」
「ううん、大丈夫。もう起きるよ」
そう言って身体を起こして、上半身を伸ばすようにグッと背伸びをする。それからベッドから出てパジャマから部屋着に着替えている間も、ディルは俺の様子をジッと見ていた。
「どうした? 俺に何か変なところでもあるか?」
「……いや、何もないさ」
「ふーん?」
着替え終わってから、近づいてきたディルに再び頭をわしゃわしゃと撫でられる。それがいつも以上に執拗に思えて、思わず彼の手を払おうとした。
「なに、もうっ、どうしたんだよ、今日はしつこいな!」
「はは……なに、今日もお前の毛は特に手触りがいいなと思っただけだ」
「はあ?」
それから俺が何度も抗議しても、ディルは変わらずに撫で続ける。しまいには抱きしめて頭に顔をつけて匂いを吸い込んできて、それでいて彼はすごく機嫌がいい。こうして、構いたがり度が増量したディルとの一日が始まってしまうのであった。
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