ないものねだり、あるものさがし

うちよそのオスラッテもいますが、メインはよそよそオスラッテ様(白魔レン×竜騎士サンシ)です。
設定めちゃくちゃ聞きまくったのにどれだけ再現出来てるか…大変怪しいのですが、お借りさせていただきありがとうございます!

※流血する怪我の表現があります。

 一面、ぐにゃりと曲がり続ける紫色の光に覆われた不思議な世界。
どうしてこんなところにいるんだろう、自分はいったい何をしていたのだろう。そう思う前に目の前に人がいることに気が付いた。それは遥か昔、自分が一緒にいたいと願い続けた二人の存在、離れ離れになった自分の親。その瞬間一気に想いが溢れかえって、記憶の濁流に堪え切れずに叫んだ。

 やっとあえた!

 そう思って二人に駆け寄ろうとした。けれどすぐ近くにもう一人、二人に寄り添うように並ぶ小さな存在がこちらをジッと見ている。そいつは幸せそうに二人のほうを見上げて微笑んでいる。自分には瞬時にそいつが誰なのかを理解した。

 ねえ、どいてよ。そこにいきたいんだ。おまえのばしょはそこじゃないだろ?

 いや、違う。

 どうして、と思考が止まる。だって目の前にいるのは紛れもなく自分の親で、ずっと会いたくて、そのために色んなことを我慢して隠してきたのに。手を伸ばすことをやっと、許されたと……

 ここは、お前が壊したんだろう?

 ぐらりと地が揺れたような衝撃が身体を襲う。目の前から崩れるように愛おしい存在が消えていく。そいつだけが薄気味悪い笑顔で立っている。

 わからない、どうして?こわした?なにを?ああ、そうか……
 おれ、やっぱり、いらなかったんだ。

 そいつが静かに頷くのが見える。幼い自分がこちらに向かって刃を振り下ろそうとしている。もはや感情のコントロールは出来ないまま、ひたすらに自分は泣き叫ぶ。

 こんなじぶんはもういらない。いっそすべて、こわしてしまおう。

 いつの間にか手に持っていた槍を、襲いかかってきた自分に向かって突き刺した。


「いっ……っ!!」
 とっさに盾で槍の軌道を逸らそうとしたが、あまりにも素早い行動に対処が遅れて左の肩口に矛先が掠った。防具に覆われているはずのそこから鈍い痛みが起こり、歯を食いしばって耐えようとする。
「大丈夫かっ!?」
 少し離れた位置で戦闘を続けているディルから声がかかる。東ザナラーンに突如現れた大型妖異アーリマンの討伐のためにいくつかの部隊を組んで荒野にいたのだが、そいつが放った光を浴びた者たちが突然我を忘れて暴れだしたのだ。こちらは盾で光を防ぎ直接見なかったことで大事には至らなかったが、最前線で戦っていた近接職の者たちが踵を返してこちらに向かって襲い掛かってきたのだ。
 ミコッテの竜騎士のホムラもまた光を浴びてしまったらしく、キッとこちらを鋭く睨みつけながら自分のほうへと飛びかかってきた。痛みはまだ続いており、腕が痺れがどんどん広がる。そして力が入らなくなった手から盾が抜けて地面に転がった。
「う゛ぅ……っ、くそっ」
 こうなってしまっては左腕はもう使い物にならない。こちらが痛みに耐えている間にも金色の髪と尻尾を揺らしながら他の冒険者へと飛びかかる姿が見える。なんとかしてあれを止めなければ。右腕に剣を構えなおしてホムラの方へと向き、ありったけの声を出して叫んだ。
「こっちを見ろおおおおお!!!!」
 その声に反応するようにホムラがこちらを向いた。それだけでなく周辺で暴れていた他の冒険者もこちらを向いている。次の瞬間各々が何かを叫びながらこちらに向かって押し寄せてきた。
「悪いが、ちょっと手荒にいくぞ!」
 自分の目の前にある地面にエーテルを込めた剣を突き刺す。すると周辺から衝撃波が発生し集まった人々を吹き飛ばしていく。しかし中には衝撃波を避けて更に迫ってくる面々もいる、その中にはホムラもいた。はたして盾のない状態で何人対処できるのかと思いながらも地面から剣を抜いて構え直そうとした。すると目の前にサッと誰かが立ちはだかる。
……っ、止まってください!」
 ふわりと浮き上がったその人が、杖から生まれた小さな光球を空に放つ。そして光球が輝きながら破裂した瞬間、周囲にいた人々の動きがピタリと止まった。その直後、黒い雷がその人たちに向かって次々と降りそそいだ。雷を受けた人々は倒れて動かなくなり、痺れているのか身体を震わせながらぐったりとしている。
 杖を持った人がこちらに振り返る。薄い紫色の髪に映える白い角をもったアウラ男性は酷く焦ったような表情で自分に言った。
「なんて無茶してるんですか……っ!早く止血を!」
 止血?俺は平気だ、だって別に怪我はしていないだろう……。そう言おうとした瞬間、目の前が急に真っ暗になる。遠くから俺を呼ぶディルの声もしたような、気がした。


 次に目を開けると俺はどこかの部屋のベッドの上で寝ていたようで、しゅんと耳が垂れ下がりながらも微笑むホムラがこちらをジッと見ていた。
「あ、気が付いたか……?」
……ん、あの、ここは……ッぐう!?」
 身体を動かそうとしたら左肩がズキズキと痛み出した。思わず顔をしかめて呻いているとホムラが口を開いた。
「今は動かない方がいい。傷口が開いてしまうから」
「はい、わかりました……
 どうも自分は思った以上に大怪我を負っていたようで。もちろん言われた通りに動かずに寝ていると、笑う表情を変えずにホムラが言葉を続ける。
……俺のせいで。迷惑かけてすまない」
「いえ、気にしないでください。それよりもそちらは大丈夫でしたか?」
「今は問題ない。……俺のことなんかより、自分のことを大事にしてくれ」
 そう言ってホムラはまたこちらに笑いかけた後、力なく俯いてしまう。下から見た表情には先程の笑顔はなく酷く憔悴していて、その様子にこちらも不安になっていく。
 その時、遠くからガチャリと扉の開く音がした。首を動かしてそちらを見ると包帯や薬を手に持った先程のアウラ男性、ハワードが部屋に入ってきた。彼はこちらが起きていることに気づくと、バタバタと急ぎ足でベッドのほうまで駆けてきて話しかけた。
「ああ、目が覚めたんですね!具合はどうですか?」
「ちょっと肩が痛いくらいで、後は大丈夫だと思う……
「そうですか!少し前まで出血が酷くて貧血状態になっていたので、もし何か異常があればすぐに言ってくださいね。」
 ホッと安心したように笑い胸を撫でおろしたハワードとは対照的に、俯いたままのホムラは何も言葉を発することがない。まだ不安を残しながらも、ふと疑問に思ったことがあったのでハワードに聞いてみることにした。
「ありがとう。そういえばここは何処なのか教えてほしいんだが……
「あ、言ってませんでしたね、すみません!ここはキャンプ・ドライボーンの宿屋です。治療のためにしばらくベッドを借りてて、あの妖異との戦闘から一日は経過してますね」
「え、一日……。そんなに寝てたのか?」
「はい」
 自分の感覚では少し意識を飛ばしていた程度なのだが、思った以上に寝てしまっていたようだ。これはやらかしたなと失念していると、俯いたままのホムラがぼそりと呟いた。
……おれのせいだ。おれがきずつけたから、こんなことに」
「いや、さっきも言いましたが気にしなくていいんですよ。」
「でも、おれがいたからこうなった。おれが……、いなかったら」
……ホムラ君?」
 そのまま突然立ち上がったホムラは、虚ろな瞳のままブツブツと呟いて部屋を飛び出していった。しばらく自分もハワードも唖然としていたが、このままだといけないと我に返りまだ動かないハワードに声をかけた。
「あのまま行かせていいのか?様子を見に行ったほうがいいと思うけど……
「え、あっ、でも……
 ハワードは手に持った包帯や薬、そしてベッドにいる自分を交互に見ながらうろたえている。恐らくは自分のことが気になって躊躇しているのだと思い、出来るだけ優しく諭すように声を出した。
「俺のことは大丈夫だから、今は彼を追いかけてくれないか。あんなに追い詰められたような状態を放っておくわけにはいかないけど、俺は今行きたくても行けないから。何よりも、ハワードにとって大切な人なんだろう?」
 ハワードはその言葉に頷いてから手持ちの荷物を近くにあったテーブルに全て置き、またバタバタと足音を立てて部屋を出て行った。あとは二人でなんとかいい方向に動いてくれることを祈りつつ、ゆっくりと息を吐いて目を閉じた。


「クルウ、まだ寝てるのか?」
 ふと名前を呼ばれたので目を開けると、上から覗きこんでいたディルと目が合った。
……わあ、お前今まで何処にいたんだ」
「ハワードに頼まれてウルダハまで薬やら色々買いに行ってた。で、子守りを頼んでたホムラも合わせていないんだが、何処にいるか知ってるか?」
「あー……えっと、それはだな」
 とりあえず自分が見たものを今までの経緯として説明すると、ディルは呆れたようにため息をついた。
「はあ……。そうか、アイツもそうだったっけな……。まあ、今は成り行きに任せるしかないな。俺たちが口挟んだところでどうにかなる問題とは思わないし」
「そうだな」
 自分もディルと同じ考えなので軽く頷く。その後はあまり動けない自分の代わりに左肩に巻いていた包帯を交換してもらったり薬を塗ってもらっていると、ディルがまた呆れたようにため息をついた。
「しっかしなあ、お前が肩から血を出しながら剣を滅茶苦茶に振ってるの見た時はゾッとしたぞ。というかあの時、俺の声は聞こえていたか?」
「えーっと、……多分、聞こえてないな」
「だろ?俺が何度止まれって言っても聞きやしない。おそらくはお前もあの光の影響を受けていたと思うんだ。」
「そう、かなあ……?でも考えてみれば、肩がこんなにパックリ切れてるとは思ってなかったな。あの時は血が出てるようにも見えなかったし」
「せっかく盾で急所を避けてたからちょっと血が出ただけで済んでいたのに、よりにもよってお前が闇雲に動きまくるから血を流し過ぎてぶっ倒れたんだぞ……。ハワードが回復魔法をし続けてくれたおかげで早めに止血できたし、ホムラもあの後正気に戻ってからお前をここまで運んだり寝てるお前の看病を手伝ってくれたんだぞ。あとでちゃんと感謝しろよな。それと、もうちょっと自分のことも冷静に見れるように。」
……はい、本当にすみませんでした」
 申し訳ない思いの中で一通りの世話も終わり、ディルは食事をとってくると言って部屋を出て行った。しばらく待っていると、いくつかの皿や水の入ったコップをのせたトレーを持ったディルが部屋に戻ってくる。
「飯食べれそうか?」
「あー、利き腕はやられてないし腹も減ってるから食べるよ」
「よし、じゃあ口開けてろ。食わせてやる」
 こちらが動けないのをいいことにそう言ってニヤニヤと笑うディルに、相変わらず悪い奴と思ってムッと不貞腐れた。


 広い荒野、日もすっかり沈みかけている中を俺はひたすらに走る。
 俺はいてもいいのだろうか。俺という存在自体が不幸になる要因なのではないのだろうか。そう思っていたからこそ、せめて皆のためにといつも笑っていた。
 けれど俺が笑っていても仕方なかった。どうせ嘘だろうと気味悪がって皆は俺から離れた。そんな自分が嫌で、いなくなりたくて、死に近づくために沢山の危険なことをした。
 ある時、そんな俺に興味を持つ奴がいた。そんな人を見るのはずいぶんと久しぶりだったけど、どうせまたいなくなるのだろうと軽く思って道楽に付き合ってやった。
 どんなに酷いことを言っても、危険な任務の中で大怪我をしても、そして現実から逃げようとしても。彼はずっと俺を追いかけて引きとめようとしてきた、俺を癒そうとした。
 そんなことしたって、また無駄だろうと思っていた。
「待ってよホムラ君!」
 俺よりも体力がないのに、息を切らせて走ってくる。くるな!と口に出したくても、何か別の想いが溢れてきそうで唇をギュっと噛みしめてしまう。
「クルウさんは気にしてないって言ってたよ!ディルさんも心配してたんだ!だから帰ろうよ!二人とも宿屋で待ってるよ!」
 そんなわけないだろう!だって俺は自分自身の槍で仲間を傷つけてしまったのだ。しかも叶うことのない夢に溺れようとして、否定されたような錯覚を起こして、非情な現実に嘆いて、もういっそと思ってこうして逃げているのに!
「お願いだから!僕の話を聞いてよ……そしてホムラ君の話も聞かせて、っ信じてよ!?」
 ヒュッ、と彼の息の詰まる音が聞こえる。ふと足を止めて振り返ると、ゼエゼエと苦しそうにしながらもまだこちらにフラフラと足を進めるハワードの姿があった。それを見た俺はとうとう我慢ならなくなって、流れてくる想いのままに叫んだ。
「お前が思ってるほどに俺はお人好しじゃないんだよ!!仮にも仲間を裏切った俺が!これ以上あの場所にいられる資格はないんだよ!!!」
 叫んでいるとドンドン顔が熱くなって、視界がぼんやりと滲んでくる。
「俺が、俺自身が信頼できる人じゃないんだよ!そんな奴いてほしくないに決まってるだろ!!頼むから、これ以上俺を追い詰めないでくれ!!!もうやだっ、消えてしまいたい……いなくなりたいんだ……っ」
 俺も息が乱れて、ボロボロと何かが零れ落ちて、気がついたら目の前の地面に膝をついていた。足音がどんどん近づいて聞こえてくる。その主からはすすり泣くような声が聞こえていた。
「っぐす……!どうして、ホムラ君はいつも嘘を言うの……っ?」
「うそなんてっ、俺は……
「だって、いなくなりたいなら、もっと早くあの場から逃げてると思う……。でもあの戦闘の後には僕の手伝いもしてくれたし、クルウさんの看病も一番積極的にしてくれた。ホムラ君がいなかったら、こんなに早く回復できなかった。」
「別に、俺じゃなくても、ディルさんがいただろう……
「ディルさんにも僕のフォローを沢山してもらったけど、それでもあの時沢山の人が怪我をして動けなかったし、妖異を退けるのもディルさんだけじゃ大変だった。先に正気に戻ってくれたホムラ君がトドメを刺してくれたから。あれ以上の被害がなくて済んだんだよ」
 そう言われて、俺は夢の終わりの後の出来事をゆっくりと思い出し始めた。


 あの時、身体がいきなり動かなくなってから目の前が急に明るくなって。沢山いたはずの敵が消えて。気が付いたら周りに倒れている人たちと、青白い顔をして倒れているクルウに回復をし続けるハワード、そして俺に声をかけるディルさんがいた。
「ホムラ!!聞こえるか!?」
「え?あ、ここ……はっ?」
「後ろを見ろっ!来てるぞ!」
 導かれるようにサッと振り返ると大きな目玉がこちらに迫っている。まだ状況を理解できないし身体は動きにくい。それでも咄嗟に槍を目の前の奴に向かって突き刺してやると、気味の悪い叫び声とともに得体のしれない液体がドバッと溢れだした。
「うわっ、きたねえ……!」
 こんなの浴びるのはごめんだと足に力を入れてバックステップをする。あちらもギャイギャイと呻きながら悶えてる中でさらに巨大な火球が上に出現する。
「喰らえっ!」
 ディルの詠唱が終わると同時にボンッと大きな爆発音がする。目玉に火球がクリーンヒットした後には辺りに焦げるような臭いが広がる。目玉は焼けて真っ黒になっているが、まだ動こうと翼を動かしている。そいつは何かを仕掛けようとしてるのか、ふわりと紫色の光を纏い始める。その光は確か、夢のような風景の前に見た光に似ている気がして。
「ああ、そうか」
 なんて反吐が出る話だ。こいつのありもしない幻想に魅せられて、俺はずっと騙されていたのか。そう確信したら怒りが静かに湧き出てきて、躊躇うことなく槍を構える。
……もう二度と、俺に期待させるな」
 容赦なく目玉に向かって、深く深く槍を突き刺した。


「あれは、せめて迷惑をかけた詫びをしなくちゃと思って……
 ハワードと共にディルも回復をして走り回る中、応急処置が済んだクルウは俺が急いでベッドのある所まで運んだ。二人が帰ってくるまでに自分もポーションを飲みつつクルウの様子を見ていたが、彼はなかなか目を覚まさなかった。
「ディルから、俺がやったことを聞いて、俺がいなかったらクルウは怪我をしなかったと……
 帰ってきた二人からあの時自分が何をしたのかを聞いた。幸い命にかかわるものではないにしろ、自分が傷つけたということは心に重く圧し掛かった。ほら、やっぱり俺はダメなんだ。こうなってしまったんだと。
「だからっ、えっと」
 俺自身が罪だと思って。目が覚めたクルウに気にするなと言われても、どうしても信じられなくて。パートナーを傷つけたからディルにも酷く恨まれているような気がして。……あと、幻滅されたような、気がして。
「おれはっ!」
「優しいよね、ホムラ君」
……はあ?」
 見当違いの言葉が聞こえてきて、思わず俺は顔を上げてハワードの方を見る。
「ずっと、寝る間も惜しんで看ていてくれたから小さな体調の変化にも気づけたし。それに、周りの人のことをよく考えてるよね。僕はちょっと不甲斐ないところもあるから自分のことに精一杯で、たまに周りが見えなくなっちゃうけど、その分ホムラ君があちこちに気配りしてくれてるの凄く助かってるんだ」
 まだ泣きながらも柔らかい笑顔でこちらを見ていたハワードは、更に言葉を続ける。
「でもさ、ホムラ君だってもっと自分のこと、言ってほしいな。何がしたいとか……僕のお節介だったらごめんなさい。けど、本当に楽しそうに笑ってるホムラ君を、もっともっと見たいんだ」
 不器用で、ヘタレで、お人好しで。こいつと付き合うのは無駄だと最初は思っていた。けれど、泣きながらも必死に手を伸ばしてくる彼を、どうしてか振りほどけなくて、ああ……なんでだろう、分からないけど、もう一度信じてみようかと、……また、思ってしまった。
 もしかしたらこいつは思った以上に、俺のことが分かっている天才なのか。それとも奇跡的に引き当てた天然モノなのか。どっちにしても、なんだか可笑しいほど呆れてしまった。
「好きにしろよ」
「へっ?」
「お前がそう思うなら、もう勝手にどうにでもしてくれ……
 そういえば……見透かされた思いが変化するとごく稀に好意と呼ばれるものになるのだと、昔の知り合いが言っていたような気がした。