ある夜の宴会が終わって

「獣と獣の残滓」にて登場したヒューラン男性ヴァスクとアウラ男性シン(師匠組)中心。後日談的な話。
明確にどちら側とは決まっていませんが、既に肉体関係まで持っている前提。オスラッテたちはちょっとだけ。

「人の寝顔を肴にするのも、またオツなものだよね。」
 そう言いながらヴァスクが嬉しそうに、ソファに丸くなって眠る彼の白い髪をふわふわと撫でている。その様子を見たシンは何も返さず、グラスに残った酒をぐびぐびと呑み続けた。
 ふとダイニングテーブルに目を向ければ、既に何時間か前から大量のワインやエール、ライスワインの空き瓶に埋もれるように突っ伏しているディルがいる。シンが1人呑んでいる間にヴァスクが楽しそうにあれこれとディルのグラスに注いでいて、暫くしたらこうなっていた。恐らくもう数時間はこのままだろう。
 一方、先程ヴァスクがソファに運んだクルウは最初は酒を遠慮していた。ディルが潰れるまではシンの隣で静かにオレンジジュースやらを飲んでいたが(ちなみに一瞬だけヴァスクを止めようとしたが気迫に押されてすぐに引っ込んだ)、その後は暇になったヴァスクによって少しずつ酒をすすめられていた。とはいえ元々弱いことは知っていたので、かなりスローペースでちびちびと呑みつつ、2人でディルの昔話などを適当に話していたら興味津々に聞きながら酒を楽しんでいた。そうして暫く話していたらクルウがうつらうつらと舟を漕ぎ始めたので、ヴァスクがそっとグラスを取り上げて空いているソファに移動させてあげた。穏やかに眠っているので悪い酔い方はしていないだろう。
「また暇になってしまったね。」
 戻ってきたヴァスクがシンの隣に座ってため息をつく。しかし表情はどこか楽しそうで。そのままテーブルの上に何かないか探し始める。
「ディルをすぐに潰さなきゃいいだけだろう。」
「だって、別に潰したってここが自宅なんだから。自分の家で思う存分飲んで眠っているだけ、そうだろう?」
 ヴァスクはディルの近くに酒が残っている瓶を見つけたようで、自分のグラスに中身を全て注いでから呑み始める。シンはもはや何も返すことはなく、黙って皿に残っているクルウが作ってくれた料理を食べ進めた。

 それから数十分経った頃、いよいよ酒の残る瓶もなくなってヴァスクがソファの背もたれにボスンと沈むように寄り掛かる。
「いやあ、飲んだねー。久しぶりに満足したよ。」
そうか。」
 シンは静かにソファから立ち上がると、テーブルの上の空瓶をまとめたりや皿を重ねて片付けを始める。ヴァスクは何をするでもなく、ニコニコを笑ってその様子を見ているだけ。それでも何を言うでもなくシンは淡々と作業を進め、とりあえずテーブルの上にあったものはキッチンのシンクに大方移動が完了したので一旦ソファまで戻ってきた。
 再びヴァスクの隣に座ったシンが他の2人の様子を見ると、ディルはたまに唸りつつもテーブルに突っ伏したまま。クルウは変わらず器用に丸くなったまま別のソファの上で眠っている。時間は日付をとっくに越えている。このまま2人をどうするかシンが思案していると、急に自身の太ももに重さを感じる。見ると鮮やかな金茶色の髪をさらさらと広げて太ももを枕代わりにし、仰向けでこちらを見るようにヴァスクが寝転んでいる。
「どうした?」
「別に、暇になったまま放置され続けるのも癪だからさ。」
 普段は髪に隠れていたヴァスクの小さな耳が微かに赤いのは、アルコールのせいなのだろうか。揺れる瞳がギラリと光りながらじっとシンを見つめている。ほんの一瞬でシンの思考が変わって、グワッと片手で勢いよくヴァスクの肩を抑え込むように掴み、そのまま襲い掛かるようにヴァスクの唇を奪った。シンの黒い角がヴァスクの頬に刺さりそうになるが、ヴァスクはそれを物怖じせずに受け入れ、暫くの間は2人分の舌の絡む音と吐息だけが聞こえている。
 数分は経っただろうか。長い噛みつき合いが終わって互いに口を離すと、ヴァスクが心底楽しそうにクスクスと笑っている。シンは手の甲で口元を拭うと眠る2人の様子をチラリと伺う。先程と特に変わったところはない。
「いくら何でも弟子たちの家でこんなことするなんて、ねえ?」
 ヴァスクは怒るわけでもなく、むしろまだ何か期待するかのように目を細めてゆらりと笑みを浮かべている。シンがそっとヴァスクの耳に触れると、思ったより熱を帯びているのか酷く熱く感じる。ヴァスクはわざとらしく少し腰を浮かせて、またクスクスと笑い始める。
「なに、もしディルたちにバレたらお前が誘ったと言うだけだ。」
「ずるいなあ、シンは。」
 ほら、どっちも悪い男じゃないか。もうとっくに、この先が分かってるくせに。
 いつの間にか契約は完了して、2人は静かにダイニングから消えていた。

 それから数時間後、日がそろそろ昇り始める頃。
「んー、あっ?」
 ソファの上でもぞもぞと動き始めたクルウはゆっくりと起き上がると、周りをキョロキョロと見回して状況を確認する。ディルはテーブルに突っ伏していたはずなのにいつのまにか倒れこむように床で寝ているし、あれだけあった酒瓶や皿はキッチンに移動されている。
(あの2人がやってくれたのかな。俺も途中で寝てしまったし、申し訳ないことをしたな。)
 ひとまず硬い床で寝かせるのはよくないと、未だに眠ったままのディルをせっせと持ち上げてソファの上に運んでおく。その後はキッチンに移動して皿や酒瓶を洗って片付け始めた。
(それにしてもな。)
 クルウはカチャカチャと皿を洗いながら、先ほどの夢の情景を思い出す。ぼやけた視界の先で見知った2人が楽しそうに笑い合う声。混ざり合うほろ苦い煙草の香り。そして。
(いやいやいや、いくらなんでも!それはないって!)
 1人ブンブンと首を振って、その先の情景を無理やりかき消す。一応ヴァスクとシンがそれなりの関係であることは既に知っている。しかし仮にも自分のパートナーの恩人や師匠である存在に対してその夢は失礼だろう。
(ダメだもう、最近会う度に色々な事を教えてもらえてるけどさ。どうしても内容が段々と過激というか。それでいて重要なことはぼかしてくるし。なんだよもう!)
(絶対俺、遊ばれてるよね!?)
 次の宴会があるなら、お酒はきちんと断って最後までちゃんと起きてやるんだと密かに誓う。クルウはいつの間にか先ほどよりもハイペースでガチャガチャ音を立てながら皿洗いを続けていた。