倉木
2023-12-17 16:11:15
2300文字
Public Rot
 

LD

Rot亀


着地したのは雑居ビルの屋上のようだった。
家からは少し離れたところまで来てしまったのだろう、マーケットのネオンも届かない薄暗い空の下ではすぐに場所の判別は難しい。
戦闘続きからの一時的な離散は、高揚した気持ちを抑えるのにもちょうど良いタイミングだったと言える。
少しだけ上がってしまった息を整え身体を伸ばして深呼吸、ようやく思考する感情が戻ってきた気がした。
そんな時、夜風とは違うモーター音が響き、レオナルドは振り向くと両手を大きく振った。
それがなんだかわからないわけがなく、予想通り細長い影が頭上を通り過ぎる。

「ドニー!お前も怪我なさそうだな」

降り立ったドナテロは見たところ傷ついた様子はなさそうだ。
まあちょっと数が多いだけの有象無象だったし、大きな獲物はレオナルドが主に相手をしていたから平気であろう確信はあったけれど。
あまり背後に気を遣う余裕はなかったから、意識外で兄弟が傷ついていなくて良かった。
そんなレオナルドに反し、ドナテロは不機嫌を隠さずレオナルドをひとにらみ。
普段なら両手に抱いてすらいる武器を放り出し、ずかずかとこちらに歩いてくる。
目の前まで来て、それでも止まらず、そして。

「ええーとぉ?ドナテロサン?」

顔面の両横に手をつかれ、後ずさりしようにも背後には壁だった。
所謂壁ドンてやつだなって揶揄おうにも、真正面のドナテロからの圧力にとてもそんな軽口を言える様子ではない。
勢いに負けて少しずり下がってしまったせいで、いつも感じている少しばかりの目線の差が逆転してしまっている。

………お前ほんと、ずるいよな」

ドナテロは先ほどからずっとレオナルドを睨みつけ、見下ろしたまま。

「な、なんのことかな、って

完全に目の据わった様子に必死に今日の記憶を掘り起こすが、特段ドナテロを怒らせるようなことをした自覚はない。
さっきだってラファエロにも満足気に背中を叩かれたし、ミケランジェロからもスゴイスゴイって絶賛されたのだ。
しょっちゅうその気はなくても怒られているが、今日に限っては特に悪いことはしていないはずなのだけれど。
すっかり勢いに押されていると、はぁぁぁ、と特大の溜息を吐かれる。
そしてばちんと音がするくらいに両頬を掴まれた。
痛いと思う間もなく一瞬の唇の感触。
押し付けられたそれはすぐに離れていこうとするから、反射的に後頭部に手を回して引き寄せた。
先ほどの呆けた様子からの機敏さに予想していなかったらしく、びくついた身体はそれでも抵抗を見せず身を預けるように力を抜いた。
ドナテロからの誘いなんて滅多にない、疑問やその他は瞬時に放り投げて中途半端に開いた口に舌をねじ込む。

……ふ、ぁ」

ぴちゃぴちゃと唾液が跳ねる音。
上顎を擽るとかくりと膝が落ちて、落ちないよう掬い上げた。
一度離れた唇の代わり、眼の下を赤くした様子のドナテロに湧き上がる熱の感覚とは先ほどとはまた違ったもの。
それはドナテロだって同じなはずで、お互いの熱をわかってしまえば、どちらともなく再度唇が触れ合おうとしたその時。
突然ばっとドナテロが顔を背けて、近すぎたせいで頭の器具が顔に激突。
レオナルドが痛みに呻く間、ドナテロはよくわからない機器で何か操作をしていた。
何か信号でも拾い上げたのだろうか、真剣な様子に先ほどの甘い雰囲気はどこかに吹き飛んでしまったようだ。
目尻の赤や濡れた口元はそのままな分、逆にちょっとエロいとか思った。
そんなドナテロは何やら通信で話かけ(微かに聞こえる相手はラファエロのようだ)、そしてそのままさっさとレオナルドから背を向ける。

「あ、おいドニー!?」

あっけに取られている間に落ちていた武器を拾い上げ、そのままビルから飛び降りてしまった。
慌てて呼び止めてもレオナルドには一切目もくれなかった。
足元ふらふらだったくせに飛行できるから問題ないとかちょっとずるくねぇ?それにあんな顔のまま出歩いて大丈夫なのか?とか。
言いたいことも行動しなきゃいけないことも多いがとことん振り回された気がしてすぐに動くには、ちょっと疲れた。

「レオー!大丈夫ー?」

そんな時頭上から聞こえる溌剌とした声。
同時に飛び込んできた塊に慌てて口元を拭う、首を傾げたミケランジェロはどうやら気付かなかったらしい。

「何かあった?ドニーも居た気がしたんだけど」

「い、いやぁ大丈夫絶好調!ドニーはちょっと変だったけどなぁ?」

色々濁して出てきた言葉だったのだが、ミケランジェロはああ、と頷き手を打った。

「だってドナはカッコいいレオがダイスキだからね」

さっきのレオすっごいカッコよかったもんね!と無垢に褒められたが、レオナルドは驚きに目を見開く。
確かに先ほどの戦闘での大立ち回りは自画自賛してもいいくらい格好良かったと思っている。
だがひたすら絶賛してくる兄弟たちの中の一番後ろで、興味がなさそうにしていた。

「ふーん

なのにあんなラリッたことするくらいには、それなりに撃ち抜かれていたらしい。
へぇ、ちょっと面白いこと聞いたかも。
ニコニコと笑うミケランジェロには悪いが、おそらく悪い顔を浮かべているであろう顔は隠しきれなかった。
どうやら試してみるにせよ夜はもう少しだけ続きそうだし、それならさっさと終わらせよう。
軽快に飛び出したミケランジェロに続いて夜の空へ向けて地面を蹴った。
一足先に向かった背中に追いつくのは気分の乗ったレオナルドにとって、今日一番の簡単なミッションかもしれない。