倉木
2023-12-17 16:09:53
2326文字
Public 新亀
 

RD

新亀


自身のラボに籠り、気が付いたら3日経ってた。
程々に、と散々言われていたし勿論忘れていたわけでもなければその気遣いをないがしろにしたつもりもない。
ただ集中するとそれ以外の感覚がすべて消えてしまうのだ。
その中に睡眠とか、食欲だとか、あと時間。
気が付くともう手遅れだしそれが言い訳にすらならないことなんてわかってる。
ようやく作業が一息ついて立ち上がろうとしてずり下がった肩にかけられた毛布と、デスクに置かれた冷えたコーヒー。
届けてくれた相手が誰だったかすら思い出せず、せめて当時の自分がまともに会話をしていたことを祈りたい。
しばらく頭を抱え、そして叱られるにせよ謝るにせよ、せめて少し気を落ち着かせてからだと思い直す。
ひとまず顔でも洗いにいこうと思って部屋を出てすぐ、仁王立ちをしたラファエロと遭遇した。

「いや、あの……離してくれない?」

初手に逃げの手を打ったドナテロも悪かった。
咄嗟にラボに戻ろうとした所強引に連れ戻され、頭上で両手を拘束されて壁に押し付けられれば筋力の差もあってびくともしない。
あまり良い状況ではないと判断して少ししおらしい態度をとってみたが、その意図は見抜かれたらしくラファエロは不遜な目をしたまま笑う。

「久しぶりに顔合わせたんだ。もう少し付き合えって」

その表情に合わせて浮かんだ青筋、それだけで大層怒っていることはよくわかった。
この鉢合わせだって偶然じゃなく、ドナテロが出てくるのを待っていたのだろう。
じっとしているのを何より嫌うくせに。

「悪かったって。あとでいくらでも付き合うからさ……流石にこの体勢のままってのは、ないんじゃない?」

抱えられた腕はずるずると上へ上り、高い位置で固定されたせいで足の指先がぎりぎり紙面につく程度まで伸ばされる。
それなりにドナテロだって体格は良いはずなのだけれど亀一匹持ち上げている状態なのに全く辛い様子もなく、ラファエロは意地悪げに笑うのみ。

「座ってばっかだと骨格が曲がるんだってよ、だから親切で伸ばしてやろうとしてんじゃねぇか」

吊るされたようにピンと伸びた腕は、作業明けの身体では軋んだ音があちこちから聞こえる。
痛みなのか痺れなのか、少しずつ息も上がってくる。
そんな様子にラファエロは満足したのかぐいと顔を寄せてきた。
触れていないのが不思議なくらいに。

「しかしまあ、あのドナテロ様がされるがままって言うのは、結構クるものがあるな」

……へんたい」

触れそうで触れない口元の隙間、熱のこもった吐息だけが行き来する。
ラファエロはドナテロよりも体温が高いのだ、触れ合って寝ていると寝苦しいくらい。
それはドナテロも、よく知っていた。

「よく言うぜ、満更でもないくせに」

空いた手で頬を撫ぜるラファエロに、自分が今どんな表情をしているのかわかってしまい羞恥で一層顔が赤くなる。
隠す手段は当に奪われていた、普段無鉄砲なくせにこういったことには悪知恵が働くのだ。
以前あまりにもラファエロに振り回されすぎて憤慨したことがある。
怒るドナテロを鼻で笑うように返された言葉は、自身を体現するものとは真逆に位置するものだった。

「あ?ドニーがわかりやすすぎんだよ」

単純と類義なその言葉はラファエロにこそ通ずる言葉だろうし、自身の思考回路の複雑さは自覚があった。
兄弟だけでなく万人に聞いても単純でわかりやすいのはどちらか、なんて答えはどっちかなんてわかりきっていること。
なのにそんなマイノリティなことを言うラファエロに首を傾げたものだが、そういうところだよと返されそれ以上の追及は墓穴を掘りそうだったからそこでやめることにした。

……っ」

漏れそうになる声を抑えると気に食わなかったらしく咎めるように頬に噛みつかれた。
機嫌よくあちこちを触れるその手が次第に不遜になってきて、甘い痺れは脳を溶かしていく。
しかしそんな甘美な刺激を濁流に流し、ドナテロは限界を感じて音を上げた。

っほんとに手離してくれない!?腕の感覚ないんだって!」

実際筋肉が凝り固まっていたのは本当なのだろう、腕の筋が痙攣し始めているのがわかる。
ムードがどうとか言ってる場合じゃなく顔が引きつってきたドナテロに本気度を察したらしい。

……まじかお前」

呆れた声を上げてラファエロは手を離した、どすんと音を立てて床に落ちたがそれよりも腕の痺れは全身を伝うむず痒さを伴って反射的に笑いが漏れた。
蹲るドナテロの頭上で盛大な溜息が聞こえ、両肩を掴まれれば電流が走ったかのような感覚に悲鳴を上げる。
感覚がむき出しになっているそこを大きな掌でゆっくりと揉まれると、少しずつだが痛みがおさまってきていた。
涙でぼやけた視界でようやくラファエロを見つけると、息を呑む音がして、そして溜息が聞こえた。
両手の自由が利かないドナテロの代わり涙を拭われるとようやくラファエロと目が合う。

「えっと、その……ごめん?」

欲と理性が混ざった表情に、思わず謝ると返ってきたのは唸るような低い声だった。

……今度やったら問答無用で襲うからな」

その消沈した様子に、もしかしたらドナテロがいない間相当焦れていたのかもしれないと気付く。
どうやらたかが3日と思っていた期間はラファエロにとってかなり長い期間だったらしい。
そして、今度また同じことを起こしたとしてファエロは自己の熱を堪えて助けてくれるんだろう。
傲慢で優しい恋人を虐めないように運動不足も程々にしないといけない。
ひとまず、ようやく感覚の戻ってきた手で頭を撫でてあげることにした。