ortensia
2023-11-05 22:47:20
3444文字
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まほーふぁんたじぃ👒🤕✂️

エルデンリングのミケラ様は愛される神人で有り愛するを強いることが出来る神だそうな。

 探偵なんて何でも屋をやって居る小男は、それだけ器用かと思えばそうでも無く、なのに人を頼ることが少ない。人間不信とも言う。
 だからこうして呼ばれることが、例えお茶の誘いで無くとも構わ無い。
 と言っても、いつも食べ物土産に押し掛けて古臭い匂いの事務所に合うんだと何かと理由を付けて頻繁に珈琲を淹れに来るのは、いつもリッパーの方で、その時の男の様子で苦くも甘くも操って、それとなく頼らせるのが紳士の器用なところで有った。
 それで呼び出されたものだから、愉快な気分の儘に、いつもの手土産に加えて花束迄買い足してみたりしてしまって、事務所の扉を開けた探偵がこちらの悪戯を推測する前に抱き締めて口付けてやろうと思ったのだが、奴の持ち前の反射神経と共に思ったより強い力で抑え込まれた。
……困る。」
 俯きがちに言った男を押し返すことは容易だが、こちらの荷物は繊細なものなかりだ、この無骨者と違って。
 大人しく引いてやってよく見れば、男は冷静な探偵らしからず目線を彷徨かせ、やがて客席を恐る恐る見た。
 なんだその視線は、わたしにもそんな畏れを持って見ることなど無いのに。
 リッパーは幻覚系の魔法を得意とする。相手に自分を恐怖の対象として見せることが出来る高位のファントムなのだ。
 そんな紳士を差し置いて畏れられるものが在るのか。探偵の視線を追うと、そこには小鳥のような娘が居た。
「これはこれは……。」
 今度はリッパーも困ったように言った。しかしそれは娘の純朴な視線に先の遣り取りを見詰められて居たからでは無い。この紳士はそれはそれで面白そうだと、飼う小鳥に可笑しな言葉を覚えさせて愉しむタチの悪鬼だ。
 では何故困ったのか。
 それは彼女もまた、幻覚系の魔法使いで有ったためだ。
 高位の幻術使いで有る悪魔スヴェンガーリですら見詰め合うことを良しとは思わ無かった。
 しかし彼女は反対にその悪意を感じさせ無かったため、リッパーは娘に不快感を与え無い自然さでその視線を外した。
 そしてその視線は眼前の探偵へ。
「あの娘が、頼みごとの種、ですか。」
「ああ。」
 頼めるか?見上げる視線は普段見慣れ無い色をして居て、もう少し揶揄って居たく成る。
 だが悠長にして居るのも危ういのが、娘の魔法だった。
 悪意が感じられ無いことから、恐らく無意識だろう。自動永続魔法、実に恐ろしい物をお持ちだ。
 確かにこの男が頼るにはリッパーが最適だろう。
 では何故このミスターは幻覚魔法に侵され無いのか。
 それは彼がアンチ魔法を持って居るからだ。
 だから彼女、ひいてはリッパーの幻術にも左右され無い。
 但しその代わり探偵自身は魔法が一切使え無かった。
 自身も魔法を持たず、他人の魔法も効か無い。有る意味で、この男にとって魔法は無いも同然と言えるかも知れ無い。魔法が全ての世界で、この男、ナワーブもそれはそれで恐ろしい存在なのだ。それが彼にとって良いのか悪いのか、リッパーには分からないし興味も無かったが。
 リッパーは荷物を男に押し付けて身軽に成ると、身構えながら娘に近寄る。
 客席のソファからこちらを見詰める彼女が、ぼうっとして居るのか警戒して居るのか、よく分から無い。ただリッパーは、彼女の幻術に自分が掛から無いように、自身からも幻術を娘に向けた。相殺するように、上手くコントロールする。
 そして目の前迄来ると、彼の幻覚が恐怖を施すもので有るのとは対照的な柔らかな手付きで、娘の髪を撫で、顎を掬い、肩に手を置き、腕に滑らせ、手を取った。
 ナワーブは荷物を抱えた儘、その仕草を何処か催眠術にでも掛かったかのように見て居た、決して信心深いことは無かったが、神聖なもののように見えたのだ。純美な幼な子が小鳥を優しく撫でるような、高く浮いた天使が聖女を労るような、紳士が古臭い事務所で珈琲を注ぐような。間違っても艶っぽさは感じ無かった。だってナワーブは相手の本当に艶っぽい仕草を知って居たから。いや、この場にそぐわない余計な記憶を思い浮かべた。それを振り払うために、荷物を片付けた。花束だけは、どうすれば良いか分から無かったが。
 すると少し娘から距離を取った紳士が、ナワーブを振り返った。
「彼女の魔法は、わたしのものと似て居るけれど、少し違いますね。」
「そうなのか?」
 魔法を感じ取れ無い男には当然その違いも分から無い。
 ただ依頼で赴いた違法賭博にて、賭けにされて居た娘が、何処か可笑しな影響を周りに与えて居るように見えたので、依頼人にも他の誰かに預けることも出来ず、已む無く連れて来ただけで有った。
 しかし周囲の人間を可笑しくして仕舞うならば、例えば彼女を巡って競りが行われて仕舞うようならば、この儘娘を解放するわけにも行か無い。本人に帰る場所が有るのかも分から無いが。
「ええ。わたしは人に怖がることを強いることが出来ますが、彼女の場合強いて居るのは、彼女を愛すること、ですね。」
……全然違うじゃねえか。」
「ええ?そうですかぁ?」
 紳士は右手を口に当て、ころころと笑う。
「自身への抵抗を奪う、その手段が恐怖か愛情かと言うだけじゃ有りませんか。」
 探偵は紳士の言葉に黙り込んだ。納得が得られたなら何よりだ。
 兎に角原因は分かった。後は対処法だ。
「彼女の魔法の源は髪に有るようです。しかし、女性の髪を切るのは頂けません。」
「どうするんだ?」
 髪がなんで女とか男とか関係有るのか男の価値観では分から無かったが、紳士を頼ったのはナワーブだ。リッパーの次の言葉を大人しく待つ。
「花束を。」
 ナワーブは疑問に思いながら、悪魔自身が持って来た花束を、そばへ掲げた。
 紳士はそれを一輪一輪抜き取って、爪の先で折って整えたりしながら、器用に編んで行った。
 やがて香る冠の完成だ。
 リッパーはそれを娘にそっと被せると、彼女は一つ瞬いた。
「お似合いです。」
 作者は満足そうだった。
 ナワーブも自身の口が思わず笑み作ったのを感じた。彼は紳士の拵えるものが好きだった。
 そして娘もにこりと微笑んだ。それは娘が初めてまともに作った反応だった。
「ありがとう、お二方。」
……アンタ喋れたんだな。」
 探偵が言うと、娘は今迄とは打って変わって表情豊かに笑った。
「何か一言でも喋れば、その内容にかかわらず、どうしてだか籠に入れられたり賭け事に使われたりして困って居たの。」
 それは困るだろうな。冷徹な線引きを覚えて居る探偵や、私利私欲が最優先の刹那主義の紳士でさえ、げんなりした反応を返した。
「魔法の源さえ分かれば、市販のお帽子でもそれなりの封印に成る筈です。」
「ふうん。成る程ね、花はいつか枯れてしまうものね。分かったの!」
 ナワーブは、そんなもので良いのか、と思ったが、魔法が全てのこの世界では、それこそ市販の帽子一つにも魔法が掛けられて居るのは当然で有り、その効力が持ち主に影響を及ぼすのは当たり前なので有る、魔法を持つ者に取っては。だから彼が思うそんなものとはわけが違うので有る。
 娘の幻覚魔法を抑えるには、それを少しでも打ち消せる魔法が影響して居れば良いわけで有り、それは一般的な帽子に掛けられて居る魔法、例えば防寒防暑、それでも構わ無いのだ。
 こうして、元気良く事務所を巣立って行った小鳥は、この素敵な恩は必ず返すと言って、彼女のいきたいところへ自由に飛び立って行った。
 それを見送った二人は事務所に戻った。
 さて、花束は無く成ってしまったが、良い仕事をした、いつものように珈琲を淹れよう。
 リッパーが足を進めると推測し無かった強い力で抱き締められて口付けられた。
 直ぐに奴の持ち前の反射神経で距離を置かれたが、自身の髪をがりがりと引っ掻いて居るその背中は言うのだ。
「おれはおまえに抵抗するし、おまえをあいしてる。」
 おれには魔法が効か無いからな。
 そうして小男は用も無いだろうに奥へと引っ込んだ。
……たまには怖がってくれても良いんですよ。」
 見栄で大きめの声を出してみたが、男が聞いて居たかは分から無い。
 肩を竦めて止まって居た足の儘紳士が懐から取り出したのはパイプだった。
 珈琲を淹れる前に一度自分が一服したい気分だった。今日は苦いと甘いのどちらを淹れようか。いや、それとも。
 今日は紅茶を淹れよう。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。