しるひ
2021-07-03 11:05:23
1373文字
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好きになーれ

ヘルキラいちゃいちゃ
縦書きで読めたら最高だなと思った

今日はずいぶん機嫌がいいらしい。
俺の正面に座っているヘルパーT細胞は机に肘をついて、笑顔でこっちを見つめてくる。

「たまにはランチくらい付き合ってよ」と誘われ……命令された俺は、正午きっかりに司令部を訪れて上官に敬礼してみせた。それには若干嫌そうな顔で応じたヘルパーT細胞だったが、店に着くころには気分が良くなったのかニコニコだ。

「ね、ね。オフじゃない日にお昼一緒に食べるのなんていつぶりだろ? なーんかウキウキしちゃうよね」
「光栄です、サー」
「その調子止めないと張り倒すぞ」
「お互い制服着たままいつもの調子で話せるか!」
「な〜に、ガラになく照れちゃって。わざわざ遠出したんだからこの辺に顔見知りなんていないよ」
「部下に示しがつかねえだろ」
「だからいないって。いい加減気にしいだよね、君も」

やだやだと呟いてこれ見よがしにため息をついてみせるヘルパーT細胞を、むしろこっちから張り倒してやろうかと身を乗り出したその時だった。
奴のしなやかな指先が、こっちの眉間に突きつけられている。

……何?」
「いーい? じっと見ててね。いくよ」

何が始まるのかと思わずその指先を凝視してしまう。やがてそれは円の軌跡を描きはじめた。

「君は僕のこと好きになーる、好きになーる」
「は?」

あまりの突飛さに思わず声が漏れた。しかしヘルパーT細胞はそんな俺には構わずくるくると指を回し続ける。

「好きになーる、好きになーる」
「オイ、止めろ」
「何で? 好きになーる、好きになーる……
「恥ずかしいから止めろって言ってんだろ!」

いくら顔見知りはいないとはいえランチ時の店の混み具合は満席に近い。中には遠慮なくじろじろとこっちを見てくる奴らも少なくなく、好奇の視線が痛いほどだった。

「別にいいじゃない、他人にどう思われようが。そんなことより効いた?」
「何がだよ!」
「好きになるおまじない」
「知るかっ!」
「え〜何だよそれ」

頬を膨らませて明らかに不満そうな顔をされてもどうしろって言うんだ。そもそもそんな馬鹿げたおまじないとやらが効くと本気で思ってるのか。

「制御性さんの机に置いてあった漫画に載ってたんだ。彼女、見た目によらず少女マンガなんて読むんだよ。可愛いよね」
……お前、それ本人には絶対言うなよ」
「読んでたら戻ってきたから直接言ったよ?」
「どうなった?」
「殴られて椅子から転げ落ちた」
「当たりめーだ、アホが」

ひどいよねーなんて言いながら笑ってるところを見ると、1ミリもひどくなんて思ってないのだろう。あまりの無鉄砲さと打たれ強さに頭が痛くなる。

「けどま、効かないだろうなーとも思ったんだよね」
「当然だろ、そんな子供だましの……
「そうじゃなくてさ」

頬杖をついてこちらに向き直った奴は、笑顔で言う。

「もうとっくに好きなんだから、今さら好きになるわけないよねえ」

言葉もなかった。いや、言うべき言葉がぽろぽろと脳みそからこぼれ落ちていくようだった。

「AランチとBランチお待たせしました〜」
「あっ来た来た、Aランチは彼に。うわ〜美味しそ! 何やってんの、早く食べよ」

ヘルパーT細胞がランチを半分食べ終わるまで、俺は食器に手をつけることさえできなかった。





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