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2023-02-13 00:23:16
3359文字
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拳コユ
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ハッピーライフ
コユちゃんお誕生日おめでとう!!!生まれてきてくれてありがとう!!!マスターと六花さん、彼女を産み育ててくれてありがとう!!!みんな愛してます。
の、気持ちを込めたなんて事ない日常短文です。✊出てないけど拳コユです。
新横浜退治人ギルドの長、ギルドマスターのゴウセツは、己の命よりも大切な掌中の珠がある。
美しい妻の忘れ形見、自分の血を分けた愛娘──コユキだ。
二十年以上前、初めてこの手に抱いた時の感覚は今でも鮮明に思い出せる。柔らかく、細く、儚くて、どうしようもなく、かわいかった。震える腕に赤ん坊を閉じ込めて情けなく泣き出すゴウセツを見た妻が「あなたが抱くとコユキがまるでおもちゃみたいね」と疲れの滲んだ顔で笑ったのもよく覚えている。
妻が亡くなってからは、仕事を続けながらがむしゃらに男手ひとつで娘を育てた。ありがたいことに自分の丈夫さを受け継いだ娘はすくすくと育ち、立派な大人に成長した。
仕事仲間には「溺愛しすぎよ」「子離れしないと」と苦言を呈される事もあったが、甘やかして何が悪い。俺の唯一の宝だぞと返せば皆呆れたように笑った。
思春期真っ只中の反抗は人並みにあったと思うが、己の若かりし頃を思えば可愛いものだ。退治人になると言い出したりなどの悶着もあれど、ギルドの退治人達にも支えられ、新横浜という特殊な地に揉まれた娘はおおむね素直ないい子に育った。
市井の人間に無差別に野球拳を仕掛けてゲラゲラ笑い、太々しく公的機関を宿がわりにするイカれポンチの禿頭吸血鬼を「恋人です」と連れて来られた時には、流石に「俺はどこで間違えた」と咽び泣いたが、まあおおむね、いい子に育った。と思う。
二月十三日。
一年に一度訪れるこの日は愛娘であるコユキの誕生日。ゴウセツにとって何よりも優先すべき大切な日だ。同時に家の救急箱の中身をあらため、胃腸薬の在庫を多めに確保しておく日でもあった。
何故ならば、翌日十四日は世間がピンク色とチョコレートの香りに染まるバレンタイン・デー。十三日のコユキの誕生日にはゴウセツがコユキに腕をふるってプレゼントを贈り、コユキは一日早いバレンタインデーのプレゼントを父へ贈る。
コユキがバレンタインにチョコレートを贈り贈られるという文化を知ってから、それが毎年の通例になっていった。
〝おとぅさん〟
聞き慣れた娘の声に、電子レンジを覗き込んでいた顔を上げた。起き抜けの少々ぼんやりした顔で目を擦りながらおはよう、と笑う娘に同じ言葉を返す。
現在時刻は午後二時。おはようには遅い時間だが、バー勤務のゴウセツ達からすればこれが通常運転だ。
「お誕生日おめでとう、コユキ」
〝うん。ありがとう〟
「何歳になったんでしたっけ」
〝なんで忘れちゃうのお〟
「この年になるとケーキに蝋燭も立てないですからねえ。試しに二十数本立ててみましょうか」
〝やだもう〟
かつては抱き上げて髪をなでまわしながら柔らかな頬に無数のキスを落としてお誕生日おめでとう!と姫様扱いの大騒ぎだったが、二十歳を超えた娘との誕生日の朝のやりとりというのはまあ、こんなものだ。
冗談めかして笑いながらボウルに卵を割り入れる。冷ましておいた出汁を合わせて混ぜているとコユキの目がきらりと光った。
〝すごく、いいにおいが、する〟
「先にシャワーを浴びてきなさい。コーヒーを淹れておきますから」
〝ミルクとお砂糖
……
〟
「はいはい入れておくから早く」
ふあい、なんて気の抜けた返事と共にリビングを出ていくコユキを見送り、コーヒーメーカーをセットしながら思案する。
本日はゴウセツもコユキも半日休みを取ってある。急いで支度せずとも良い。もう若くない身体と胃を慮ると一日休みにした方が良いのだが、吸血鬼のメッカである新横浜では何が起こるかわからない。ゴウセツ不在時のギルド業務はヴァモネが回してくれる筈だが、念を入れるに越したことはないだろう。
あとは。
「今年は一体何が飛び出すやら
……
」
丈夫さが取り柄の自分の身体が、娘のくり出すトンチキ料理に耐えられることを祈るしかない。
*
〝ごちそうさまでした〟
「はい、お粗末様でした」
シャワーを浴びて身支度を整えたコユキと二人、少しばかり手の込んだ昼食を済ませた。手の込んだ、といっても献立をコユキの好物である小鉢のおかずを数品多く出し、出汁巻き卵にきちんと大根おろしと醤油を添えた程度だ。それでもコユキは子供のように喜んで、おいしいおいしいと全ての小鉢を空にした。頬を膨らませて笑う顔は、〝おいちおいちね〟と舌足らずに笑う二歳のときから変わらない。
ごちそうは次の休みの日にあらためて作りますからと言うと、コユキは恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに頷いた。
デザートに苺のレアチーズムースを食べながら店で出すかどうか二人で意見を交わしたのち、リクエストされていた新しい革財布を手渡した。
桃色がいい、と言われた時には額に青筋が立ち、その夜偶然見かけたピンクの着物を着た吸血鬼をぶん殴ってしまったが(急に何だよやっていいこと悪いこと!!と叫ばれたが無視をした)、娘の希望であれば致し方なし。ありがとう!と笑う笑顔が眩しいので良しとした。
後で忌々しい禿頭を改めてハンマーでぶん殴っておけばこの溜飲も下がろう。
二人でテレビの天気予報を見ながら穏やかにコーヒーを啜っていると、唐突にコユキが立ち上がった。野うさぎのようにひょこひょこ跳ねながらリビングを出ていく背中は妙に浮かれている。
あー、来たなあ。と少しばかり遠くを見る。たとえ結末が分かりきっていようとも、これから自分を襲う苦難が目に見えていたとしても、娘が父のためを想って作った菓子を拒否するなどという選択肢はない。渡されたら食べる。ただそれだけだ。
悟りの境地に至りながら待っていると、後ろ手に何かを隠しながら戻って来たコユキがゴウセツの前に立った。
〝お父さん〟
「はいはい」
〝えっと、ご飯、とってもおいしかったです。お休みの日のご馳走も期待してるね〟
「ええ」
〝これ、毎年の。バレンタインのプレゼント〟
そう言いながら細い背中から取り出したものに、おや、と目を見張る。
鋭角な何かまみれのナニかが溢れんばかりに詰まった箱を差し出されるかと思っていたが、コユキが手にしているのは濃紺の包装紙に包まれ、リボンのかけられた箱だった。
「開けても?」
受け取りながら聞くと、ほんのり赤い顔が赤べこのようにぶんぶん縦に振られる。一体どうした、と訝しみながら丁寧に包装紙を開くと、ふんわりと柔らかな布地が綺麗に畳まれて詰まっていた。取り出して広げると濃紺と黒のバイカラー、金の刺繍糸でブランド名が小さく刺繍されている。タグにはカシミア100%の文字。
「マフラー?」
〝この前の退治で、ずっと使ってたやつがダメになったって言ってたでしょう〟
「よく覚えてましたねえ」
何気ない会話中にぽつりと漏らしただけだった記憶があるが、それを覚えていたらしい。タグをそのままにさっと巻いてみる。リビングの隅にある鏡で見ると、まるで数十年連れ添ってきたかのようにしっくりきた。手触りも長さも言うことなし。愛用のコートにもよく合うだろう。
「似合います?」
〝すっごく〟
「いいセンスですね」
〝でしょ。ケンさんにちょっと相談に乗ってもらったの〟
「あ゛?」
聞き捨てならない単語に一瞬マフラーをつかむ手に力が入る。が、娘から手渡されたプレゼントだという一点がゴウセツの殺意を押しとどめ、理性的であれと囁きかけた。これを、あの男と、自分のために選んだらしい。
「そ、うですか。野球拳にも、ありがとう、と、お伝え、くださいね」
根性でにっこり笑うと、コユキも喜色満面に破顔した。花開くような、美しく清い笑顔だった。
ああ、娘よ。何故あんな男が良いのか。俺は一体どこで間違えたのだ。リッカ、俺は一体何を間違えちまったんだろうな。こいつは全部、俺のせいか?
リビングに飾られた妻の写真に助けを求める。磨かれた額の中で微笑む妻は、どこかこの状況を面白がっているようにも見えた。
〝あとこれ!チョコレートも!〟
「
……
この
……
岩石
……
いや
……
ウニ
……
ん
……
?これは一体、何を、作ったんです?」
〝チョコマカロン!〟
「そうですかありがとうよくがんばりましたね」
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