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2022-05-20 00:11:10
5019文字
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諸々(CP混在)
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兄さんと辻田さん
兄さんと辻田さんの話。ハシビロコウさんが描かれていた二人を見て「うわスッキ!!!」と思って勝手に書きました。お許しいただけたので上げちゃいます。ありがとうございました!楽しかったです。辻田さん書いたの初めてなので偽物かもしれません。
タイトルはぜーーーんぜん思い浮かばなくってもう諦めました。
そろそろ閉めるかね。
たった今数個の今川焼をお買い上げいただいた疲れた顔のサラリーマンの背中にまいどあり、と告げて、ケンはぐっと伸びをした。
本日は少しばかり横浜方面へ足をのばして辻野球拳に勤しむ予定だったが、急な呼び出しでこの今川焼き屋台を守っている。
「頼むよ野球拳さん!女房が産気づいたっていうんだ!」
寝ていたところを電話でたたき起こされて文句の一つでも言おうかと額に青筋浮かべたものの、そう言われれば断るわけにはいくまい。五分待てと告げて飛び起き、着替えを済ませて風のようにねぐらを飛び出す。アレコレ引継ぎを終えてから一生に何度もない大仕事を見守ってやれよと笑って、タクシーに飛び乗った香具師仲間を見送った。
ケンの使命はただ一つ、きっちり仕込まれた材料を無駄にすることなく捌き切る事だけだ。
じゃんけん勝ったら一個オマケだよぉ、の文句が効いたか客足は上々、売上金を入れたボックスもずっしりと重たくなっている。これならば生まれてくる子供への良い祝いになるだろう。
時間は少し早いがほとんど空になった鍋をのぞき込み、片付けに入ろうとガスの元栓に手をかけたところで、路地にふらりと見知った影を見つけて首を傾げた。どこで会ったのだったか。
「あぁ」
ひょろ長い身長にフード付きのロングコート。不審者のテンプレートにはめこんだような風体の男は、眉間に海溝の如き深い皺を刻んで幽鬼のようにふらふらと歩いている。筋張った手を腹に当てているが腹でも下したか。そうだそうだ、思い出した。
「おい、おーい!」
「
……
あ゛?」
ぶんぶんと手を振ると、男は少しだけ丸まっていた背中を伸ばし、周囲を伺う獣のように鼻をひくつかせながらぐるりとケンの方を向いた。数秒固まったかと思うと、「ウゲェ」と思いっきり顔をしかめてまた歩き出す。ケンは屋台から出ることなく、口元に手を当ててもう一度声をかけた。
「おーい」
「
……
」
「シカトすんなよ露出狂のあんちゃん」
「誰が!露出狂だ!!」
路地の角にコートの裾が消えて数秒後、ガツガツとブーツを鳴らした男が四角い目を吊り上げてわざわざ屋台の前まで歩いてきた。扱いやすい男だ。
ご来店ありがとお、と笑顔で言うと口角をひきつらせて拳を握って見せる。ミカエラやトオルあたりが見たらぴえん、と泣き出しそうな凶悪な面構えだが、ケンからすれば『共に野球拳を楽しみVRC脱出劇を演じた露出魔の同胞』でしかない。
「そう言うなって、一緒に野球拳したろ?もうお友達よオトモダチ」
「殺されたいのか貴様
……
」
「しけたツラして歩いてたから話しかけてやったんじゃねーか」
「五月蝿い」
小さな赤い瞳のぎらつきをさらりと躱す。少しばかり首を伸ばして男を上から下までじろじろと眺めた。
ブーツのせいもあるだろうが、ケンよりもだいぶ身長が高い。その割に薄い身体だ。服の裾は解れ放題でお世辞にも身綺麗とは言い難い。服そのものが上等だからこそ、この状態でも着ていられるのだろう。美意識が高く、ビキニのくせに服飾品へのこだわりが強いミカエラが見たら発狂しそうだ、と思い少し笑う。その笑みを小ばかにしたようにとらえたか、男がぐわりと腕を振り上げた。
と、同時に、ぐぐぅ~
……
と間抜けな音が響き渡る。
あん?と首をかしげると、男はばつが悪そうに振り上げた腕を下ろした。どうやら音の主はこの露出魔らしい。腹に当てていた手は、空腹を紛らわすためだったようだ。
「腹減りか?」
「
……
」
「飯は?」
「
……
」
返事がない。ただぐっと唇をひん曲げているところを見ると、『ケンの言葉は的を射ているが認めるのは癪なので黙っている』といったところか。恐らく合っている。ひねくれた弟の兄歴数百年は伊達ではない。
「待ってな」
「何する気だ」
型に火を入れて温めつつ、男に背を向ける。屋台の裏手に置いた鍋のふたを開けてゴムベラで生地をかき集めると、二、三個は焼けそうな分量が集まった。さて具のほうは、と大きなタッパーを数個開けて───ありゃま、と顔をしかめた。これで作れるのはとっておきのアレくらいだ。
「んー
……
仕方ねえな、特別だぞぉ」
「何が」
苛立ちを滲ませつつも立ち去ろうとしない男に口布の下でにやけつつ、温まった型にブラシで油を塗り、型の上段に生地を流しいれる。目論見通り三つほど作れそうだ。二つにタッパーからこそいだカスタードクリームとチョコレートをこれでもかと山盛り、一緒くたに乗せる。面倒でタッパーの残りを全部乗せたせいか若干キャパオーバー気味だが、客に出すわけではないし良いだろう。最後の一つにはケンの良心でチーズとベーコンを入れておいた。材料費はケンの財布から売上金に色をつけて入れておけばよい。
いつの間にやら男は黙ってじっとケンの手元を見つめていた。気難しい猫を手懐けているような気分で手を動かしていると、瞬く間にぽんぽんぽん、と丸々太ったきつね色の今川焼が3つ出来上がる。
「ホイ、ケンちゃん特製!今川焼きデラックスエディション〜」
一つを紙に包んで男に握らせてから、営業終了の札を下げつつちょいちょいと手招きする。
「裏来て座れ」
言われるがままに長身をかがめて裏に回った男は、休憩用の折りたたみ椅子に腰を下ろした。体が大きいせいか、まるでサイズの合わないドールハウスに押し込められたフィギュアのように見える。男は紙をはがして直に今川焼を掴み、上から下からじいーっと湯気を見つめている。腹が減っているならば食えば良いのに、何をしているのだろう。もう一つ椅子を広げて隣に座る。今にも涎が垂れそうだな、と口布を下げて茶を飲みながら見ていると、男がぽつりと言った。
「
……
借りを作るのは、ごめんだ」
「店の残りモンだから処分手伝ってくれるなら俺も助かるんだけど」
「金がない」
「いらねーよ残りモンだっつったろ」
「しかし」
「食わねえなら捨てるけど。客に出せねえし」
「
……
」
むぐ、と押し黙る。暫くじっと今川焼を見つめると、チラリとケンを見てから、大口を開けてかぶりついた。キラリと牙が光り、きつね色に突き刺さる。そこからどぽ、と逃げ場を見つけたクリームが溢れ出て、男はギョッとしながらチョコレート混じりのクリームを啜った。ガツガツと夢中で食らい、あっという間に一つが男の腹に収まる。指についたクリームをぺろぺろと舐めとっているところに続いてもう一つを差し出すとガチリと固まった。勢いでこちらも食らいつくかと思いきや、理性はまだ働いているらしい。
「ハハ、美味ぇ?」
「
……
」
「これな、あー、知ってっかな。ロナルド吸血鬼退治事務所んとこでヒモしてる吸血鬼。そこの使い魔にアルマジロがいてよ。アイツのリクエストで作ったんよ」
「丸が?」
───丸ってなんだ。
数秒考える。あのアルマジロ、そんな名前だっただろうか。もう少し小洒落た名前だったと思うが。
思案していると、いつの間にやらケンの手から今川焼きが消えている。見ずに取ったが、こちらもチョコレートとカスタードのハイブリッドらしい。がふがふと食らいつく男の指にとろりと黄色が垂れている。濡れタオルを貸してやった方が良いだろうか。
「僕の考えた最強の今川焼き〜つってよ。わざわざスケッチブックに絵ェ描いて背負ってきたから、つい作っちまったんだよな」
ハハハ、と笑いながら鼻息荒いアルマジロがやってきた日のことを思い出す。ここではなく、常夜神社の月次祭の時だった。
スケッチブックを背負い、ヌンヌンと必死にプレゼンする言葉は何一つ理解できなかったが、絵のおかげで『とにかくクリーム増し増しダブル仕様で作れ』と言いたい事は分かった。
フン、と腕を組んで鼻で笑ったその顔は、「まあ君にできると思ってませんけど。ヌンのご主人なら簡単に作ってくれますけどね?」と雄弁に語っていたので、こちらも少しばかりムキになったことは否めない。
今川焼きをパンパンに詰め込んだボックスを背中に乗せて小躍りしつつ帰る姿に「はめられた」と思ったのはケンだけの秘密だ。
「
……
甘すぎる」
「分かるわ、俺も試食したけど口ン中甘ったるくてよォ、コーヒーがぶ飲みしたわ」
「が、悪くない」
べろぉり、長い舌で手のひらを舐める男に、しょっぺえのも食えば?とチーズベーコン入りも差し出す。今度は素直に受け取った男は、それも数口で腹に収めてしまった。ほんの五分ほどの出来事だ。相当腹が減っていたらしい。唇を舐める仕草はケンの予想に反して若者じみている。やつれているだけで、実はそれなりに若い吸血鬼なのかもしれない。
「お粗末さん。じゃ、店仕舞いすっから。またな」
濡れたタオルを投げてやってから膝を叩いて伸びをし、屋台の下にかがみ込んでガス栓を閉めた。そのまま調理具やらタッパーやらをまとめていく。
屋台を畳んだら近くのコインパーキングから軽トラックを持ってきて積み込みだ。そのまま病院へ向かい売上金と車の鍵を渡して、徒歩で帰れば良い。帰りに酒でもひっかけて、当初の予定通り辻野球拳なんていうのも一興か。
なんて考えていると、細長い影がケンにかかる。なんじゃらほい、と顔を上げると、先ほど今川焼きを貪っていた男が立ち上がってじっとケンを見下ろしていた。
「
……
何」
「貴様に借りを作るのはごめんだと言っただろう」
何をすれば良い。
言いながら律儀に自分の座っていた椅子を畳む背中を穴が開くほど見詰める。先ほど投げて渡した濡れタオルは角を揃えてきっちりと畳まれ、台の上に置かれていた。この椅子はどうするんだ、と渡された椅子も、留め具の面ファスナーが一ミリのずれもなくピッタリと留められている。
このまま売り場に並べられていてもおかしくないほど綺麗に畳まれた椅子を受け取り、男を見上げた。
「
……
お前さあ」
「何だ」
「真っ直ぐな子ねェ」
「あ゛!?」
「や、助かる助かる。店仕舞い手伝ってくれ」
がるる、と牙をむいて唸る男に笑いながら、型を拭いといてくれと布巾を渡す。ひったくられるが、ずんずんと金型のほうへ歩いていきせっせと拭き始めるものだから、余計に笑いがこみ上げる。
今声をあげて笑えばこの男の臍は地球の裏側まで曲がって戻ってこないだろう。口布の下で笑いをこらえ、背中を向けて片付けを続けながら務めて冷静な声で言葉を続ける。
「借り作りたくねえならさ、屋台片づけた後、ちょいと飲みに付き合えよ」
「金が無いんだと言ったろう」
「奢っちゃる」
「
……
借りを作りたくないとも言ったはずだ」
「一人飯のおっちゃんに付き合ってくれるだけでいいさ。今日は弟共捕まらねンだよ」
嘘ではない。ミカエラは長く仕えている下僕の誕生日だからと館で腕を振るっているし、トオルは最近開始したカップル向けキャンペーンが好評らしく、本日も義妹と共にせっせとお化け屋敷の営業に励んでいる。屋台道具とトラックを返したら、ケンは完全にフリーなのだ。退治人ギルドに繰り出すのもよいが、今日はこの若い同胞を存分に揶揄い、可愛がってやりたい気分である。
「オンナと弟以外に財布開く俺は貴重だぞ、甘えとけって」
「知ったことか」
「ところでお前名前なんてーの?不便だから字名でもいいし、教えろよ」
「つ
…………………………
」
「津?」
「
………………
つ、辻田」
「意外と普通だなァ」
「黙れ」
次はなんだ!とキレ散らかす辻田を宥めつつ、屋台の骨組みをたたむ。馴染みの屋台にするか、それとも居酒屋がよいだろうか。飯はどのくらい食うのだろう。腹が減っているようだから、食いでのあるものを出す店のほうがよいかもしれない。酒が飲める質ならもっと楽しめる。
「好きなもんは?酒は飲めるんか?」
「わからん」
「わからんってなんだよ」
「まともに飲んだことが
……
あまり、無い」
「ほー、そりゃあまた、教え甲斐があるってもんだなあ」
おいちゃんに任せとけ、と親指で自分の顔を指して笑うと、何故そんなに楽しそうなんだ殺すぞ、と理不尽に殺害予告された。それでも真面目に手を動かし続けている辻田に、やっぱりまっすぐな子じゃんよ、と笑う。
今夜はまた、いつもとはひと味違ううまい酒が飲めそうだ。
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