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2021-12-22 23:49:00
1884文字
Public 諸々(CP混在)
 

無題

ショタ拳兄の完全なる幻覚/イメージは開国まもない日本でママとミカとその他同胞と同居してるけど時代考証isクソ/まだ何も深刻に考えてない頃の拳兄/全部幻覚です


 仮宿の屋敷の窓を開けて、桟に足をかける。屋敷の中に他の気配はない。
 グッと力を入れて素足で窓を蹴り、木の枝に着地する。護衛の人間どもにまるで猿だと揶揄された手際の良さでするすると木をつたい、塀を越えて走った。
 月が高く、ケーンの行く道を照らしている。カモシカのように道を走っていくと、母親が施した方位撹乱の催眠の範囲を超えた。これがあるから、人間はケーン達の屋敷をそう簡単には見つけられない。
 境界を渡る瞬間、ピリリと脳に刺激が走るが、頭を振ってそれを追い払い走りつづけた。
 遠くの方に、賑やかな提灯の明かりが見えている。

 世間体と威厳を何より大切にする母親は、この国に来てからケーンたち親子の後ろ盾となってくれている大商人と夜会のはずだ。
 母の催眠の餌食になった護衛の男たちに、ケーンより強い何人かの同胞、それから可哀想なお人形のミカエラも一緒に。

 母親は自分そっくりの見目麗しいミカエラが生まれてからというものの、跳ねっ返りで嫡男の自覚が無いケーンに期待をかけることをやめてしまったようだった。結界術に目覚めた頃にはあれほど猫可愛がりしていたと言うのに、今ケーンがもらえるのは冷たい視線か小言のどちらか。

 家がどうとか一族がどうとか同胞がどうとか、馬鹿馬鹿しい。人間だろうが吸血鬼だろうがどうでもいいから、家族で仲良く穏やかに暮らすと言う選択肢は母の頭の中には無いのだろうか。
 吸血鬼の誇りや人間の愚かさ、同胞を守る義務やらを説かれるたびに、ケーンは母親にそう言ってやるのだが、母はその度にため息を吐いては「お前は本当にどうしようもない」と言うだけだった。

……アンタが今更どんなにがんばったって、その同胞とやらに見放されたから、おれたちはこんなとこにいるんじゃねえのかよ)

 考えながら、一本の大木によじ登る。立派な木の中腹には、木の葉で作った暖簾のような隠し扉。知覚を操る催眠が使えればもっと綺麗に隠せるのだが、ケーンにその才能はないらしい。
 扉を開けると、子供一人が入っても余裕なくらいの大きな穴がある。中に入り、着ていた仕立ての良いジャケットとシャツ、クラバット、ハーフパンツ、下着と着ていたものを次々を脱ぎ捨てる。
 代わりに隠していた褌を締めてからつぎはぎだらけの汚い浴衣を着て、帯を結ぶ。まだ慣れずに結びはいい加減だが、止まっていれば良いだろう。続いて麻色の使い古した布を二枚取り出す。一枚は端を合わせて筒状に縫ったケーンのお手製だ。この布は手ぬぐいと呼ぶらしい。家で使うシルクのハンカチよりも、こちらの方が遠慮なく使えてケーンの好みだった。
 頭を通して首に弛ませ、一部をぐいっと鼻の上まで持ち上げれば、すっぽりと牙が隠れる。もう一枚はしっかり頭に巻きつけ、耳を隠す。これで汚い身なりのどこにでもいるクソガキの完成だ。
 木のうろから這い出して飛び降りる。風切って地面を踏みしめ、わざと転がって汚れながら走った。うひひと笑いが漏れる。

 あのいい子ちゃんの弟も、母について行きたくて行ってるわけじゃないのはこの前聞き出した。けれど母に付き従うのは、それでもミカエラを可愛がってくれる母が好きだからだと。
 控えめに笑う弟は確かに可愛いかった。母親の期待に答えたくて毎日努力しているのも知っている。
 たった一人の弟だ。守ってやりたいとは思う。だけどケーンはそれと同じくらい、何にも縛られず、自由に歩いて、飛んで、走りたかった。

(あいつ、いい子ちゃんだからなー。めんどっくせえ。あいつだって好きにすりゃあいいんだ)

 そうだ、大人になって、母親よりももっと強い吸血鬼になったら、ミカエラを連れて世界中を旅しよう。米英国はちょっと怖いから除外して、アフリカとか、ロシアとか、ブラジルにトルコ、エジプトもいい。この国だって、自由気ままに見てまわったらきっと楽しいはずだ。

 最高のアイディアだ、と思わずその場でくるりと回る。
 ミカエラは外を知らないだけだ。
 知らないから怖い。知ればきっと、きっと屋敷に篭ってる馬鹿馬鹿しさがわかるはず。
 
 ミカエラさえ頷けばいつだってあそこから連れ出してやるのに、と思っているのだけれど、ミカエラが頷いたことは一度も無かった。

(まあ、兄ちゃんのおれがいろいろ下見しておいてやればいいや。あいつケッペキだからこの国は合わなさそー)

 自分の泥と砂と木の葉に塗れた着物を見下ろして、もしこれ見せたら発狂しちまうかも、なんて、未来を想像してぐふぐふ笑った。