バトル・トーナメント・オブ・松野 1回戦

能力松むつごバトル一回戦、長男VS末弟の途中

【第1回戦:松野おそ松VS松野トド松】
 シミュレーションルームは、模擬戦闘用に開発したというデカパンの言葉の通りにか、機能も充実していた。戦場や、勝利条件、細かい部分も設定できるという。六人でああでもないこうでもない、ああだこうだ、わあわあと騒ぎながらも、どうにか設定を済ませたシミュレーションルームに真っ先に入って行ったのは――

「ねえ、リタイアって本当にダメ!?」
 始まる前から既に敗北したかのように青い顔をしたトド松と。
「ダメに決まってんじゃん。そんなの兄ちゃんが許しませーん」
 そんなトド松を揶揄うように笑っているおそ松だった。
 場所は、渋谷のスクランブル交差点を模したようなビル群だ。現実のその場所は人で溢れているというのに、シミュレーションルームの中では当然と言うべきか、人っ子一人いない。
 トド松はその交差点のど真ん中、おそ松はそこから離れたビルの頂上にいる。彼らはインカムを付けて言葉を交わしている。それから、パーカーのポケットの中には、おそ松は赤、トド松はピンクの鉢巻が忍ばされている。
『それじゃあ、始める前にも言ったけど、制限時間は検査と同じく一時間。相手の鉢巻を取った方が勝ち。おそ松兄さんはうっかり燃やさないように気を付けてね』
 シミュレーションルームには観戦席も用意されていた。その中にいるのは、他の四人だ。ルールを確認するように、観戦席のマイクで二人へと話しかけたのはチョロ松だった。試合開始の合図を出すのも、同じく観戦席で行われる。
『リタイアは無しだよ。トド松お前、何のための試合だか分かってんの?』
 呆れたようなチョロ松の言葉に、車道のど真ん中で憤慨するトド松。しかし、もちろん分かっている。能力への理解を深める為の試合なのだ、リタイアしてしまえば何も分からずじまいになってしまう。結局、不貞腐れたトド松を無視したチョロ松が、試合開始の合図を出すべく息を吸い込んだ。

―― じゃあ、始め』

 そういう時はドラとか鳴らすんじゃねえのかよ、というおそ松の声と、それにふざけんなよと返して通信を切ったチョロ松の声を尻目に、トド松は僅かに口を開いて超音波を発した。コウモリ、イルカ、音波を使って獲物や仲間の位置を確かめる生物が存在する。それをトド松は知っている。だから、きっとおそ松の位置もこれで分かるだろうと思っていた。難点があるとすれば、音波の反射について、トド松自身がよく分かっていないという一点に尽きる。
 それでも、やらなければならないだろうと、トド松は勝負に出たのだ。
 勝利条件は、相手の鉢巻を取ること。つまりは、おそ松に接近しなければならない。けれどもトド松は、能力を抜きにしたって彼との接近戦で優位に立てないことを理解していた。そこにおそ松の能力まで加わったら、馬鹿正直に正面から向かっていくのは自殺行為だ。
 いくら戦闘が終われば元通りになるとはいえ、ダメージを負うことには変わりない。おそ松の放つであろう火を掻い潜れたところで、熱いものは熱いだろう。だから、トド松は兄の不意を突かなければ勝ち目などないと考えている。
 ともかく、おそ松の位置を探り、おそ松の背後を取り、どうにかしておそ松を行動不能に陥らせねばならない。ビル群に反射して返ってくる音波の中から、人間の反応を探るなんてできるのか。そんなことを考えながら、トド松は渋い顔をしながらも、まずは交差点を渡り切るべく歩みを進めた。



「今のところ、どっちも手をこまねいてる感じ」
 マイクを切ったことで、フィールドの二人には聞こえなくなったのを良いことに、観戦席では他の四人が、複数のモニターに映るマップや二人の様子を見ながら、デカパン博士の用意していたお菓子を食べていた。ここには、給水機と、電気ケトル、ティーバッグやコーヒーメーカーまで備わっている。
 おそ松とトド松の戦いは、四人にとって体のいい娯楽と化した。
「おそ松兄さんは別にすぐ能力を使ってもいいと思うけど、それじゃあトド松に居場所を教えるようなものか。兄さんにはトド松の場所を知る術がないから、使っちゃうのはアリだと思うけど」
「トド松は、多分おそ松の居場所を探ってるな。このバトル、不意を突かなきゃトド松には厳しいと思う」
 マップに浮かぶ二人の位置があまり動かない様を見ながら呟いた一松に反応するように、チョロ松とカラ松が考察する。十四松は、三人の背後で元気よく素振りをしていた。見ているだけというのも、落ち着かなかったのだろう。
「チョロ松兄さんとクソ松は、どっちが勝つと思ってんの」
「僕はおそ松兄さんが安牌だと思うよ」
「オレは、そうだなぁ。やっぱりおそ松が有利だとは思う」
「賭けようかと思ってたのに」
「賭けにならなかったね」
 勝利条件、やっぱり別なのにした方が良かったかなぁ。そうチョロ松が溢しているうちに、マップ上のトド松が動き始めた。