その日、カラ松の懐は潤っていた。単純に言えば、小遣いを貰ったばかりだったのだ。そして、天気は快晴。橋の欄干に凭れかかるカッコ良い自分、小川の水面に写るカッコ良い自分、そしてチラチラと感じるシャイなカラ松ガールズ達の視線。何もかも、カラ松の気分を上向きどころか上昇気流にするのに十分だった。何時もは財布の中身が寂しいだとか、ガールズが見当たらないだとか、残念な事が多いのだが、その日のカラ松は何一つそんなことがなかった。
それに加えて、前日にダラダラと見ていたテレビ番組で、美味しそうな各地の名産品を食べ歩く様子を流していたのだ。まだ見ぬ各地のカラ松ガールズに会いに行くついでに、名産品を食べるのも良いかもしれない、なんて思い立ったのだ。財布の中身もある、有事の際の為にスマホも持っている、ならば迷う理由は無い。カラ松はスッと姿勢を正すと、そのまま何時もの場所を後にした。
それから半年間、カラ松は気ままに一人旅を満喫することになるのだが、当の本人もそんなことは思いもしていなかった。
最初は、海の幸を堪能すべく海沿いの街に向かった。そこで、自分の財布の中から出せる程度の海の幸を堪能出来た。カラ松はそれで満足して帰るという発想に至らず、どうせなら辺りを散策してみようと決めたのだ。
その後、何故か浜辺のサーファー達と意気投合して、彼ら行きつけの店で夜まで盛り上がってしまった。もちろん母親には、食事は要らないことを伝えてある。そこにあったアコースティックギターで尾崎の歌を弾き語りしたカラ松は、一気に人気者となった。久しぶりの賞賛の嵐に満更でもなかったカラ松は、知っている曲を次々披露した。
そこの気さくな店長に、何なら暫く店で弾き語りでもして行かないかと誘われたのだ。どうせ暇である事に変わりはなかったし、何より店長が「報酬も出すし、ウチに泊まって行けば良いさ」なんて言うものだから、カラ松はあっさりと頷いた。サーファー達の中では有名な店らしいそこで、カラ松は三週間過ごして、財布の中身は出発する前よりずっと温かい。
その次に、山の方へ行きたくなった。海の幸ばかりだったのだ、山の幸を楽しみたいという欲も出る。来る時に降りた駅に戻って、カラ松は案内図を眺めていた。彼にとってスマホは、あくまでも必要な連絡を取るためのツールでしかなく、それで調べるという発想がなかったのだ。駅で聞いてみれば、山の方に行くバスも、電車も、そう本数は多くないらしい。タクシーを使うかとも思ったが、駅前にはタクシーが見当たらなかった。
頭を抱えていたら、親切なバイクに乗った男性に声を掛けられ、事情を話すと方向が同じだと言うので乗せてくれた。大型バイクはカッコいいなあ、運転出来たらカッコいいだろうなあと思いながら、目的地に着いたら一緒に写真を撮らないかと言われて、通りすがりの人に二人で写真を撮って貰った。
それからも、カラ松は行き会う人々に恵まれて、赤塚に戻って来るまでに沢山の知り合いが出来たのだ。お陰でスマホに保存してあるデータは一気に増えた。悲しいかな、その相手の九割は男性で、残りの一割は既婚女性だったりするのだが。
「カラ松って男運は良いよな」
「誤解を招くような言い方は止めてくれ、おそ松」
実に半年振りの我が家に帰還して、翌日。カラ松は何故か兄弟の五人に取り囲まれて、この半年間についてやたらと質問された。土産ものはないが、土産話は確かにある。しかし、兄弟からの問い掛けは、そんな土産話のきっかけにすらならなかった。
「何で連絡しねえの?」
「マミーにすれば問題ないだろう?」
「いや、その旅の思い出とかさあ」
「別に帰ってからで良いだろ?」
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