茉神 汐
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三成と無名刀を取り巻く人々

BSR/三成×無名刀

 其の刀、只人触れるべからず。石田三成が豊臣秀吉により佐和山の城主を任ぜられて以来、城内にそんな暗黙の了解が出来ていた。それは特に妖刀などという謂れもない、無名の刀工が鍛え上げたなんの変哲も無い刀である。ただ、その持ち主は佐和山城主である三成だというだけで。
「不用意に刀に触れた女中が城を追い出された。首を刎ねられなかったのは刑部様の執り成しがあったからだ」
「刀を手にして見てみたいと申した行商人が地下牢に捕らえられた。釈放されたのは丁度視察にいらした竹中様が三成様を諌められたからだ」
「三成様が刀の手入れをなさっている時に部屋へ立ち入った兵は危うく首を刎ね飛ばされそうになった。島殿が通り掛らなければ、死んでいたに違いない」
 三成と刀に纏わる話を探すだけで、ここまで物騒な話が続々と出てくるのだ。実際に人死にが出たのは、侵入した忍が三成の刀の手入れをする頃合に私室の天井裏を通り掛かった時くらいであるが、他も誰かが止めなければ即座に斬られていたに違いない。それ程までに、三成は自身の刀に他人が触れることを嫌っていた。秀吉様から賜った、という話もあるが、それにしても刀に執心する三成は、もっと別の理由を持っているのではないかと、秘密裏に語られている。

ーー はい、私見てしまいました。あれは秀吉様より出陣命令が下り、城内が戦支度に大忙しだった時。城の裏手には私ども女中が使う井戸があるのでございますが、其処から少し離れた場所に立派な松の木が生えております。それで、私が井戸に水を汲みに行きましたら、その松陰に三成様がいらして。出立前に気を引き締めて居られるのかと思いましたら、三成様が、あのう、そのう、いつもお持ちの刀に、せ、接吻をしておりましたの。私は、三成様が城内にお戻りになられるまで、そこでじいっとしているしかありませんでした。……だって、そんな、まるで恋うた相手との密会のような空気、物音でも立てて三成様の不興を買ったら、私のような女中など斬られて仕舞いですもの。

 そんな話が、女中達の間でひっそりと語られているとは知らぬ三成は、今日も愛おしげに、慈しむように、自室で愛刀の手入れをしているのだった。