色褪せつつある風景の中に、極彩色に光る小さな一点がある。幾ら遠ざかろうとも、色褪せず、見失うことのない、忘れえぬ思い出。そこにあるのはただ輝かしいものだけではないことも、痛いほどに理解している。けれども、そんな沈鬱なものをも内包して、それは鮮烈な光を放ち続けているのだ。
「あの頃、僕がもっと声を上げることが出来ていたら、あの闇に引き摺り込まれることもなかったんじゃないかと思うんだ」
一乗寺賢は、高石タケルと対面していた。かつてデジタルワールドを駆け回ったあの頃よりも、二人は随分と成長している。世界も随分と様変わりし、パートナーデジモンを持つ子供たちが着実に増え続け、そこで問題や課題が持ち上がる度に選ばれし子供たちだった彼らは奔走してきた。認知も、ようやく浸透し始めたのだ。
だからだろうか、タケルは自身の体験したデジタルワールドでの冒険を、小説として纏めようと思い立った。当時の仲間たちからも話を聞きながら、タケルは構想を纏めている。その最後の人物が、賢だった。意図していた訳ではなかったが、予定の擦り合わせをしながら、タケルは彼が最後になるとは思っていた。
「あの頃の僕の世界は、とても、とても狭かった」
相槌のように頷くタケルに目を向けながらも、賢はどこか遠くを見ているようだ。狭い世界、その言葉はタケルの胸にすとんと落ちる。その先に広がる世界が見えない子供。家族と、ほんの少しの外の繋がりだけが全てだった子供。彼にとってのデジタルワールドでの最初の冒険をも、後ろめたさで蓋をしてしまっていた賢。
「僕が手を伸ばせば、声を上げれば、家族は手を伸ばしてくれていたかもしれない。兄さんだって、ずっと優しいままだったかもしれない」
「そういう話をして貰うつもりじゃあ、なかったんだけど」
「あぁ、すまない。どうしても、あの頃を思い出すと、今の僕でなければ見えないものが見えてきてしまって」
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