茉神 汐
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創作 10年前くらいの黒歴史晒し

創作/厨二感丸出し/10年以上前の産物



H A P P I N E S S



その日は雨。
雨は彼女の血を流した。
そして、
僕の涙を隠した。





「健一っ!早く起きなさい。仕事でしょう!」
耳元で、夜月陵弥(やづきりょうや)の声がしたと思うと、体が一気に冷えた。
「~~おいっ!何も布団剥ぎ取るこたねーだろ!!」
一気に起き上がり、怒鳴ると陵弥は困った顔をした。
相変わらず、茶色の髪は後ろで一つに束ねられ、前髪は眼鏡をかけた目にかかっている。
今日は黒一色の服を着ていた。
「近所に迷惑ですよ?毎朝毎朝。」
ため息まじりの言葉に全く反論できなかった俺。
「陵弥ぁ。着替えとメシ。」
仕方なく陵弥に服と朝食を持ってくるよう頼んだ。
――――っいい加減にしてくださいっ!」
バコッ
・・・陵弥の持っているファイルで頭を叩かれた。
「~~~~いってーーーー!」
こともあろうに角で叩きやがった。・・・陵弥の馬鹿。
「あ、お仕事は大丈夫ですか?」
「・・・あぁ、うん。」
仕方なく自分でスーツを取りに行き、着替えた。
「はい、朝食。」
陵弥の手作りだった。トーストと目玉焼きだったけど。
「いただきまーす。」
陵弥の料理はおいしいからさっきのことはなかったことに・・・。
なんてことは無いぞ!!いつか絶対陵弥の間抜け面をみてやる!!
「健一、手紙来てますよ。差出人不明ですが。」
「あーっ、そこ置いといて!俺もう仕事行くわ!」
陵弥の声で反射的に時計を見て、俺は慌てて家(マンション)を出た。

「行ってらっしゃい。夏樹健一サン。」
しかし、陵弥のその言葉を俺は知らなかった。
陵弥の冷たい瞳も知らなかった。





「さて、仕事しますか。」
僕、夜月陵弥は、ワケあって夏樹健一(なつきけんいち/24歳・会社員)と同居し、彼の調査をしています。
僕の仕えている方のご令嬢である、美剣明日香(みつるぎあすか)サマにふさわしい人物を探す命を受けたからです。
「さて、と。」
・・・いつもどおりチェックをして、僕は部屋を見渡しました。
僕が来る前はどうか知りませんが、彼の部屋はシンプルです。
必要最低限の家具しかない、写真も無い。・・・いい感じです。
「さて、どうしましょうか。」
でも、やることが無いのだからパソコンかテレビは欲しいですね・・・。





―――何も無い部屋ですね。
そういわれたのは陵弥で二人目だ。
一人目が誰かなんてあまり思い出したくない。
俺の会社での役割は、まぁ普通の平社員だ。
結構仕事多いけど、定時に終わらせることは造作でもない。
今日も、5時には仕事を完全に終了させた。
いつもは、夜まで街の中をうろついている。
でも、今日は早めに帰ってきた。
今朝見た夢が妙に気になったから・・・。
思い出そうとするとぼやけていく。
でも、不意に鮮明に押し寄せてくる。
赤、闇、涙、雨、そして―――――
『まもなく、西野。西野でございます。』
駅への到着を告げるアナウンスで、俺は我に返った。


―――――そして、以前彼女だった『美剣明日香』の―――






部屋の呼び鈴が鳴りました。
夕方に誰か来るなんて珍しいですね。
「どちら様ですか・・・?」
鍵を開け、扉を開けるとそこには・・・。
「あ、陵弥。健一は?」
「あ、明日香様!?」
僕はちょっとびっくりしました。





『美剣明日香』が俺の家に来るのは二ヶ月ぶりだった。
「相変わらず、何も無いわね。」
二ヶ月前に見た髪、瞳、表情。全てそのままで。
「何か用?」
言葉が一気に押し寄せてきて、詰まって、これしか出てこなかった。
何の芸も無い、平凡な言葉。
「実家に連れ戻されて・・・どうしたの?」
聞きたいことが、少しずつ流れてくる。
「今日までずーっと家の中。で、今日解放されたの。」
そういった口調も変わらずに。
ただ一人、陵弥は呆然としていた。





信じられません。
明日香様がこんな普通の男と付き合っていたなんて・・・。
確かに明日香様も22歳ですから・・・。
例えば・・・
そう、例えるならこの僕!!(25歳・召し使い)
こんな金髪不良社員のどこが・・・。
「陵弥。」
「はい?なんでしょう。」
健一に呼ばれて、少し声が裏返ってしまいました。
「俺ら、ちょっと外出てくるから、留守よろしくな。」
「はい。」
なんでこう、人に頼まれると悪い気が起きないのでしょう。
扉の閉まる音が、遠くに聞こえました。
『俺ら、ちょっと外出てくるから留守、よろしくな。』
・・・・・・ん?
俺ら!?という事は・・・!?
慌てて部屋を見渡しても明日香様のお姿がありません。
・・・僕はやはり只の召し使いで終わってしまうのでしょうか・・・。





「ここら辺、ぜんぜん変わってないね。」
俺たちがいつも会っていた小さな、ブランコと砂場しかない公園は、変わらずそこにあった。
2ヶ月前、いつもそうしていたようにブランコに座った。
「・・・陵弥、失礼なことしなかった?」
月明かりに照らされた明日香の顔はとても神秘的で綺麗だった。
「ねぇ。」
ぼんやりと明日香に見とれていた俺は、ハッと我に返った。
「・・・え?あ、あぁ。身の回りの世話とかしてくれたし。」
「そう。よかった。」
慌てて応えると、明日香はほっとした表情になった。
「陵弥、ちょっと私に惚れ込んでるみたいで・・・。なんか失礼なことしたんじゃないかって思ったけど、結構うまくやってたんだね。」
明日香は、ゆっくりと空を見上げた。
俺は、こうやって過ごせる日が続くように願った。





ケータイが鳴りました。
「はい。陵弥です。」
「俺だ。」
耳に響いてきた低い声は、美剣家の当主、隆典(たかのり)様でした。
「なんでしょうか??」
「明日香の件だが、早いほうが良いと思ってな、今日決行することにした。」
・・・突然のその台詞に、僕は声が出ませんでした。





「さて、行くとしようか。厚史(あつし)、アレは持っているだろうな?」
「はい。」


雲が、月を隠した。


「あ・・・なんか曇ってきたな。」
「雨降ってきそう。」


それぞれの思惑をのせて、


「・・・僕は・・・。」


時は・・・・・・


「隆典様、どうぞ。」
「・・・待っていろ。明日香。」


流れていく――――――









雨が降ってきた。
「僕は・・・明日香様を守りたいだけなんだ。」
独白するように呟いてから、陵弥はマンションを飛び出した。

「明日香、もう帰ろ。風邪引くぞ。」
「・・・うん。」
闇に、光が射した。黒い車体が浮かび上がった。
急ブレーキをかけて、それが停まった。
ドアが開き、スーツを着た男が出てきた。
「・・・お・・・お父様・・・?」
明日香は、そのスーツの男を見てそういった。
「・・・あいつが・・・?」
健一は、その男を見つめていた。

陵弥は、服が水を吸って重くなるのを感じた。
それでも、陵弥は走った。


―――間に合ってくださいっ!!


ただ、その一念だけで・・・。
髪から一滴、また一滴と水が滴り落ちた。

「捜したよ、明日香。」
隆典は、明日香に銃口を向けた。



―――明日香は、私にとって邪魔な存在だ。


―――何故ですか?


―――明日香は、私の裏の顔を知っている。生きていれば、後々障害があるからな。


―――そうですか。





隆典の脳裏には、以前厚史と交わした会話がよぎっていた。
「私のために死んでもらうよ。」
隆典は、ゆっくりと引き金を引いた。
明日香は、恐怖のあまり動けずにいた。
健一は、呆然としていた。



――――――俺は、明日香を守れないまま終わるのか・・・?



健一は、今までの出来事を思い浮かべていた。
そして、引き金が完全に引かれたとき。
「明日香様っ!!」
明日香の前に陵弥が飛び出した。



「陵弥、やめてえ~~~~っ!!!」















銃声と、明日香の悲痛な叫びが響き渡った。

















―――でも、


隆典は、あの会話の続きを思い出していた。



―――隆典様と明日香様はどんなことをしても・・・。



隆典は、三人に背を向けて歩き出した。

「陵弥っ!大丈夫?しっかりしてっ!!」
明日香は、服が汚れるのも構わずに陵弥のそばにしゃがんだ。
健一は、どうすることもできず、二人のそばに立っていることしかできなかった。





その日は、雨。
雨は彼の血を流した。
そして―――――



「明日香・・・さま。」
陵弥が微かに身動きし、明日香の手をとった。
「陵弥、大丈夫?」
明日香は、力強く陵弥の手を握り返した。
「僕は・・・笑っている・・・明日香様・・・が好き・・・です・・・。」


――だから笑って。愛しい人よ。



そして僕の涙を隠した。



雨は、変わらず激しく降っていた。
雨が陵弥の体温を奪っていく。
陵弥はもうもたない。
健一はどこか冷静にそう感じた。
「・・・健一・・・。」
「・・・なんだよ、陵弥。」
だから、いつもどおりに返すのが健一なりの感謝の気持ちだった。
「明日香様・・・を・・・悲しませ・・・ないで・・・。」
陵弥の手から力が抜けたのが明日香には分かった。
健一は、陵弥の死を直感的に感じ取った.。
明日香は、泣いていた。声を出さず、肩を震わせて。
「陵弥・・・お前が悲しませて・・・どうすんだよ・・・。」
雨か、涙かわからないしずくが、健一の頬を伝った。








空が、泣いていた。







あの事件から三日後――――

「・・・あ。」
健一は、手紙を見つけた。
あの日の朝、陵弥が見つけた手紙だ。
封筒に差出人の名前はなく、文面には小さな字が並んでいた。

『健一へ。
久しぶりだね、元気?
時間がないから手短にしておこう。君の彼女、美剣明日香は俺の使えるご主人のご令嬢だ。
そのご主人が、彼女の殺害を企てている。そして、今日実行されてしまう。
彼女が大切なら、彼女とどこか遠くへ逃げてくれ。
君が友人だから話すんだ。それじゃ。
2月4日     矢野厚史(やのあつし)』
「厚史・・・。」
変わらない、彼の友情に健一は微笑んだ。
「健一っ。何やってんの?」
三日前のことを少しも感じさせない口調で、明日香が話しかけてきた。
「・・・ちょっとね。」
健一は、ひそかに手紙を封筒に戻した。

あれから、2人は一緒に暮らし始めた。
健一の部屋に、陵弥の写真が飾られていた。
二人を見守ってくれるように・・・。
時の流れは速く三日などあっという間に過ぎていった。

明日香は、微笑んでいる。
健一は、いつも穏やかで。
それだけで2人は――――



「隆典様、よかったのですか?」
厚史は、車を運転しながら尋ねた。
「・・・まぁ、明日香も忘れているみたいだしな。」
隆典は、タバコに火をつけた。
「・・・そうですか。」
厚史はそれ以上何も言わなかった。
そして、心の中で友人に呟いた。

―――幸せにな。健一。

一方隆典は、厚史の言葉を完全に思い出した。



―――でも、隆典様と明日香様は、どうやって切ろうとしても、


血の繋がった親子なんですよね。



「・・・お前には負けたよ。」
隆典はタバコの煙と一緒に、その言葉を厚史へと送った。



陵弥の命を無駄にしないように、
微笑んで、楽しんで、笑って、
今は生きていよう。



――――それだけで2人はシアワセだから。








END