終業のチャイムを聞きながら、慶次は屋上のフェンス越しに茜空を眺めていた。ぼんやりと雲の流れを見る、静かで穏やかな時間。視線を下ろせば、校庭へ駆け出していくジャージ姿の生徒がちらほらと見えた。
平和とは、こういうことなんだろうと分かる日々。それをかつての自分は望んでいた。
それでも何処か、胸にぽっかりと穴が開いたような今よりも、波乱だらけだったあの頃を渇望する自身の気持ちはどうしたことか。慶次は再び空へと視線を戻す。
「平和、だなあ」
屋上の扉が開く音に混ざるかのような独り言は、それでも慶次の胸に開く穴を埋めるはずもない。
「寂しいのか」
かけられた声に振り向いた慶次は、先ほどやって来た人物を悟る。件の人物、三成もまた、慶次と同じくかつての記憶を持っていた。
寂しいのか、三成は再び問う。周りでかつての記憶を持つ者は、慶次の知る限り自身と三成の二人だけだった。皆、かつての出来事に折り合いをつけたのかと思うほど。
「そうだなあ、寂しいよ」
口にすれば、開いた穴に名が付いたようだ。慶次は、不恰好に笑って見せた。
「……ああ」
三成のその反応に、彼も同じような穴を持っていたのだと思うと、少し虚しくも、嬉しさが沸き上がった。
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