独身狂詩曲

BSR/現パロ/関ヶ原組/独身貴族関ヶ原組が居酒屋で飲んでる話

 世の中には、人と人の間には、得てして縁があるものだ。だからとはいえこれは、しぶといだけの腐れ縁だろうとは三成と家康の共通見解だった。「これ」が指す物はそんな二人の間の縁であり、見解を導き出した理由は互いの年齢に因るものが大きい。結婚適齢期など過ぎて久しく、だからと伴侶が居たならば恐らく二人はもう少しばかり遠い位置にいたはずだ。
 当然、伴侶を得る努力は彼らだってしていない訳ではない。だが、良き伴侶というものとの縁が、三成と家康の二人の縁よりも薄かったらしい。周りは家庭を築くどころか家族サービスに忙しい、となれば気楽に飲みに誘えるのは独り者の互いばかりになるのは必然だった。個室の居酒屋で、三成と家康はカチンとアルコールの入ったグラスをぶつける。単に煩い場を嫌う三成が誘いをかけると大抵は個室の居酒屋になるだけで、彼のセンスが壊滅的なことを家康は良く知っていた。仕事帰りだからこそ三成はピシッとした高そうなスーツを着ているが、彼の私服など投げ売りされているもの、下手をすれば学生時代のジャージである。
 実際、三成の見目は悪くはないから、多少近寄りがたい雰囲気すらも好きという女たちからは好かれている。彼の問題といえば、仕事に熱を入れすぎて他が疎かどころか、彼の生活の中では辺りに散る葉程度にまで順位を下げている所にある。家康が、こうして呑む度に何度も指摘しているのだが、改善の兆しはない。
 家康は三成を色恋においてそう判じたが、三成は家康をどう見ているかと言えば、簡単である。そのへらへらとした愛想笑いを止めれば良いと思っているのだから。というのも、家康はその人当たりの良さや優しさから好意を持たれる方が圧倒的に多く、三成は家康と交友関係を持った当初こそ、こいつは身を固める相手に苦労しないに違いないと思ったくらいだ。
 だが、何より家康は優しすぎたし、少しばかり女運が足りなかった。彼は昔から、どういうわけかいっとう好きな相手からは、色恋の意味では全く好かれないのだ。それについて三成は何度か自棄酒に付き合っているが、その女運のなさだけを取れば不運に好かれる自身の同僚と良い勝負だと常々思っている。
「それで、なんでまた誘ってきたんだ?」
 そんな独身二人の沈黙を破ったのは家康だった。彼は既にグラスを空にして、次の飲み物を吟味しているところだ。三成のグラスにはまだ半分ほど酒が残っている。家康の問いに、三成は鞄の中から小さな紙袋をずいと差し出した。
「貴様の忘れ物だ」
「え?……あ!」
 紙袋を受け取り、中を見た家康は漸く理解した。先週、三成の家へ食事に行った時にハンカチを忘れて帰ってきたのだ。わざわざ洗濯した上にアイロンまでかけたらしく、袋の中のハンカチは家康の記憶にあるものよりも随分ピシッとしている。ただの忘れ物なのだからぞんざいに扱っても良かったろうに、律儀な三成らしいなと家康は笑った。
「わざわざすまないな、ありがとう三成――あ、刺身も頼んでいいか?」
「勝手にしろ」
 三成は苦虫を噛み潰したような顔のまま、酒の残りを呷ると家康と同じようにメニュー表を眺めた。家康がハンカチを忘れていったせいで要らぬ邪推をされたことに怒りをぶつけたかった三成だが、先ほど飲んだ酒と共に流れていったらしい。やってきた店員に家康共々注文を済ませると、三成は口を開いた。
「それのせいで、要らぬ邪推をされた」
「ん?ハンカチでか?」
「浮気をしたのかと」
「色々言いたいがお前彼女出来てたのか」
「貴様に報告する義務もないだろう」
 あれのせいで散々だったのだ。どう見ても男物のハンカチを目敏く見つけ、問い質してきた女の思考など分からなかったし、その程度で気を乱すような人間など三成にとって煩わしいことこの上ない。その怒りは先ほど飲み下したが、切り出した別れに邪推が再燃したためにスッパリと後腐れなく終わらせるのに苦労した分の怒りは収まらなかった。家康にしてみれば良い迷惑である。
「もう終わったが、その面倒の八割は貴様だ」
「別れたのか?勿体ない」
「貴様がハンカチを忘れたせいだ。貴様が奢れ、拒否は認めない」
「クリーニング代にしても釣りが来るぞ。それにワシのハンカチがどうしてそんなことに」
 ちょうど注文したものが運ばれてきて、二人は口を噤んだ。テーブルに並べられたメニューを見、店員が立ち去ったところで三成はすうっと息を吸い込む。
「貴様のせいで!私は男と浮気をしていると思われたのだ!」
 酒に口をつけようとしていた家康は、三成のその言葉を聞いて目を丸くし、まだ口をつけていなくて良かったと、酒の入ったグラスをテーブルに置いた。片や三成は、家康に怒りをぶつけたせいで沸々と当初の怒りまでが再燃している。眉間にしわを寄せ、家康を睨みつけても消えない程。
「なんでまた――あ、三成醤油取ってくれ」
「やはり貴様を殴らなければ私の気が済まない!――貴様、それくらい自分でやれ」
 何がやはりなんだと家康は思ったが、怒りながらも醤油を手渡してくる三成はなんだか面白かった。