リク品※捏造BSR三次※ 小十郎と重綱

リク品/捏造BSR三次創作/BSR次世代/フォロワーさんの小十郎とその息子重綱設定

 戦支度も慌ただしい青葉城内で、男が一人、険しい顔のまま陣の書かれた地図を見ていた。奥州に領を持つ小大名に挙兵の動きあり、という知らせを受けての今回の出陣。それ自体は男、片倉小十郎重綱にも憂いはない。奥州を統べ、ゆくゆくは天下をも統べようと意気込む主君、伊達政宗にとって容易くもあり、だからといって見過ごせぬが故の戦だ。それは重綱も十分に理解している。
 ただ、それは政宗の子供であり、重綱が傳役として仕えている秀宗と五郎八姫の初陣でもあった。
 側室の息子であることを抜きにしても、秀宗は男子であるのだから、いつかは初陣を迎える日が来ると分かっていたはずだが、重綱の脳裏では、庶子であることを思い悩む幼き日の秀宗がなんとも頼りなげにこちらを見ていた。そして正室の娘、五郎八姫までもが初陣を迎えると聞いた当初、重綱は目を見開いたまま言葉の出ない口を塞げなかった。伊達家の姫である彼女も、武芸を嗜む。だがそれだからと実戦に出るのでは全く意味が違う。それが例え、勝てる戦であろうともだ。
 御二方を、我が君を、必ず、命に代えてでも守り抜く。重綱の決意は固まっていたが、まるで兄か親かのように秀宗と五郎八姫に対する心配ばかりが募っていく。
「重綱様、秀宗様と五郎八姫様の出陣の支度が整いまして御座います」
「分かりました、私も直ぐに参ります」
 いくら憂えど、政宗の認めたことならば覆せはしないし、敵方の進軍は待ってはくれないのだ。二人の我が君の初陣なれば、一人前の伊達家の子となる門出なのだと重綱は己に言い聞かせながら、言伝てに来た兵の後を追うように城内を進んでいった。



 進軍は滞りなく、予想の通りの地に陣を敷いた。秀宗と五郎八姫、そして重綱は、政宗と小十郎のいる本陣と程近い所に配置されている。恐らく余裕もないのだろう、背後に控えている重綱の見る限りでも秀宗と五郎八姫の肩は強張り、雰囲気も戦の中の緊張感とは違って、とにかく手柄を立てなければというような焦燥に似た緊張が混ざっていた。二人とも父に、母に、臣下に、認めて貰いたいのだろう。
 重綱は父に誉められた事など殆どないが、それでも認めて貰いたいという気持ちを捨てたことはない。だが、それが焦燥となるならば話は別だとも、彼は潜り抜けた戦の数々からよく分かっていた。
「秀宗様、五郎八姫様、御二方は私が命に代えてでも御守り致します」
「重綱……、感謝する」
「はい、重綱」
 だが、周りが俄に慌ただしさを増し、諭して理解を促す暇がないことを知ると、重綱は二人の主に誓いを立てた。いつも二人を守り抜く為にあるのだ、平素でも戦でも。背を、信頼する重綱が守るという安心感からか、秀宗も五郎八姫もようやく余計な力が抜けた。
 程なくして響いた開戦を告げる法螺貝の音に、秀宗と五郎八姫は事前の作戦の通りに出陣を叫ぶ。そして駆け出した二人の背を守るように、重綱も駆け出していった。



 戦況は優勢だった。元より、この戦で他の反乱分子への牽制をする算段だったのだし、兵の数も力も、奥州の大半に影響力を持つ伊達と小大名とでは、差が歴然。だからこそ、秀宗と五郎八姫の初陣にと決めたのだ。
 二人は既に、政宗のいる本陣へと身を落ち着かせた。初陣に添う役目を全うした重綱は、しかしまだ終わった訳ではない戦場で、父親である小十郎の元へ向かっている。政宗の腹心であり竜の右目と名高い父親を持つ重綱は、自身もまた、秀宗や五郎八姫にそこまでの信を寄せられる器になりたいと切に願う。
 そのための努力を怠ったことはないが、父が大きな壁となっている。今も、本陣に控える政宗の、伊達軍の勝利のために、雷光すら発しながら敵兵を圧倒している。いつか、あの大きな背を越える男になれるだろうか。いや、越えてみせる、と重綱は得物を強く握りしめた。
「親父さま!重綱、加勢致します!」
「秀宗様と五郎八姫様の初陣は済んだのか」
「はい!御二方とも、今は本陣へ控えておいでです」
「なら構わねえ。重綱、さっさと終わらせるぞ」
 言いながら、小十郎は襲い掛かる兵を一息に薙ぎ倒していく。はい!と返した重綱も、二振りの刀を構えて敵を打ち倒していく。さすがというべきか、小十郎が任されていた一帯はそれこそ最前線、本陣に政宗と共に控える綱元、小十郎と同じく最前線を任される成実、伊達三傑と評される面々は、重要な位地に配されている。重綱の尊敬する成実は、小十郎とは離れた側で力を振るっていた。
 重綱は、政宗に、成実に、綱元に、そして父である小十郎に、己が力を示すかの如く。そして秀宗に、五郎八姫に、己が覚悟を示すかの如く。左右の手に持つ刀を存分に振るった。戦場を縦横無尽に駆け抜け、伊達では指折りの素早さを持つ重綱の剣技は、戦況を益々伊達の優勢へと引き寄せる。
 だが、まだ所々が荒削りですぐ周りが見えなくなる、とは小十郎の抱いた感想だ。妻である蔦には、あんたももう少し誉めておやりよと言われるが、重綱はまだまだ若い。若さ故の慢心や未熟さが身を滅ぼしかねぬことを、小十郎は知っている。後々、政宗の後を継ぐ秀宗や五郎八姫を支える要となる可能性の高い重綱を潰したくはないのだ。それほどに小十郎は、いや、政宗と小十郎は重綱を評価している。伸び代もまだあるのだから、さらに身を磨いて欲しいという親心を持っているが故の厳しさなのだが、子はそんなことを知らない。
「重綱ァ!周りを見ろ!前に出すぎだ!」
「は、はいっ!すみません親父さま!」
 敵兵も数が明らかに減り、戦の終焉が見えた中、小十郎が重綱の姿を探せば、彼は随分と離れた場所にいた。やはりまだ、戦いに集中すると頭に入れた布陣は意味を成さなくなるようだ。それではこの先が心配だ、とでも言えばいいものの、小十郎は言葉少なに、しかも厳しく投げ掛けるだけ。慌てて周囲を見た重綱が小十郎の元へと戻ってくる。
「お前、秀宗様と姫様を置いていったりしなかったろうな」
「まさか!我が君を置いていくなどしませんよ」
 もう数えるほどの敵兵だけが尚も襲い掛かる中、小十郎は一つの心配を重綱に問い掛けた。返答が否で良かった、と内心で息をついた小十郎は、成実のいるであろう方向へ視線を向ける。あちらも粗方の目処はついたようで、本陣に伝令を飛ばしているのが確認できた。そろそろ大将首か、和解という名の従属の話を持ち、政宗が出る頃合いだろう。
「戦はお前一人のもんじゃねぇ。冷静さを忘れるな」
「はい!」
 小十郎は一人の兵に伝令を任せると、残っていた敵兵を斬る重綱に言葉をかけた。
「全体を見ろ。一つの綻びも見逃すんじゃねえ。主が同じ戦場におられることを忘れるな」
 はい、という重綱の返答を追うように、本陣の方から法螺貝の音が響く。政宗が相手の総大将に向かって出陣する合図だ。次いで稲妻が一閃、竜のように蒼天へ昇りゆくと、重綱たちの居る陣の兵達が歓声を上げる。今までだって有利な戦況に士気は上がっていたが、政宗が出た途端に場の雰囲気は益々、伊達の圧倒的な存在感を示した。
 この力が、影響力が、伊達家の頂点たる者の器なのだと、重綱も気分が高揚する。いつか、秀宗や五郎八姫も彼のような器を持つのだろう。その頃、彼らの側に立つ者が、自分でありたい。そう重綱は、切に願う。
「親父さま、大殿様の元へ!こちらは私達が居りますので」
「ああ、任せた」
 もうこの一帯は殆ど終わりだ。後は本陣から逃げて来る兵がいる可能性があるくらいだろう。小十郎はそれを改めて確認すると、本陣へと向かっていった。この時、小十郎の背が重綱にとっては途方もなく大きく写り、片倉家の、小十郎の名もまた、とても大きく重いものなのだと痛感した。
 いつか、必ず越えて見せよう。重綱は己の途方もない目標をさらに深く、胸に刻んだ。