至って真剣な表情で対峙する家康と幸村。その場を支配する緊張感は、庶民など遠巻きに見ながらそそくさと去っていくのではないかと思わせる。が、幸いこの場には庶民はいない。
「なあ真田、一時休戦……いや、共闘しないか」
口火を切ったのは家康だった。虎の魂をぶつけ合う二人の仲は、しかしさほど深い親密さはない。それでも、今はそんなことを言い合う場合でもないことを、幸村もよく理解していた。
「事態が変われば、それは簡単に覆せると知りながら、徳川殿はあえて某と手を組むと申されるか」
「事態が変わり覆されようとも、それはワシ達がどうこうできるものではないからな」
「現状が続く限り、某達の利害は一致しておりますからな」
膝を付き合わせて、真剣な表情を交わす二人。そう、本人たちは至って真剣そのものなのだ。
「だが、情報の解禁は始まったばかり。謂わばワシ達にも機会は十二分にあるはずだ」
「今回は政宗殿と石田殿を主役に据え、某と徳川殿は次回の主役という噂までも流れておりますが!しかし!」
「ワシ達だって早く活躍したい!」
二人の傍らには号外だと配られた瓦版が広がっている。そこに描かれていたのは、未だ知らぬ三人の新人と、そして政宗と三成の姿だった。幸村も家康も、好敵手や因縁の相手をそれぞれ横取りされたような気がしたのだ。
「あんた達だけで手を組もうたあ、随分みみっちいんじゃねえか?」
「元親!」
「そうそう!どうせなら皆で殴り込みの喧嘩に行こうぜ!」
「前田殿!」
元親と慶次が二人の会話に割り込むように、声を上げた。それをきっかけに、何処からともなく沢山の武将たちが姿を現し、会話に混ざりこんでいく。が、慶次の言うような殴り込みの喧嘩は実現しそうにない。次元的な意味で。
「なあ、サヤカ、あんたもそう思うだろ?」
元親が笑いながら孫市を呼んだ、矢先に彼は頭に盛大な拳骨を貰った。慶次は元親が呼ぶように孫市を呼んでみたいと思いもしたが、彼女の怒りは買いたくないからと一瞬で考えを改めていた。
「その名で呼ぶな。……それに、我らは傭兵だ。いつ声が掛かろうと慌てぬよう、備えを万全にしておくだけだ」
「さすがだねぇ孫市!」
孫市は全く意に介さないらしく、からすめ、と言い残してさっさと輪から離れてしまった。そんな彼女に感心こそすれ、慶次はお祭り騒ぎの喧嘩を心待ちにしているらしく、話の輪にはしっかりと残る。
「そういえば、小耳に挟んだ噂だが。今回は二人一組となり戦うことになるらしいと、話が出ているようだな」
家康が思い出したように瓦版の中身を読み上げる。二人一組、と聞いてその場の視線がとある人物に集中した。
「貴様ら……そのような目で我を見るな!」
向けられる視線の言わんとすることを即座に悟り、激昂したなのは安芸の将、元就だった。こうした話題に入り込んでくること自体が稀有な元就だが、それでもやはり気になるらしい。
「いやあ、あんたと手を組んだら、なあ?」
「背後から斬られそうにござる……」
「むしろ毛利さんの攻撃の巻き添えにされそう」
元親は元就の怒りにも慣れているからさして恐怖はない。今この状態になった理由は自身でも分かっているだろうと言わんばかりにニヤニヤと笑う。それに重ねるように、幸村と慶次が思ったままを口にしたものだから、元就の怒りに火を注いだ。
「なに、毛利は我と組めば良かろ。仲良しこよしゆえ、な」
今にも輪刀を構えかねない元就の傍らに、ヒヒヒと笑いながら吉継が御輿に乗ってやってきた。三成のいない場だからか、彼は元就と手を組む可能性を最初から考えていたようだ。
「なら小生は半兵衛とか」
元就に向かった吉継の矛先に安堵した官兵衛は、ついでに枷を外してくれないかと暗に含みながら半兵衛を見た。半兵衛の傍らには秀吉がじっと黙したまま立っている。何度見ても、巨体だ。
「すまないね黒田くん。僕は秀吉と組ませて貰うよ」
官兵衛の言葉を受けた半兵衛は、にっこりと笑みを浮かべてそう返した。秀吉はそれに頷く。枷を外すつもりもないらしい、どころかがっちりと固い信頼で結ばれている二人に入る隙などあるはずもなく、官兵衛はがっくりと肩を落とした。
「何を言っているのです!サンデーは僕と共にザビー様を探す旅に出るのです!」
そんな官兵衛を退けるように身を乗り出したのは宗麟だ。ぐえ、と呻きながら横倒しにされた官兵衛を慰めてくれたのは、宗麟の従者である宗茂くらいだった。何故じゃ、と力なく呟きながら、官兵衛はすごすごと立ち去る、はずもなく、片隅でどうにか自分だけが出られるような策を練り始める。
「な、ならぬ!その扉を開けてはならぬ!」
その間ザビー教の歌を聞かされていた元就は、明らかな動揺を見せながら誘い手・幻を発動させて宗麟の傍を離れていった。さらにはその幻を爆発させたものだから、それにザビー教の歌を聴かせていた宗麟は虚しくも空へ飛んでいった。それを追うのは、宗茂である。
「わ、我が君!?」
奥が出たらどうしよう、立つ瀬がなくなったりして、などと雑念ばかりだったせいか、追いかけ始めた時には既に、宗麟は空の彼方だったが。
「あのさ、誰と組むかってもっと情報が出てから話すことじゃない?」
「む、佐助!た、確かにそうだ……だが、皆の望みは同じ!」
実際どうなるのかも分からないというのに、盛り上がり始めていき段々と話題が逸れに逸れていく事態に呆れながら幸村の側に姿を現したのは、佐助だ。まだ瓦版だって漸くこれ一枚が出たばっかりなのに、とざわめきが増していく空間と、やはり出たいし政宗の好敵手は譲りたくない幸村の熱意に反比例するように、佐助の気分はどんどん冷静になっていった。
あちこちで、自分が出るならば誰と組むかなど好き勝手に話が盛り上がっていて、既に出るためにどうするかとか共闘しようといった話題は、ない。明後日の方向に投げ飛ばされたに違いない。
「濃姫様!蘭丸も出たいです!」
「そうね。それに、上総介様に働きを認めて頂ければ、蘭丸くんにもご褒美があるはずよ」
「やったあ!蘭丸、頑張ります!」
成り行きを見ていただろう濃姫と蘭丸も、母子さながらの会話を繰り広げ始めていた。そのうち濃姫が、甘味は幾らまでよと言い出しかねない。それを打ち破ったのは、濃姫の背後からすうっと現れた光秀だ。
「おや妬けますねぇ帰蝶。あなたは私とは組んで頂けないのですか?」
「あ!光秀!濃姫様から離れろ!」
「おお怖い怖い」
くすりと笑みを浮かべながら濃姫に声をかけた光秀だが、即座に蘭丸に見つかり怒りの声を浴びせられた。それでも、蘭丸の言葉を茶化すように肩を竦めただけで、濃姫の背後から離れる気配はない。尚も噛みつかんとする蘭丸に、甘味を与えて大人しくさせた濃姫は完全に彼の保護者だった。
「光秀、あなた前回まで十二分に出たでしょう?我が儘は慎みなさい」
濃姫にまで言われて、光秀は漸く引き下がった。特に堪えるほど彼女たちには弱くもない光秀の視線は、わらわらと人の集まるあちこちを、何かを探すように見渡している。
「長政さま、市、長政さまと一緒がいい……」
「足を引っ張るなよ、市!」
「市、がんばる……」
長政の心境としては、勝家の存在が気掛かりなのだが、市が傍にいるというのは悪い気がするはずもない。にこりと笑む市の姿を気恥ずかしさから直視できず、思わず視線を逸らした長政は、それでも幸せだった。
「ま、孫市姉さま、私と!」
「姫、我らは傭兵だぞ?そこの元親で妥協しておけ」
幸せそうな市を見て満足した鶴姫は、離れた場所で成り行きを見ていた孫市へと声をかけた。だって前作でも共に出陣しましたし、という鶴姫の思惑も虚しく、孫市は元親と組むことを勧めた。
「おいサヤカ!何だって?そんなもんこっちから願い下げだ!」
「私だって、海賊さんとは組みたくありませんよーだ!」
異議を告げたのは元親も鶴姫も同じで、そこからぎゃあぎゃあと言い争いを始めた。内容はいつもの口喧嘩で、これはこれで仲が良いのではないかと孫市は呆れたように笑う。
「おい、いつき。お前はどうする」
「お、おらは……その、あの巫女さまと組んでみてぇだよ」
蒼いおさむらいとも、ともごもごと続けたいつきの頭を、小十郎は優しく撫でた。が、様子を見ていた佐助は、政宗が出て二人組で戦うのなら、小十郎は安牌なのではないかと思う。だからこそ、話題の中心には入らなかったのだろうが、それも何だか苛立たしい、と佐助は単なるやっかみも過らせた。
「そうか、叶うといいな」
「おめぇさんは、蒼いおさむらいと組むんだべか?」
「やあ小十郎くん!我が輩が政宗くんと組めば完璧だとは思わないかね?」
「最上……お前ってやつは!」
そんな小十郎といつきの穏やかで良い雰囲気をぶち壊したのは、羽州探題を自称する義明だった。小十郎を差し置いて自分が出て、政宗共々奥州を手中に収めたいらしい。小十郎に足蹴にされているが。
「なんだこれ!誰が収集つけるんだよ!」
一通り盛り上がっている面々を眺めてから漸く、静かな一帯に避難した佐助は、思いの丈を叫んだ。圧倒的に、場を落ち着かせるほどの影響力を持つ存在が居なかった。
「ははは、皆出たいのだから仕方ない」
「ある意味あんたと真田の大将が原因だよ!なあ!」
事の発端でもある家康本人がにこやかに佐助を宥めてきた。だがそれすらも今の佐助にとっては、少しばかり腹立たしい。出たいという気持ちは分かる、それこそ自分だって出たいのだ。政宗が確定しているため、腹心である小十郎はこの面々の中でも比較的有利だ。だが佐助は、その主すらまだ確定していないので、内心は非常に焦っている。
「うるさいぞ佐助!謙信さまの静かな時間を邪魔するな!」
「ふふ、かまいませんよ。みながきをもむのもわかります」
「ここは随分落ち着いてるね」
「うむ、佐助もまだまだじゃのう」
静かな一帯で騒がしくしたせいか、その一帯に身を置く謙信に付き従うように座していたかすがには一喝された。そんなかすがを謙信が穏やかに宥め、佐助は信玄ににやりと笑まれた。もうこの雰囲気の中にいると、焦っていた気持ちも少しは落ち着いてくる。
「あはー、大将、面目ないっす」
「あせることはありません。ついかばんか、ゆうりょうついかこうもくをまてばよいのです」
「大人の事情言ったよこの人!」
「だから佐助!謙信さまに無礼な口をきくな!」
穏やかに笑みを浮かべながらの謙信の言葉がさらりと流れていくのを見送れば良かったのだが、佐助はもはや条件反射のように拾い上げてしまった。武田で得たものってなんだっけ、とかすがの言葉を聞きながら、佐助は自己嫌悪に陥ってしまった。
「ぼ、僕は、ゆっくり鍋を食べたいから……わざわざ怖い所に行かなくても」
「おや、なりませんよ金吾さん。秘境にこそ金吾さんの大好きなものがあるかもしれないのですから」
「あれあんたさっき」
「さて、なんのことでしょう?」
「既にバレてるのにはぐらかした!」
どうやら既に出たいわけではない人物もこの一帯にいたらしい。やたら食べ物の良い匂いが漂っていると思えば元凶は秀秋だった。国主としてどうなのかという理由を口にした彼を優しく、多分優しく諭しているのは、光秀、ではなく天海だと言い張る謎の僧。今、謎と言い張るべきか、佐助以外に言及する人物はいなかった。
「卿達は騒がしいな。私は時節の挨拶を欠かさない人間でね、品を選んでいるのだ。気が散る、静かにしてくれたまえ」
「松永……あんたそれ賄賂!?」
「なに、大人の常識というものだよ。しかし、あの帝という男は、何やら素晴らしい宝を持っているように思わんかね」
「こいつ、出る気でいやがる……!」
静かに、しかもいつの間にか輪に鎮座して何やら書物を捲っていた久秀は、佐助を不愉快そうに見ながらも、手を止める気配はない。本気で、彼はどんな手段を講じてでも出るつもりで、二人組の相手についても既に頭にあるらしい。
「風魔を呼べば組み合わせなど実に些末な問題だよ」
「な、何を!風魔は儂の忍ぢゃ!お主の好きには!」
「選ぶのは風魔だ。私は働きに見合う報酬を風魔に与える用意がある」
静かな雰囲気に火種を放り込んだ久秀は、その矛先となった小太郎と氏政を愉しげに眺めるだけで、わざわざ収束をつけるような男ではない。
「だからこれ誰がどう収拾つけるんだっての!!」
周りは全くあてにならず、落ち着いてくる気配は一切ない状況。もう佐助の中の許容量は限界を越えていた。その叫びが通じたのかどうなのか、この場にどこからともなく禍々しい空気が溢れ出していく。
「余は欲界より甦りし第六天魔王ぞ」
「人間界から来てください!」
「むう……是非も、無し……」
そうして姿を現した第六天魔王、織田信長。背には空気と同じく禍々しい魔のものを従えていた。あ、これ収拾つかないかも、と佐助は思ったのだが、奇跡的にその場の意見が一つにまとまった。
皆が声を揃えたおかげかどうなのか、欲界から復活した魔王、信長はすごすごと帰っていくのだった。
「……で、向こうの方々は?」
「向こうの金色に輝いてる方は、出る出ない関係なしに鍛えてたり戦ったりしてるな」
「あとは、モブ止まりだろうと諦めてる奴らと」
「好いて下さる皆様がいるが、今後が全く分からない地方領主にござる……」
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