あ、あれ石田三成じゃ、と慶次が言い終わるかどうかという瞬間、件の男、三成は踵を返して駆け出していた。慶次と共にいた秀吉や半兵衛までもが、その素早さと三成の行動にぽかんとする程、彼らしからぬものだった。秀吉達には、不思議なことに前世の記憶があった。かつてとは違う世で、それを持ち出しいがみ合う理由はなく、今の三人は良い友人同士である。
先ほど駆け出していった三成は、果たして前世の記憶があるのかという疑問は抱けなかった。秀吉や半兵衛を見た瞬間の三成の表情が、如実にそれを語っていたからだ。今生では初対面も同然な三成の瞳が秀吉を捉えた瞬間、びくりと驚愕に見開かれた。それは紛れもなく、三成は秀吉を知っているということ。
「どうしたんだろうね」
愁いを交ぜた半兵衛の一言は、三成を案じているよう。うむ、と唸る秀吉だって、同じように思っているだろう。慶次はそんな二人に、かつての記憶の中の三成を重ねようとしても、できなかった。
豊臣の中にいた頃の三成を慶次は知らず、憎悪と復讐の黒い炎に燃える三成だけが、色濃く残るだけ。果たして二人にとり、三成はどんな存在だったのか。愁い案じる位だから、気にかけていたのだろうか。三成が駆けて行った方向をじっと見つめ、慶次は首を捻るしかできなかった。
秀吉と半兵衛から逃げるように去っていった三成は、そのまま自宅へと帰っていた。バタンと玄関を閉めると、そのままズルズルとへたりこんでしまう。二人との再会は、三成自身全く予期していなかったのだ。
三成もまた、前世の記憶を持っていた。持っていたがゆえに、今の三成は潔癖とも言えるほどに豊臣と関わる全てを避けている。それどころか、前世で関わりのあった人間とも全く交流を持たなかった。繋がりが分からないのだと、いつ豊臣の話題が出るかと思うと、関わり合いたくなかったのだ。
三成に色濃く残る前世の記憶は、豊臣こそ全てであった自分が、何より豊臣を冒涜したも同然にしか思えない。そんな自分が豊臣と関わる資格など、あるはずがないのだ。そう思い込んでいた三成は、もう秀吉たちと遭遇しないようにしなければと、一人心に決めた。
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