どこの部屋も鍵のついていないボロアパートにそぐわぬ、鍵を開ける音。三成の部屋だけは本人の意思により鍵が取り付けられていた。曰く、ここへやってきてまずしたことだと。鍵がなければ居留守が使えないからだとも言っていた。それくらい、三成は他人を部屋に上げたくはないらしい。自分は遠慮もなしにワシの部屋の扉を蹴り開けるというのに、とは口に出さなかった。
そんな三成と親しくなり、部屋を見せてくれるようになったのだから、随分な進歩だと思う。ピアスやタトゥー、アクセサリーも相俟って、かたぎには見えない三成の私生活の一端が見られるのだと思うと、妙な緊張に襲われる。ギィ、と軋ませながら扉が開かれた。
三成は無言のままで、それがさらに緊張を助長させる。思わず生唾を飲み込んで、いざ入ろうと決意した矢先。
「入ったら鍵をかけておけ」
そんな三成の一言と共に、扉は閉まった。迎え入れるとかしないのかと内心で文句を付けてみたが、そもそも三成が誰かを招き入れた場面を見たことがなかったから、慣れていないだけだと勝手に結論付けた。何せ三成の元には、宅配便すら届く様子もないのだ。
「お、お邪魔します」
恐る恐る玄関を開けると、やはり間取りは同じだった。扉を閉め、言われた通りに鍵をかけると、三成のいつも履いている革の靴が一足あるだけの玄関先で靴を脱いで奥へ向かう。
さして広くない部屋にはほとんど物がなく、まるで引っ越しでもするんじゃないかと思う位だ。窓の脇に束ねられたカーテンは黒く、やっぱり留守中に窓を見たら真っ黒だったのは見間違いじゃなかったらしい。家具らしい家具は三段のチェストが一つあるだけで、三成の私生活が益々想像つかなくなった。何もない床に座布団を一つ敷いた三成は、ワシに目でそれを示す。座れ、ということらしい。しかし座布団はそれしかないらしく、三成は床に直接座った。
じゃあ、と座布団のある方へ足を踏み出した瞬間、台所が視界に入った。
「み、三成、台所……」
「使わん」
台所には文字通り何もなかったし、掃除はされている綺麗さは最早入居した時のままかと言わんばかりだった。そもそもガスコンロどころか冷蔵庫、レンジすら見当たらない。まな板も包丁も、食器らしい食器までもだ。
あいつ飯食うのか、と近所で散々言われている上に、パン屋でパンの耳を持たされる理由が良く分かる。というか、引っ越してきて今まで、三成の部屋から料理をする音も匂いもしなかった。
「茶くらい淹れてやる」
唖然としたまま座布団に座ると、入れ替わるように三成が立ち上がった。三成の座っていた場所には、ペットボトルの水が一本あるだけだ。さてあの台所で三成がどう茶を淹れるのか、興味本意で視線を動かすと、何故か台所に備え付けの引き出しから電気で湯を沸かすケトルと急須、そして茶筒が出てきた。ついでに湯飲みに使っているらしいマグカップが一つ。
マグカップはどんなに眺めていても一つしか出てこなかった。
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