路地裏婆娑羅町

BSR/現パロ/家康/バラック群やボロアパートの密集する区画で暮らすワケありな人たちのことを考える家康の話

 隣人について知っていることを、家康はつらつらと並べ立ててみた。なんのことはない、ただ何となく、手元のレポートが進まない現実から少しだけ逃避してみようと。片方の隣人、名前は前田慶次という男。このボロアパートの近くでパン屋を営む叔父と叔母とは親しいようだが、両親の話を彼の口から聞いたことはない。部屋には入ったことがあるが、よく分からない機材が所狭しと並んでいたことは覚えている。仕事はどうか分からないが、不定期に出かけているらしく、夜中だったり昼間だったり、よく玄関の開く音や足音が聞こえてくる。
 慶次は、引っ越してきたばかりの家康に周辺の家やアパート、駅までの近道を教えてくれた。この辺りに住んでいる人たちも、癖の強い人が多いが、慶次とは親しげに接している姿を家康もよく見かける。初めて知り合ったのが慶次で良かったと、家康は切に思う。と、外から軽快な足音が聞こえる。壁の薄いこの木造アパートでは、その足音が誰のものかも良く分かってしまう。慶次に間違いない。その証拠に、直に慶次の部屋の玄関の扉が開く音がした。

 さて、もう一人の隣人、名前は石田三成という。彼こそ、果たしてどんな生活を送っているのか、隣に住んでいてもさっぱり分からない男だ。玄関に鍵などついていないことが普通のこのアパートにおいて、どうやら彼は自費で鍵を付けたらしいとは慶次の弁。しかも訪ねてくる人間も殆どいないという。昼間は外出していることは、家康も知っている。だが、その風貌は一般的な仕事に到底就けそうもないことが、三成の日常を想像しにくいものにしていた。
 ピアスが沢山ついているし、耳の一部など穴が拡張されている。耳だけではない。眉や口にまでついているのだ。家康は勝手に、臍にもピアスがついていそうだと思っている。見たことはないが。そして首や手首、指にもシルバーアクセサリーが沢山あった。三成の髪の色に似たアクセサリーたちは、手入れでもされているのか、いつ見かけてもくすむことなく輝いていた。極めつけは、あまり血色の良くない肌に浮かぶタトゥーの数。この辺りで彼ほどのタトゥーを入れた人間はいない。首筋、シャツから覗く胸元、腕、手首、様々な場所からタトゥーが見えるのだ。
 引っ越しの挨拶をした時に、いきなり三成と対面したときの家康の笑顔がひきつったのは言うまでもない。そんな風貌で、しかも彼は無愛想でぶっきらぼう、目付きも鋭いのだから、一般的な仕事をしている姿など想像できる筈がなかった。慶次なら、客商売が似合いそうだと思うし、時折叔父夫婦の店を手伝っている姿を見たこともあるが、三成をこの辺り以外で見かけたことがない。
 試しに、三成の仕事についてこの近所の面々に聞いてみたこともあるが、売れないアクセサリー屋だのどこぞの組の若頭だの、危ない店の店員だの、ヒモだのと、家康の予想を越えたバラバラな返答ばかりだった。一度だけ、本当にその時だけ、三成本人に問う機会はあったが、貴様には関係無い、の一言で終わってしまったので、結局今も三成の生業は分からないままだ。ちなみに慶次の仕事については、自他共にフリーターという返答があったが、彼の部屋の物はフリーターだけで買えるものではない気がする。

 この近所の面々は、一部を除けば親切だが、深く踏み込むことは、何となくはぐらかされているような気がする。家康はそれを嫌だとは思わないが、たまに置いてきぼりを食らうような寂しさもあった。それだけ、この場所はすっかり居心地が良くなっていたのだ。