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クラビネットさん
2023-12-16 18:46:52
4510文字
Public
M.A.R.K.
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食わず嫌い
高級な食べ物を避けるルーくんとM.A.R.K.の皆さんのお話
誰ロクネタバレはありません
「これはメロち宛、こっちはルーちゃん
……
おっ、いいのもらってんねー」
「おお、今回も差し入れ沢山貰いましたね」
「そうなの! キラも手伝ってー」
「もちろん」
ライブを終えウィッグやメイクを落として控室にやってきたM.A.R.K.のドラマー、キラを待っていたのは、同バンドのギタリスト兼ボーカルのアキと、ローテーブルに並べられた大量の包みや手紙類。全て先程のライブに訪れた観客からの差し入れだ。
どれだけ人気になろうとも、自分たちを支えてくれた地元を離れるつもりはない。そう話すリーダーでありベーシストのメロの考えを否定しようとするメンバーはこのバンドにはいない。知名度が全国レベルになろうとも、M.A.R.K.はこれまで通り地元のライブハウスでM.A.R.K.らしい演奏をし続けるだろう。
「アタシたちの曲を聴いてくれるだけでも嬉しいのにさ。やっぱこうやって心のこもった手紙や、お菓子やグッズをもらえて。アタシたちに喜んでもらいたい! って思ってくれてるファンがたくさんいるのって、幸せなことだよね」
「メンバーによって差し入れが異なるのも興味深いですよね。アキさんは美容系グッズが多いとか」
「それ! ほんっと助かるの! 気になってた新作を『オススメです』って教えてくれたりとか!」
アキが美容に気を遣っているということは、M.A.R.K.のファンであれば誰もが知っている情報だ。音楽雑誌のインタビューまでチェックしているのであれば、メロが甘いものが苦手であるということも知っていてもおかしくないだろう。
「前にインタビューでるうくんが『カニカマが好き』と答えて以降、るうくん宛の差し入れに福井のかにパイとか松葉のカニ煎餅とかが突然増え始めたのには笑いましたね」
「さすがに生ものは差し入れNGだからねー。なんとかカニカマに近づけようとしてるっぽいけど、ルーちゃんはビミョーな顔してたよね!」
「結局手をつけなかったんでしたっけ」
「そう! 今回ももらってるけど、ルーちゃん食べるかな
……
」
「オレがなにしてたって?」
その声に二人が顔を上げれば、控室の扉の前には噂をしていたメロとルーが立っていた。メンバー最年少でありキーボーディストのルーは楽しいことでもあったのかニヤニヤと上機嫌に笑みを浮かべており、対するメロは呆れ顔で隣に立つ彼を見つめている。
「遅かったですね、二人とも」
「おー。うちのクソガキが他所様にちょっかいかけに行きやがってな」
「まーたルーちゃんは周りの人とメロちに迷惑かけて!」
「だって目が合ったんだもーん」
「ポケモントレーナーかな?」
口が悪いと見せかけて根は真面目で場を上手く仕切るメロ。
いつも明るい笑顔を浮かべ場を盛り上げるアキ。
揚げ足取りが趣味で場をかき乱すのが好きなルー。
マイペースで達観しており場に振り回されないキラ。
人気ロックバンドM.A.R.K.は、人間性は異なれど、音楽の方向性は一貫しているこの四人で構成されている。
「アキ。ファンからの差し入れ、スタッフから受け取ってくれたか?」
「うん! 今仕分けてるとこ」
四人全員に向けたもの、メンバー個人に向けたもの。大きさも色も様々な差し入れの数々。
金をかけようがかけまいが、聴ける曲が変わることはないのに。そう言って笑うルーをメロが嗜める。
「そういやルーちゃん。いいやつ来てるよ!」
「いいやつー?」
「ほら。チョコ!」
アキがルーに手渡したのは、質のいい包装紙に包まれたチョコレートの箱。『ルーくんへ』と小さなメッセージカードが挟まれている。
ルーはチョコと言われて目を輝かせながら受け取るも、包装紙を見たキラが呟いた店名を聞くや否や、あからさまに顔を顰めた。
「
……
ゴディバ?」
「そう! 嬉しいでしょ!」
「オレ知ってるよ。高級チョコでしょ? 胃もたれするからきらーい」
「えー! ゴディバ嫌いな人とかいるの!?」
「目の前にいるが?」
「メロちはそもそも甘いもの全般苦手なだけじゃん。ルーちゃんはチョコ好きなのにゴディバは嫌いとか、そんな話ある?」
「きらいなモンはきらいなの。アキにあげるー」
「えー
……
?」
メッセージカードが挟まれたままの箱をアキに押し付ける。無理矢理受け取らされたアキは困惑した表情で箱を見つめた。
ルーの性格は捻くれている。それは誰から見ても疑いようのない事実だ。だが、わざわざ好物に対して嫌いだと嘘をつく理由は三人にはすぐに思いつかなかった。
高級チョコレートを独り占めすることが申し訳ないからと自分たちに遠慮しているのだろうか。否、ルーが自分たちに気を遣えるような優しい感性を持ち合わせているわけがない。今日は珍しくチョコレートの気分ではなかったのだろうか。否、ライブ前にチョコレートが食べたいと口をこぼしていた。きっと今もチョコレートが食べたい気分のはずだ。
「そこまで言うんなら遠慮なく食べるぞ。アキが」
「ちょっとメロちー」
「どーぞどーぞ。オレはいらないから」
「騙されたと思ってひとつだけ食べてみません? きっとるうくんも気に入りますよ」
「だーかーらー。いらないってーの」
アキが仕分けていた自分宛の差し入れを見て、ルーが大きなため息をつく。
「高級チョコも高級そうなカニのお菓子も、オレは苦手なの。そーゆーの胃もたれすんの!」
■□■
「
……
キーワードは"高級"と見たね」
「ボクもそう思います」
「うわっ、二人とも冷静」
トイレ行ってくる、と言って飛び出したルーによって勢いよく閉められた控室の扉を見つめながら、各々が口を開いた。
部屋の中央に設置されたテーブルの上には、ルーに受け取られることのなかったチョコレートの箱が置かれている。メッセージカードのデザインである金箔がライトに照らされ、静かに光っていた。
「高級の何が悪いんだろ?」
「さぁ
……
?」
「逆にルーの好物をあげてみるか。まずサイゼ」
「ご飯行く時決まってサイゼに行きたい! って言うよねー」
「あ、関係あるかわかりませんけど。この前るうくんとちょっとお高めのイタリアンのお店の前を通りがかった時、『こーゆーの食べたら胃もたれしそう』って嫌そうな顔してましたよ」
「なるほど
……
?」
「あとカニカマも好きだよね」
「
……
そういやルー、『ホンモノのカニは味濃そうだからきらーい』って言ってたぞ」
「
……
つまりルーちゃんさ、食わず嫌いしてない?」
「確かに。高級イタリアンもカニも、胃もたれしそう、味が濃そうって言ってるってことは、実際には食べていませんよね」
「だからってなんでわざわざ高いものを食わず嫌いするかね。
……
あいつのことだから、理由なく適当に言ってるわけじゃないんだろうが」
「
……
」
解答があと少しで出てきそうな気配がするが、一向に出てこない。
どうしたものか、とメロが腕を組み直したところで隣に座っていたアキが徐に立ち上がった。
「
……
全部お皿に出しちゃわない?」
そう言いながら、チョコレートとカニ煎餅に手を伸ばす。
箱の中で小分けされている宝石のようなチョコレートに、一枚一枚個包装されているカニ煎餅。特別感を醸し出しているそれらは、一つの皿の中に並べられると途端に特別感が失われていく。
「
……
アキ?」
「これが高級菓子だと思ってるからルーちゃんは食わず嫌いしてるんでしょ? じゃあ全部開けちゃって、どこのお菓子かわからなくすればいいんだよ」
■□■
ルーが控室に戻ってくると、三人はテーブルを囲み皿に並べられた菓子をつまみながら談笑していた。三人が集まり何かを話していれば、それを見たルーは必ずと言っていいほど近寄ってくる。
「遅いぞルー。さっきのライブの振り返りの時間だぞ」
「んー。
……
なに食べてんのー?」
「スタッフさんが差し入れで持ってきてくれたの! 近くの商店街で買ってきたんだってさ。おいしいよ」
「へぇー。いっこもーらい!」
先程アキが皿に並べたチョコレートやカニ煎餅。
ファンが自分に贈ってきたチョコレートとは知りもせずにそのうちのひとつを手に取り、口へ運ぶ。瞬間、ルーは目を輝かせて再びチョコレートに手を伸ばした。
「え、めっちゃおいしいじゃんこれ! どこのメーカーのチョコなんだろ、これ」
「ルーちゃんもよく知ってるお店だよー」
「えーうそー。どこだろ」
「さっきるうくんも言ってたじゃないですか。ゴディバですよ」
「
……
は?」
二つ、三つと口に含み遠慮なくもう一つ、と伸ばされたルーの手が止まる。目の前のチョコレートとアキを交互に見つめ、わなわなと手を震わせた。
「だっ
……
騙したなアキー!!」
「でもおいしかったでしょ?」
「おいしかっ
……
たけど
……
でもさー!」
「食べもせずにおいしくないって決めつけて、贈ってくれた子の気持ちを考えもしないの、アタシはほっとけないもの」
そう言ってアキは例のメッセージカードをルーに差し出す。流石のルーもアキにそう言われると思うところがあるのか、気まずそうに目を逸らした。
「
……
無理に食べろとはアタシ達も言わんさ。ただ、ルーは見ての通り美味しく食べられたんだ。なんで食べられないと思い込んでたんだ?」
「カニ煎餅もそうですよ。だってるうくん、コンビニで売ってる海老煎餅は美味しそうに食べてるじゃないですか」
「
……
だって」
「だって?」
珍しく気まずそうに、珍しく言いにくそうに、ルーは口籠った。
「
……
ホンモノじゃん。高いんでしょ? オレの口には合わないもん。舌が安いから、もったいないし」
「誰がそんなこと言ったんだ?」
メロに問いかけられたルーは口をつぐみ、下を向く。なんとなく察しはついたが納得はいかない様子のメロが深くため息をつき、アキが差し出したメッセージカードに目を向けた。
小さなメッセージカードには、M.A.R.K.の曲に勇気づけられたことに対する感謝の言葉が綴られていた。
「
……
少なくともな。そのチョコは、ルーのファンがルーに食べてほしくて寄越してきたんだよ。そんな奴がお前には勿体無いって、言うと思うか?」
「
……
」
「もらったもんはありがたく頂いちゃいましょうよ、るうくん」
「
……
」
「だってここには、ルーちゃんを責める人なんて誰もいないんだしさ」
「
…………
ん」
普段の彼からは想像もできないほどに小さく、控えめな返事だ。それでも三人の耳にはルーの肯定の返事がはっきりと届いた。目配せした三人の顔には自然と笑みが浮かんでいた。
「よかったですね、るうくん。あ、せっかくですしカニ煎餅も食べましょうよ」
「
……
食べる」
「食べるのはいいが、夕飯入る程度にしておけよ」
「おいしそうだよねそれ! アタシにも一つちょうだい」
「
……
ダメ」
「!? けちー!」
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