無窓居室
2023-10-26 17:19:29
4128文字
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Trick or Treat

頂きもののお題「👦を驚かそうとして一つのシーツに包まっていたら偶然キスしてしまう😈👹」
トロッコ問題ショートが好きなので👦だけでなく👹と子ども達の絡みを書いてみました。本当はキャラ立ってる子全員出したかったし皆の仮装を描写したかったです。
後半は無窓のいつもの手癖のやつで、お題に添えているか分かりませんが書かせていただけて楽しかったです。


「さとしくん達がここを通るのはもうすぐですか?」
「た、たぶん
「ではもう少し奥へ隠れた方がいいですね、夜道で白は意外と目立ちます」
「おおう!」

 夕暮れどきも終わるころ、ブラックとアカネは住宅街の外れにある神社の植え込みの陰で、枝の間からうかがえる歩道を見ながら座り込んでいた。
 駅への近道から外れた歩道は人通りが少なく、ひそめた話し声でも辺りに響く。しかしもうじきこの道をさとしやひめ達が通るはずだ。ハロウィンの今夜、アカネは幽霊の変装をして子ども達を脅かそうとしている。本物の悪魔のブラックを引き連れて。

「あ、あのさ……悪いんだけど、もうちょい離れてくれないか?な、なんか落ちつかなくて
「一緒に隠れてて欲しいって言ったのアカネさんでしょう?」
「だって怖いじゃん!暗くなった後の神社の近くだぞ!いかにも何か出てきそう!!」
「カカカッ!!人を脅かそうとしている鬼さんの台詞とは思えませんねぇ〜」

 二人は体を寄せ合って大判の白いシーツに包まりうずくまっていた。いつかの掃除用具入れの中を思い出す距離。しかし今回はカメラちゃんや青鬼ちゃんもおらず、布の中は二人きりのちょっとした密室だ。

「そろそろ冷え込んできましたし、オレちゃんとしては近づいて欲しいくらいなんですが。寒いのは苦手なんです。ほら、もっと人目につかない木立の奥で、一つの寝具に身を包んだまま温め合いませんか?」
「その表現やめろー!!」

 互いの体温で外より少しだけぬるい空気と真っ赤になったアカネの顔。すっかり暗くなった辺りをこわごわ見回しすり寄って来ては、慌てて離れるのを繰り返す様子は実にからかい甲斐がある。
 いきなり呼びつけられたときには悪魔を使役することの代償を教えてやろうかと思ったが、なかなか楽しい見返りがありそうだ。

「もうちょっと前へ出てもいいですか?オレちゃんから道が見えないので」
「ひゃッ!?い、いいけど……
「おっと、季節外れの蚊です。刺されないように」
「うわっ!!あ、ありがと

 耳元へ囁き声一つ、うなじへ指の先一つ落とすたびにアカネは飛び上がってうろたえる。ブラックは心の中で大笑いしていた。
 楽しいものだ。好きな女の子から好かれていると確認するための小さな作業の積み重ねは。たとえその好意が自分と相手で違っていようとも。
 この様子は撮影するまでもない。自分以外に見せる気はないし、ずっと心に留めておけるだろう。アカネが自分の恋を憧れと恋愛感情を混同した、麻疹のようなものだと気づいてしまった後でも。

「それにしても、こんな思いまでして何でおどかし役をやろうとしてるんです?ハロウィンを肝だめしか何かと勘違いしてません??」
「してないよ、あの世から先祖の霊や異界の魔物が人間界へ来る日だろ?」
「おや、意外ですね。正解です」
「失礼な奴だな!!で、いい子には魔物がお菓子くれて、そのお菓子を食べると一生食べ物に困らないし、おどかされたら健康に成長できるんだよな!」
「なんか色々混じってますね〜」
「アタシも人間達からすれば魔物だから、子ども達に何かしてあげたいなって思って」
「そのお気持ちは立派ですけど、そもそもハロウィンとは古代ケルトの祝祭がキリスト教化されたものと言われ

 雑学系の動画も嗜むブラックがYouTuberらしく知識を披露しようとしたとき、歩道から子どもの声が聞こえてきた。慌ててアカネが立ち上がる。

「来た!いくぞブラック、トリック・オア・トリー!!」

 勇ましく飛び出そうとしたアカネの足は、遅れたブラックと木の枝に引っかかったシーツに阻まれてもつれた。二人は布の中で絡まったまま、植え込みの中から歩道へ転がり出る。

「痛たた……ちょっ、何がどうなってるん……

 アカネが顔を上げた拍子に、二人の唇が触れ合った。ここまでのハプニングはさすがの悪魔も予想しない。次の瞬間に起こすだろうアカネのパニックに備えようとしたが、それは必要のないことだった。キスしてしまったと自覚したとたんアカネは気を失ったからだ。
 耳を塞ごうとした手で力の抜けた体を抱きとめる。そこへ子ども達の悲鳴が重なった。

「うわあああぁぁあ!!」
「キャーッ!!」
「な、なんだあれ!?」
「お化けですーっ!」

 突然、路上に現れた大人二人分の大きさはあろうかという不定形の白い物体。不規則に蠢くその本体から、人間のものによく似た二対の手足が突き出したり消えたりする様は、小学生にとってはさぞやトラウマものの光景だったろう。


 ***


「ハッピーハロウィーン!!」
「このお菓子おいしい!本当にひめちゃんとアカネちゃんで作ったの?」
「女子の手作りお菓子……こ、このお菓子に、ひ、ひ、ひめたんの手が、触れて
「はい肝田アウト」
「ごめんね。師匠とひめだけのパーティーの予定だったのに、さとしくんに話したらどうしても来たいって言うから。そしたら肝田くんもついて来ちゃって
「いや、ひめちゃんもどさくさに紛れて神杉のこと誘ってたじゃん」
「大勢でおしかけて申し訳ありません。これ、母から預かった手土産です」
「みゆだって手作りのお菓子で女子力アピールしたいみゅん!クラスの男子人気は渡さないみゅ〜ん」
「さとし、食い終わったらあっちでヌイッチやろうぜ!」
「いや、俺とかけっこで勝負だ!」
「お前らは何しに来たんだよ!!」

 アカネの家は詰めかけた子ども達でいっぱいになっていた。料理下手だった頃からむやみにキッチンが広い物件に住んでいたアカネだが、そこも今は満員御礼だ。
 一人暮らし用のテーブルに乗りきらないお菓子が調理台やコンロの上にまで並べられ、動物の尻尾やモンスターのお面など、仮装した子ども達がつまみながら盛り上がっている。

「元からパーティーを企画してたとは。それでさとしくん達があの道を通るタイミングを知ってたんですね。カメラちゃんと青鬼ちゃんも、どこに行ったかと思ってたら準備のお手伝いでしたか」
「じーっ!」
「ニーッ!」
「こんなに大掛かりになるはずじゃなかったんだけどな。追加の食べ物やお菓子を買いに行ってもらったから、チャンスだと思って」
「神社の前の道を通って帰ってくるよう師匠に言われたから不思議に思ってたんだけど、あんな歓迎サプライズを考えてくれてたなんてね」

 感極まった様子のひめがプリンセスの冠の形をしたカチューシャをつけてそばに来る。アカネの仮装をしげしげと見てから言った。

「それに、師匠のハロウィンの衣装とっても素敵!可愛いのに顔には血糊メイクなんてキッチュで高等テクよ」

 アカネはバルーン風に膨らんだパンツスタイルの魔女の仮装をしている。パンツのシルエットは季節柄すこしスマートなカボチャの形にも見え、バックスタイルの猫の肉球マークがアカネの吊り気味な目や時折のぞく八重歯によく似合っているとひめに絶賛されていた。
 アカネがシーツの中からしていた格好だ。幽霊の仮装で驚かせた後は、この姿で正体を明かしてパーティーに招待する予定、だったのだが。
 アカネは曖昧に笑っている。傍らのブラックは肩から黒いケープを掛けていて、実は人間界にない素材で仕立てられ〝提灯持ちのジャック〟の逸話を織り込んだ刺繍で縁取られたそれは、一着だけで悪魔の貫禄を充分に引き立たせていた。

「オレちゃんの魔力では目覚めさせるので精一杯でした、鼻血がそのままで済みません。でもま、結果オーライみたいですね!」
「あ、あぁ

 精一杯、というのはもちろん嘘だ。恋愛ごとに疎いくせにあんなことで鼻血を出す、アカネのアンバランスなところもブラックは気に入っていた。アカネはブラックと手錠に繋がれて一日を過ごしたとき〝あーん〟で鼻血を流したことすらある。
 当の本人はメイクのふりをした血の跡をとっくに拭いて、子ども達にお菓子が行き渡っているか確認しに行ってしまったけれど。誰にでも一生懸命に優しくするアカネの、自分にしか向けられない感情をいま少しばかり独り占めにしておきたかった。

(人間界に来たばかりの頃はさとしくんにも諭されるような子だったのに、いつの間にか不測の事態にも対応して、こんなに多くの人をもてなすことができるようになっていたんですね。人を楽しませたいって気持ちが大切なのは、ホームパーティーでもYouTubeでもきっと変わりません。アナタは立派になりましたよ、本当に)

 YouTuberとしても一人の鬼の女性としてもアカネには輝かしい未来がある。そこに悪魔の居場所はないのかもしれないし、それは喜ばしいことなのかもしれない。
 ブラックはすでに自分がアカネを愛していることを知っている。しかし、それが男としての恋愛なのか師が弟子を思う気持ちなのか父親や兄が娘や妹に対して抱く感情に近いものなのかは、分からない。
 いずれにせよ悪魔の愛情などいずれ彼女には必要なくなるのだ。来年はきっと自分の助けを借りずにハロウィンパーティーを開けるようになっているだろう。

「ブラックもほら、これ師匠が作ったのよ」
「分かりますよ、ブルーベリーと紫芋で色付けしたお菓子が重曹やレモン汁に反応しちゃってとんでもない色になってますから」
「途中まではひめと一緒に作ったんだから味はいいはずよ」
「ひめちゃんのは綺麗にできてるのに、相変わらずアカネさんは女子力ないですね〜」

 ブラックの胸中をいくらか察したのかそうでもないのか、ひめが皿に盛ったお菓子を差し出してくる。意地悪く混ぜ返しながら一つ口に入れると、ひめの言う通り美味しいもののやたらに甘く感じた。

「苦いコーヒーでも欲しくなりますね」

 口の中の甘味を噛み締めながら、自分が必要とされなくなる前に取って食おうかと考えていたアカネの魂を、今日のところは見逃してTreatされてやろうと悪魔は思った。


 ──Trick or Treat──


 2023/10/25