無窓居室
2023-09-13 22:45:36
1376文字
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並行同位体

撮り鉄きさらぎ駅回を見ておかしくなって書いた話。原作😈とアニメ😈👹が出てくるのでカテゴリ分けに迷いました。


 魔界の自室でパソコンに向かい、〝ブラック〟は撮れたばかりの素材に向き合っていた。ディスプレイには赤い髪の角のある少女が映っている。知り合いによく似た顔だ。自分ではない〝ブラック〟が連れて来た知り合いではない〝アカネ〟。事象は複雑なようで単純だった。

 別次元のブラックが偶然この世界のアカネに会い、それが別次元のアカネの知るところとなり、別次元のアカネが自分もこの次元のブラックに会ってみたいとせがむので、別次元のアカネに甘い別次元のブラックは言われるままに別次元のアカネを伴いやって来た──要するにこの世界ではないところから自分達ではない〝ブラックとアカネ(カメラちゃんと青鬼も)〟が物見遊山に来て、今しがた帰って行った──というわけだ。
 まるで夏の昼下がりに吹き込んできた夕立ちのような、他愛もない出来事。珍しい素材が撮れたのは収穫だったが、動画として形になるだろうか?そんなことを考えながら繰り返し素材を再生する。ディスプレイの中の〝アカネ〟はやはり知り合いによく似ていたが、目元の違いが分かりやすい。見た目の年は知り合いよりも少し上に、表情は少し幼く見える。かと思えば急に大人の女のような顔をする。恋をしているからだと、悪魔の目にはすぐに分かった。
 〝ブラック〟が今回の件で最初に興味を惹かれたのは、別次元の自分とアカネがなぜ密接に行動を共にしているのかという点だったのだが、何のことはない。並んで現れた二人を見て一瞬で理解せざるを得なかった。月並みな、つまらない理由だ。他ならぬ〝自分〟がそんなことにうつつを抜かしていることには多少の新しさを感じるが。

「まぁ、あの容姿と実力を持つ女の子にあんな頭の悪……ひたむきな想いを寄せられたら、大抵の男は参ってしまうんでしょうけど。俗っぽくてオレちゃんはどうもね。こっちの〝アカネさん〟は面倒がなくて良かったです」
「じっ」

 独り言のように口にした台詞に、助手のカメラ型悪魔が相槌を打つ。この存在だけは別次元のそれと会ってもさほど違和感がなかった。それでも自分の助手ではないことは分かったが。
 片腕でもある相棒の同意に勢いを得て、ゲーミングチェアの上で脚を組む。

「それにしても、あれはマジなんですかね。世界が違うとはいえ自分のあんな姿を見たくなかったですよ……

 別次元の〝アカネ〟に寄り添う別次元の〝自分〟はときに娘離れできない父親のように、ときに好きな子をからかわずにはいられない男の子のように、楽しそうに彼女のそばを離れない。かと思えば急に投げやりな表情をする。恋をしているからだと、悪魔の目にもすぐに分かった。

「どういう人で何を考えているんだか。自分が一番分からないというのは、少しは面白いですね」

 動画を止めてディスプレイの電源を落とす。編集作業はまた改めてだ。少女の姿が目の前から消えると、比較対象として思い浮かべていた知り合いの顔は一層くっきりとに脳裏に浮かび上がった。

「オレちゃんならあんな子には全然こっちのアカネさんの方が、絶対……
「じじっ!」
 
 良いタイミングで合いの手を入れられて、〝ブラック〟は半ば無意識に発した言葉を反芻する。助手のカメラレンズの眼が、全てを逃さず捉えるように光っていた。


   2023/07/28