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無窓居室
2023-09-13 22:29:50
2827文字
Public
午餐 その後
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宴席
「午餐 その後」「間食 その他」「ティータイム あるいは湖畔で朝食を」「テーブルフラワー」の後。これにてエピローグです。お付き合いいただきありがとうございました。
「これ、本気なのかなぁ
……
」
自宅のポストではなく子供部屋の勉強机の上にいつの間にか置かれていた葉書を眺めて、さとしは何度目か分からない溜息を吐いた。
葉書にはブラックとアカネの写真が印刷され、目を引く字体で「オレちゃん達、お付き合いを始めることになりました!これからもどうぞよろしくです!!」と書かれている。
調子こそ軽いがデザインセンスの良さといい、趣旨の伝わりやすいレイアウトといい流石は魔界のトップYouTuberだ。交際をしているはずのアカネが、いかにもやる気なさそうな顔で見切れているのが気になるが。対するブラックは不必要なまでにノリノリでカメラ──きっとカメラちゃんなのだろう──に向かってポーズを決めており、二人の間には見るものを不安にさせるコントラストが醸成されていた。
「ほんと大丈夫なのかよ、食べられても知らないんだから」
「大丈夫だ!」
葉書に向かって呟いたさとしの頭を、広く厚い手のひらが押さえた。そのままわしわしと乱暴にかき混ぜられる。
「あの悪魔がそう簡単に食われる訳ねぇ。鬼の方も滅多なことじゃやられねえだろ。二人していつまででも戦い続けられるぞ、オレが保証する!!」
「そんなこと保証されてもなぁ」
イー・チバンの力強い腕の下で困惑するさとしに、ビッグマックスが穏やかな視線を向ける。
「
………
」
「ごめ、具体的な内容がちょっと分かんないんですけど
…
」
「〝こういうことは二人の気持ちが第一だ、あれこれ案じず暖かく見守ろうではないか〟と言っているぞ」
「うーん
…
」
高度な人工知能による翻訳機能で助け舟を出したのはオールゲインだ。ビックマックスがゆっくりと頷く。そんなやり取りを横目に口を開いたのが旭川朝陽だった。
「そんなに意外か?よくあるパターンだと思うんだが
……
あの二人、大会が始まった時点で唯一の顔見知りだったし。ってことは命懸けの戦いに一緒に参加するのが満更じゃなかったってことだろ?」
「殺し合うことになってたかもじゃん!」
「ライバル心に隠されたお互いへの意識
…
喧嘩ップルってやつだな」
「そんな物騒なカップルよくある!?」
勇者パイロも朝陽の口ぶりに頷く。
「聞けばあの女、鬼という種族の族長らしいじゃないか。そういう高貴な身分の女性がお供一人しか連れずに私的な誘いに付いて来るなんて
…
それは
……
そういうことなんじゃないかな」
あくまで僕の世界の話だけど、とことわって話すパイロは、自身も身分の高い女性との間に何かあるのかほんの少し頬を赤くしている。
「高貴な身分かぁ、そういや悪魔の方も魔王だったな。違う種族の王と女王じゃ自由恋愛も大変だろ」
「僕らの世界に鬼はいないけど、魔族とエルフの道ならぬ恋なんてよくある話だよね」
「駆け落ちルートな。アリじゃないか?そこに愛があれば」
「
………
」
「ふむ。私もあれで娘の方が憎からず思っている側ではないかと感じたな。根拠は
…
」
次第に好き勝手に噂話を披露し始めた各世界の主人公達。ヒーローたるもの普段の重責もあって、ストレスを発散する場が欲しいのかもしれない。全員に葉書が届くや誰ともなくお祝いのパーティーをしようと言い出し、場所がなぜかさとしの家に決まった。
部屋の真ん中にはいつもブラックにご馳走になっているからと、皆が持ち寄った食べ物──見たこともない素材の異世界の料理から、駄菓子やファーストフードまで──が山のように積み上げられ、四方の壁には薄紙で作られた花と色紙の輪を繋げた飾りが張り巡らされている。サプらいおんが魔法で出してくれた装飾だ。天井から下がったくす玉を割れば「おめでとう」の文字と紙吹雪が舞うことになっている。
何だか良いな、と部屋を見る影もなくされながらもさとしは思った。
皆の言う通り、心配し過ぎることは無いのかもしれない。友達の新しい第一歩を、心から祝福してあげたい。
もう少しで自分を食うところだった魔物と友人の恋路を、さとしは本気で祝福しようとしていた。もっとも友人は更にとんでもない魔物でもあるのだが。
「ま、いーんでないの。ワシもばーさんとは若い頃よくやり合ったもんよ。喧嘩するほど仲が良いってな」
「店長、結婚してたの!?」
「店のオーナーじゃけど?」
「そんな設定あった!?喧嘩しても勝てないやつじゃん!」
「月のクレーターの約8割はワシとばーさんの喧嘩の痕じゃ」
「スケールでけぇ!!」
「は〜、僕もアメショのミーコちゃんに会いたいんですけど〜〜」
場の収集がつかなくなってきた頃、轟音と共に部屋の窓側の壁が壊れ、何者かが飛び込んできた。と思えばそれは目にも止まらない速さで外へ出ていく。人間であるさとしの目には、黒と赤の影が空中で何度か閃き合ったことしか分からなかった。
遅れて土煙が辺りを包んだ。さとしが土埃を吸い込まないように、誰かがバリアを張ってくれている。煙幕のようなそれが外気に流され視界が回復したとき、立っていたのは黒い人影一つだった。
「ブラック!!」
振り返ったブラックは武器の鎌を肩にかけ、アカネを腕に抱いている。その傍では戦いの様子を撮影していたのだろうカメラちゃんが飛び回っていた。
「お待たせしました皆さん。本日はこのような場を設けていただき、誠にありがとうございます」
流麗にお辞儀をするブラックの礼儀作法は実に堂に入っている。肝心の主役のもう一人が気を失っていること以外は。
バリアを破ってブラックに駆け寄ったさとしは一瞬息を飲んだ。弛緩した体を黒い腕に預け、じっと目を閉じているアカネの姿には、さとしがこれまでの人生で触れたことがない類の女性の美しさがあった。半開きの唇がいつか自分を狙ったことも忘れかけ、友人のどこか淫靡な仕草ごと見入ってしまう。
「アカネさんは恥ずかしがり屋でしてね。皆さんがお祝いして下さると言ったらどうしても行くのが嫌だと
……
なので〝説得〟して来ていただきました」
悪魔の幸せそうな笑顔というのは凄まじいものだ。さとしも背筋を震わせて我に返った。他の主人公達も周りに集まり車座を作り直す。
「おめでとう!何だかよく分からないけどお幸せにね」
「うむ、仲が良いようで何よりだ」
「
………
」
「料理は無事だぞ!魔法と気力バリアで守っておいた!!」
「やれやれ、世話のかかる奴だぜ」
「お菓子も沢山あるんですけど〜」
「まるで眠り姫じゃのぉ、キスしたら起きるんか?」
「それはいいですね!!眠ってるうちに皆さんの前で既成事実を作ってしまいましょうか!」
「じーっ!」
さとしは適当に盛り上がる客人達と、一方の壁が完全に無くなるほどの大きさの穴を交互に見た。
そして声の限りに叫んだ。
「一体なにが良いんだよ!!この悪魔ーーー!!!」
2023/08/26
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