Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
無窓居室
2023-02-16 03:49:09
6232文字
Public
Clear cache
クライムアンドペナルティ
👹が女の子らしいお洒落をして😈とデートする話。
ただし幸せな終わり方ではないです。
👸とみゆが仲良くなっててめちゃくちゃ出張ってくる。ファッション描写はなんか気の迷いなので読み飛ばして下さい。
「アカネちゃん、やっぱりすごく似合ってるみゅん!みゆの思った通りみゅん!!」
「なにが似合ってるよ、そんなごちゃごちゃした服とメイクじゃ師匠の格好よさが引き立たないでしょ!」
ファッションビル内にあるブティックの試着室で、小学生の女子達が女の子の衣装替えに沸き立っている。一人はパステルカラーの清楚なガーリーファッションに身を包んだひめで、もう一人は黒や紫ベースのコケティッシュなコーディネートのみゆだ。
二人に挟まれて困ったような愛想笑いをしているアカネは、下ろした髪の色より一段深い真紅のワンピースを着て、白薔薇の花が盛られたヘッドドレス風のカチューシャをつけていた。下に着た長袖パフスリーブのシャツは手首がたっぷりしたフリルになっており、ワンピースの裾にも薔薇の意匠のレースがあしらわれている。メイクがマットめに仕上げられていることもあってまるで人形のような装いだが、本人の表情や仕草は活動的な性格を隠せておらず、そのアンバランスさはかえって人によっては強く興味を惹くものかもしれなかった。
「
…
絶対にひめが選んだ方が似合ってたもん」
スマホに写真を映しだしながらひめは頬をふくらませる。一つ前に寄った店で撮った写真にはポニーテールを緩い癖のあるシニヨンに結び、リボンと同じ黒いジャージ生地のロングスカートを上品なピンタックの白ブラウスと合わせて、スツールに腰掛けるアカネの姿があった。スカートの蹴回しはたっぷりしているが、さりげないスリット入れられていて生地がもたつくことはない。メイクはグロスと目元に少しパールを入れただけのナチュラルなもの。スカートのラインの上からも分かる伸びやかな脚の先には、ヒール部分だけが赤い黒のハイヒールがワンポイントになっていた。
完璧だわ、とひめは思う。店に入ったときのジャージ姿とのギャップに店員の女性も驚いていた。あれは絶対に見惚れていた、と心の中でほくそ笑んだものだ。一つ隙があるとすれば、踵の高い靴を履き慣れないアカネの笑顔が引き攣っていることだが、それだって可愛げというものではないだろうか?
「大体なんで急に師匠をプロデュースしたいなんて言い出したのよ。おおかた自分とはタイプの違う美人を引き連れてればもっと男の子の目を引けるとか思ったんじゃないの?あわよくば引き立て役に使おうとか
…
」
疑わしげに問い詰めるひめに、みゆは大袈裟に泣き崩れて見せた。
「ひどいみゅん!みゆそんなこと思ってない!大切なお友達のひめちゃんと、憧れのアカネちゃんの役に
…
少しでも立てたらって
……
」
みゆの言い分はまんざら嘘でもない。ひめに対する嫌がらせを暴かれた一件以来、みゆの敵意はもっぱらブラックへ移っていたからだ。ブラックに対する恨みの深さに比べれば、アカネとひめに対する怒りくらいは水に流してやってもいい。などと本来みゆが言えた立場ではかけらもないことを、この子供は本気で考えていた。
しかし真っ向勝負であの悪魔に敵う手段などないことも分かっている。そんな折にひめがアカネに聞き捨てならない話を持ちかけているところに居合わせた。なんでも、アカネがどんな服でデートに誘えばブラックを虜にできるのか
……
と。
みゆとしてはこれに乗らない手はない。悪魔が女の子に骨抜きにされて靴を舐める姿を拝めたらどんなに痛快だろう。それも自分が美しく飾り立てた女の子に
…
。
強引に二人の間に割って入り、自分のお気に入りの店が入ったファッションビルへ連れて来たのはみゆだ。一々ひめの横槍が入るのは煩わしいが、準備は概ねみゆの企み通りに進んでいる。それに、土台は良いくせに自分の装いや化粧となるとちょっとの事にも驚き騒ぐアカネを、流行に敏感なひめと一緒にスタイリングしていくのは、みゆにとっても予想外に楽しい作業でもあった。
「みゆは本当に心を入れ替えたみゅん!信じてひめちゃん、アカネちゃん!!」
「分かったよ、もういいからこれで涙ふきな」
今はとりあえず落ち着いているアカネがハンカチを差し出してくれた。甘くドレッシーなワンピースには不釣り合いな凛々しい笑顔と物腰。たまたま試着室を通りかかったロリータ風の店員が息を呑むのが分かった。ギャップ萌えというやつだろうか。こうなれば狙うはひめだけである。
「
……
ところでひめちゃん、みゆがアカネちゃんで男の子の気を引こうとしてるとか、引き立て役にしようとしてるとか、妙に具体的に疑ってきたけど
…
まさか
……
」
「も、もちろん信じるに決まってるよ!ひめとみゆちゃんはもう親友だもんね〜!!」
アカネと初めて出会った頃の自分の画策を言い当てられそうになり、ひめは慌てて方針を転換した。
社交に敏感な女の子は幼いうちから戦争の理論を知っている。すなわち敵に回したくない相手は早々に内側へ引き込み、共謀関係になってしまえばいいと。それに、ひめにとってもみゆと一緒になってアカネで着せ替え遊びをするのは、想像よりずっと楽しい作業になりつつあった。
結局アカネの服装はひめとみゆとの折衷的な案で決まった。裾がフレアになった丸襟の七分袖ワンピース。襟には白い花弁と黄色い芯の可愛らしい花の刺繍が施され、遠目にピンク色と思える生地はごく細かいストロベリーレッドのドット模様になっている。その色をよく見れば刺繍が何の花なのか分かるという趣向だ。
ディスプレイに合わせられていたストッキングがチョコレート色だとみゆが言ったので、面白がったひめがベルトと靴をホワイトチョコレートに似たアイボリーで揃えた。
「ブラックはもっと黒いチョコレートが好きだと思うけど
…
ほら、お菓子のブラックライジングみたいな」
「えーっ、師匠それってブラックに食べて欲しいってこと?」
「きゃあああ!!アカネちゃん、初心なフリしてやっぱり大人みゅん!みゆ恥ずかしい!」
「そ、そんな訳ないだろーーー!!!」
そこからの騒ぎは言うまでもないだろう。勝手に話をエスカレートさせるひめとみゆの一言一句にアカネは真っ赤になって右往左往する。ほどなく二人はすっかり意気投合したようだった。
良かったな、と会話と着替えに疲れ果てたアカネは店員の賞賛を他人ごとのように聞きながら会計を済ませた。以前にアカネはブラックに女の子らしいおめかしをした姿を見せて、全く取り合われなかったことがある。今回だってきっと同じに決まっているのだ。あんな思いは何度もしたいものではない。
それでも二人の提案を受け入れたのは、思いがけずひめとみゆとが意気投合していたからた。みゆとの一件でそれまでちやほやしてくれていた友達から疑われる経験をしたひめのことを、アカネは少なからず気にかけていた。身から出た錆とはいえ、転校して早々にインターネットタトゥーを背負う羽目になってしまったみゆのことも。
二人が仲良くなってくれるなら自分がもう一度不愉快な思いをすることくらい我慢できる。大体自分はあの悪魔のことなんて何とも思ってはいないのだ。どんな反応があっても傷付いたりしない。ブラックの方だって、道端の石ころがどんな色をしていようが大して気にかけないだろう。
アカネがそんな風に自分に言い聞かせているうちに、約束を取り付けた日はやってきた。
ドットが醸し出す淡いストロベリーレッドのフレアワンピースを着たアカネは、ポニーテールの髪に少しだけウェーブをかけていた。ひめが前日の夜から仕込んだ力作だ。まだ風の冷たい日で、肩にはベルトや靴と共色のボレロを羽織っている。目立たないが優しい印象を与える化粧とネイル。全体的にロマンチックな装いではあるが、襟や袖口のクラシカルなデザインと女性的になり過ぎないシルエットの清潔感はアカネのボーイッシュな印象と溶け合って、彼女が本来持っていながら普段あまり見せない一面を強調するのに役立っていた。
ブラックの方はひめとみゆに何を吹き込まれたのか、濃淡のあるグレーのタートルネックとジャケット姿で現れた。ごくシンプルなありふれた服装とはいえ、あのブラックが自分と会うために着慣れた服を替えてくるとは思わなかったアカネはさっそく平常心を失った。
そばでは応援のためと称してついて来たひめとみゆが、主役を邪魔しない程度にぬかりなくお洒落して成り行きを注視している。二人の視線を浴びながらブラックのいつもの表情の読めない笑顔を前にしていると、まるで自分の体以外のところが丸裸にされてしまうような気がした。凝った服なんて着たばかりに。
「これはまた、珍しい格好をしてますね」
待ち合わせの店はティーサロンだというのに迷わずコーヒーを注文したブラックは、顎に手を添え脚を組んでアカネを見つめていた。考え事をするときの仕草だ。
アカネはひめとみゆから絶対これを頼むようにと念を押された、今日の服と肌の色を引き立てる色合いのハーブティーが注がれたティーカップを、飲むことも手から離すこともできずに固まっている。
やがてブラックが口を開いた。
「そのワンピースの色、よく見れば苺ですか。なるほどそこの刺繍は苺の花だったんですね?可愛らしい謎かけです」
せっかくのチークが無意味になりそうな羞恥がアカネを襲う。顔を通り越して耳で赤くなってしまっているだろう。ブラックは場の空気を和ませるように目を閉じ、呑気そうな声で言った。
「花のそばにあって赤い服を着た
…
つまり苺の実はアカネさん自身ということになりますね。それもミルクとホワイトのチョコレートフォンデュの苺といったところでしょうか。オレちゃん、チョコは大好きです。食べたくなっちゃいますねぇ」
ひめとみゆが目配せし合っているのが分かる。恥ずかしさで死にそうだったが、ブラックの方は何事もないと言った風に人間界のお菓子の美味しさに移してしまった。
女の子の興味を引きそうな話題を提供し、ときにはそれに関した動画を見せながら、適度に三人の服装や容貌への賛辞を織り交ぜていく。ブラックの話術の巧みさにアカネは呆れ感心し、そして密かに感謝した。
結果、小学生二人が期待したような劇的なことは何も起こらなかったが、ひめとみゆは満足したようだ。
「それじゃ、後は若いお二人に任せましょうか」
「賛成みゅん、みゆ達お邪魔になっちゃ悪いから
…
」
意味深な視線とともにベタな冷やかし文句を残して仲良く席を立つ。きっとこれから二人してブラックに教えてもらった近辺の最新お洒落スポットに繰り出すのだろう。
助かった、という思いと人形遊びに飽きられてしまったな
…
という思いが半ばしてアカネは苦笑する。しかし肩を並べて店を出ていく二人を見るのは単純に嬉しかった。愛らしい後ろ姿がアンティーク風の扉へ消えると、照れくさいのを我慢してブラックに向き直った。
「あの
……
服、よく見てくれてありがとうな。ひめとみゆが選んでくれたんだ。でもアタシこういうの着てどんな風にしてたら良いか分かんなくって
…
話を繋いでくれて助かったよ」
さっきまで身を焼かれるようだった羞恥は今では胸の奥をちりちりと焦がす熾火になっていた。少しだけ、心地よく感じないこともない。ぬるくなったティーカップが優しくアカネの手を暖めて、諦めていたはずの期待を揺り起こさせる。もう一度だけ、今ならもしかしたら
……
と。
きっと、だから、こんなことを言ってしまったのかもしれない。
「なあ、可愛いって本当?アタシのことちょっとでもそう思ってくれたのか?
…
また、こういうの着てこういう店に来ればそう言ってくれる?
……
ほんのたまにでいいから」
思い切って一息に言い終わったアカネは、そこで初めてブラックの表情の変化に気づいた。形としては少しの表情筋の動きもない、仮面のような笑み。それがいつの間にか不穏な気配をはらみ、危険を感じさせるものになっていた。動画の獲物を見つけたときよりも更に凶々しい。
「アカネさん。アナタはひどい人ですね。もしオレちゃんがアナタに今日の化粧をして、爪を塗って、それが剥がれないような仕草を毎日要求したら。今日と同じような服を会うたび着てくるように言ったら
……
アナタ三日と持たずうんざりして離れていくくせに」
言われた言葉の意味をアカネはすぐには理解できなかった。ただ自分の発言が、もしくはそのずっと前からの言動全てが、相手の気分をひどく害していたらしいことを知って唖然とする。しかし一体どうして。
ブラックの手元には冷めたコーヒーカップが置かれ、内側に僅かに残った黒い液体はなにか悪い出来事の残滓のように見えた。
「オレちゃんの好みなんて本当はどうでもいいくせに。わざわざめかし込んで心にもない言葉を言ってみせるなんて
…
悪魔なら心が傷つかないとでもお思いですか?」
周囲の物音が遠くなっていく。周りの客やウェイトレス達はどこへ行ってしまったのだろう?もはや二人が居るのはティーサロンではないどこかで、昼下がりの日差しが差し込んでいたはずの窓の外は魔界でも見たことのない異様な色に染まっていた。
「可愛い子達でしたねぇ、あんな女の子にちやほやされながら飾り立てられるのはさぞ楽しかったでしょう。もしかしてご自分があの二人の仲を取り持った気でいるんですか?さしずめオレちゃんはアナタ方の無害な玩具といったところですね。他の男と違って
…
」
どんな感情から出されているのか分からない声はひどく優しく、だからこそたまらなく不吉だった。アカネの鍛え上げられた腕力や俊敏さが今は何の役にも立たない。恐怖よりも相手を傷つけてしまったというショックで動くことすらできないアカネに、ブラックの手が優美に伸ばされた。
「オレちゃんアナタには気長につきあってきたつもりです。しかしいくらお人好しの悪魔でも、行き過ぎたイタズラにはお仕置きをするものですよ
……
」
我に返ったときには広い建物の中にいた。休憩用の布張りのソファに体を預けて、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
気分を盛り上げる明るい照明とBGMのメロディ。イベントやセールの広告で埋まる壁の掲示スペース。持ち上げた視線の先ではひめとみゆが額を寄せ合ってルックショッピングに勤しんでいる。
アカネは今日、ひょんなことから同じ店で買い物の予定があることを知り、急速に距離を縮めた二人に付き添ってファッションビルへやって来たのだった。自分の服を買う予定はない。
こういう場所に詳しくない分、荷物持ちくらいはしてやるつもりだったのに、連日の動画撮影の疲れと効きすぎた暖房のせいでついウトウトとしていたようだ。眠っている間に何か──なにか、とても変な夢を見た気がするが、夢なんて大抵変なものだろう。
「大丈夫?師匠、顔色がよくないから休んでて。今日は無理に来させちゃってごめんなさい」
振り返ったひめが心配そうに言う。それに首を振って大丈夫だと立ち上がった。
人一倍健康なアカネは自分の体にあまり頓着しない。憶えていない夢の中で悪魔に掴まれた左手首に、彼の指とぴったり同じ形の痣があることにも、気づかず過ぎていくのかもしれない。
2023/02/16
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内